アートで眺める東京の表象 | Numero TOKYO
Art / Feature

アートで眺める東京の表象

誰もが知っていると言うけれど、その全貌はわからない。人によってイメージが変わる。しかも移り変わっていく。謎めいた大都市——東京。その息吹をアートはどう映し出す? “東京の今”を感じる作品を、独自の視点でキュレーション。どんな気づきがあるだろう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年10月号掲載

目[mé]|『まさゆめ』

目[mé]『まさゆめ』2019-21年, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13 Photo : 津島岳央
目[mé]『まさゆめ』2019-21年, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13 Photo : 津島岳央

東京をモチーフにするのではなく、東京という空間自体をそのまま作品化してしまう。そんな試みが2021年に実現した。夏の短いひととき、実在する人の顔の巨大な立体物が、代々木と浅草近辺の隅田川上空に浮かび上がったのだ。目[mé]が仕掛けた「まさゆめ」は、メンバーの荒神明香が中学時代に見た夢を具現化したものであるという。誰のものかわからない顔が当たり前のようにドンと空間に存在する様子は、東京の有名スポットを瞬時にまったく見知らぬものに生まれ変わらせ、目撃した者に甚大なインパクトを与えた。

Photo:TAKESHI ABE
Photo:TAKESHI ABE

目[mé]
アーティスト荒神明香、ディレクター南川憲二、インストーラー増井宏文を中心とする現代アートチームとして2012年に結成。特定の手法やジャンルにこだわらず空間や観客を含めた状況/導線を重視し、不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする。主な個展に「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館/2019年)など。『まさゆめ』は年齢や性別、国籍を問わず世界中から募集して選ばれた“実在する一人の顔”を東京の空に浮かべるプロジェクトとして実施され、話題を呼んだ。 https://mouthplustwo.me/

Mika Kan|『A Happy Birthday』

菅実花『A Happy Birthday』2019年 © Mika KAN
菅実花『A Happy Birthday』2019年 © Mika KAN

ラブドールを加工してマタニティフォト風に撮影したり、自らの頭部をかたどった人形と自分自身のツーショット写真を撮ったり。見る側を混乱と混沌に陥れる画面で「リアルとフェイクの境界線は?」「人間とは、生命とは何か?」といった根源的な問いを突きつけるのが菅実花の創作だ。作品を眺めていると、なるほどアートとは見映えのする美しいものを作るだけでは足りず、大きな問いを自ら発して仮説を唱え続ける営みなのだと思い知る。現実の先にあるものを追い求める菅の姿勢が、変わり続ける東京の姿と重なって見える。

菅実花
1988年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院在学中にラブドールを妊婦の姿に加工した写真作品『The Future Mother』を発表。大衆的な写真文化と人形の文脈を交錯させた写真・映像作品を手がけ、生命と非生命、本物と偽物、過去と未来などの対比を攪乱する。主な個展に「The Ghost in the Doll」(原爆の図丸木美術館、埼玉/2019年)、「仮想の嘘か|かそうのうそか」(資生堂ギャラリー、東京/2021年)。2019-20年にかけて平野啓一郎の新聞連載小説『本心』の挿絵を手がけた。 http://mikakan.com/

IKEUCHI|『#2001』

IKEUCHI『#2001』2022年 © IKEUCHI Photo : Keita Suzuki
IKEUCHI『#2001』2022年 © IKEUCHI Photo : Keita Suzuki

21世紀に入ってこのかたテクノロジーは進化の一途をたどるも、実装面はスマホに集約されて随分スマートに仕上がっている。20世紀に想像していた未来世紀といえば映画『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』のごとく、もっとゴテッと機械的なものだったはずだけど。そんな「こうもあり得た」メカニックな未来像を顕現させるのが、IKEUCHIの作品世界だ。プラモデルや工業製品のパーツを駆使して、人が纏う架空の装置を作り上げる。手触りの刺激を伴うモノとしてのカッコよさは、メカ萌えな人のみならず万人に訴えかけるものがある。

イケウチ
1990年、東京都生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科の卒業制作でプラモデルを組み合わせたハイブリッド・ジオラマを制作。「アルスエレクトロニカ」への招待参加、バレンシアガ 2022年春夏キャンペーンヴィジュアルへの作品提供など、国内外から高い評価を受ける。本作は、サイバーパンクSFを代表する作家ウィリアム・ギブスンの短編小説『ガーンズバック連続体』のような“過去から見た未来”を、映画『ブレードランナー』のイメージで再構築したもの。
https://ikeuchiproducts.com/ Instagram:@_ikeuchi

