【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.36 上場企業を上回る、スタートアップの年収 |Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.36 上場企業を上回る、スタートアップの年収

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.36 スタートアップで働く

日本経済新聞社が実施した2022年「NEXTユニコーン調査」において、調査対象のスタートアップ172社の平均年収が約650万円となり、東京商工リサーチが発表している上場企業の平均年収約605万円を45万円、約7%上回るという結果が出たというニュースが出ていました。ちなみに前年比からは8%の伸びの結果だそうです。

スタートアップ年収、上場企業を7%上回る 650万円 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05AU70V01C22A2000000/

上場企業の社員の平均年齢はおそらく40歳程度、スタートアップは30歳前後であろうことを考えると、同じ年齢でみた際の(平均)年収差はより開きそうです。調査の対象となっているのはある程度有望なスタートアップ172社にフォーカスされているとはいえ、大企業からスタートアップへ転職してみようと思う人がますます増えそうだなとシンプルに感じました。

僕の経営するサマリー社でもそうですが、スタートアップには退職金制度がないところがほとんどで、その点においては大企業の環境の方が恵まれているかもしれません。ただ大企業の退職金も、終身雇用的な働き方で定年まで勤めあげないと満額もらえないことも多く、転職する人にとってはそこまでの位置づけでなくなっている場合もあります。

またスタートアップではストックオプションが付与されるケースは少なくないです。ストックオプションは退職すると行使できなくなる場合も珍しくなく、退職金というよりは成果報酬方式のボーナスとしての意味合いが強いものになります。将来の可能性に賭けてベンチャー企業で働く際の小さくない金銭的インセンティブのひとつです。

少し前まではスタートアップで働く魅力は金銭というよりはやりがいがメインだった側面も大きかったようにも思いますが、スタートアップ企業の数が増えるにつれて採用の競争も年々激化し、かつ二桁億円規模の資金調達のハードルも随分下がった今、優秀な人材を採用するために、スタートアップの給与水準は大企業に準じる、ないしはそれ以上になってきているのは自然の流れとも思えます。

今オフのメジャーリーグの年俸の上昇の加熱度具合も実にそれを物語っている例だと思いますが、人材の流動性を高めていくことは日本の賃金の底上げのためには非常に重要なことです。会社を選べばそれなりの待遇のところはスタートアップの中にもこれまでもあったものの、そもそも一般論として上場企業よりスタートアップのほうが平均給与が高いらしい、という事実は転職予備軍にとっても大きなインパクトを与えることは間違いがなく、こういった調査結果をトリガーにして優秀な人材がコチラ側にさらなる勢いで流入してきてくれるようになることは、スタートアップの立場としては両手をあげて大歓迎です。

新卒で入った会社で定年まで、という働き方自体、すでに珍しくなってきているような気もしますが、スタートアップで働いているということも一般的といえるところまではまだ少し距離がある気もしていて、徐々に外堀から埋まってきているようにも感じる嬉しいニュースなのでした。年末年始に今後のキャリアのことを考える方もいらっしゃると思いますが、ぜひスタートアップで働くというオプションもぜひ視野にいれてみてください。少し早いですが、よいお年をお迎えくださいませ。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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