Kenta Cobayashi|『Tokyo Débris』

小林健太個展「Tokyo Débris」(WAITINGROOM、東京/2022年)個展イメージ画像 ©️Kenta Cobayashi, courtesy of the artist and WAITINGROOM, Tokyo 展示協力:XYZA.IO
小林健太個展「Tokyo Débris」(WAITINGROOM、東京/2022年)個展イメージ画像 ©️Kenta Cobayashi, courtesy of the artist and WAITINGROOM, Tokyo 展示協力:XYZA.IO

撮影した写真をデジタル加工で大胆に変形させて、どこにも存在せず誰も見たことのないイメージを生み出すのが小林健太の創作だ。『トーキョーデブリス』は渋谷スクランブルスクエア屋上から見た光景がもとになっている。高所からの東京中心部の眺めは、細かな無数のイメージのかけらが夕日に照らされ瞬いているようだったという。破片の集積として小林が再構成した東京は、極めて抽象的なのに「ああ、確かに東京ってこう見える!」という納得感にあふれる。リアルとフィクションが入り交じった、今の東京の肖像がここにある。

小林健太
1992年、東京都生まれ。東京と湘南を拠点に活動し、都市風景やポートレイトをデジタルで編集加工した写真で注目を集める。2019年にはダンヒル 2020年春夏コレクションとのコラボレーション、ヴァージル・アブロー率いるルイ・ヴィトン メンズ秋冬コレクションのキャンペーンイメージを手がけた。パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで開催された「COMING OF AGE」(2022年)、「THE PAST EXISTS」三越コンテンポラリーギャラリー(東京/2022年)をはじめ、国内外の展覧会に参加。 https://kentacobayashi.com

Masaharu Sato|『東京尾行』

佐藤雅晴『東京尾行』2015-16年 ©️Estate of Masaharu Sato Courtesy of imura art gallery
佐藤雅晴『東京尾行』2015-16年 ©️Estate of Masaharu Sato Courtesy of imura art gallery

東京五輪へ向け激しく変化していた2010年代の東京を題材にしているのが、佐藤雅晴のアニメーション映像作品『東京尾行』。12の映像の中に、90ものさまざまな東京の風景が次々と映し出されていく。よく知られたランドマークから何の変哲もない場所まで、ランダムに切り出された光景の数々は、どれもはっきりとした絵柄で描き出されているのに、なぜかすべてが陽炎のように揺らいだ印象に見えて不思議だ。背景は静止しているように見え、対象となるモチーフのみ動く様子が、物事の移ろいを強調し、儚さを増幅させているのだろうか。

Photo : Art Collectors'
Photo : Art Collectors'

佐藤雅晴
1973年、大分県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了後、ドイツ滞在を経て2010年に帰国。主な個展に「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴─東京尾行」(原美術館、東京/2016年)、グループ展に「六本木クロッシング 2019 展:つないでみる」(森美術館、東京)など。本作はがんの再発に伴い以前と同様の制作が叶わなくなるなか、モチーフとなる対象のみをアニメーション化する手法によって継続の糸口を見いだした作品。以降、映像の一部のみをアニメーションとして描くようになった。19年没。https://www.imuraart.com/artist/works/post_15.html

Akiko Higashimura|「NEO美人画シリーズ」作品NO.1『ソーシャルディスタンス』

東村アキコ「NEO美人画シリーズ」作品NO.1『ソーシャルディスタンス』2022年 ©Higashimura Akiko, neostory, No.1 social distancing, 2022.
東村アキコ「NEO美人画シリーズ」作品NO.1『ソーシャルディスタンス』2022年 ©Higashimura Akiko, neostory, No.1 social distancing, 2022.

『東京タラレバ娘』『私のことを憶えていますか』などヒットマンガの数々で知られる東村アキコが、NFTによるアート作品創作に乗り出した。美大出身であり「いつか絵でも勝負しよう」という思いをずっと抱いていたのだという。NFTで発表すれば世界中の人たちに見てもらえる可能性があることに、強い魅力を感じた。第一弾として制作されたのは「NEO美人画」と題したシリーズ。和服に身を包んだしとやかな女性像は帯の柄に合わせたマスクを着用しており、伝統的な絵柄であるとともに、東京の現在を強く感じさせるものとなっている。

東村アキコ
1975年、宮崎県生まれ。99年にマンガ家デビュー。近年の受賞歴に『東京タラレバ娘』(講談社/2019年米国アイズナー賞最優秀アジア作品賞)、『雪花の虎』(小学館/フランス・アングレーム国際漫画賞ヤングアダルト賞)など。日韓同時連載作品『私のことを憶えていますか』をアメリカ、フランスでも配信中。本作を含む現代アーティストとしてのNFT作品は、今年秋〜冬にAdam byGMOにて発表予定。
Adam byGMO公式ページ:https://adam.jp/stores/higashimura_akiko

Curation & Text : Hiroyasu Yamauchi Edit : Keita Fukasawa

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