清澄白河の新名所。ギャラリー型コンセプトストア「FAAR(ファー)」を訪問!
おしゃれエリアとして注目の集まる街、清澄白河の、ブルーボトルコーヒー日本1号店のご近所に、訪れるべき名所が新たに誕生した。そこは「SEEALL(シーオール)」デザイナー瀬川誠人さんが手がけるコンセプトショップ「FAAR(ファー)」。瀬川さんと言えば、Numero.jp連載企画「デザイナー訪問記」でも紹介しているが、服作りはもちろんのこと、アート、デザイン、音楽、食、ワイン、自然農、温泉など、カルチャーからライフスタイルまで多趣味で広く深い造詣の持ち主。そんな彼がオープンしたお店だから期待度マックスです。
倉庫を改装したシンプルな空間に、SEEALLの服作りに通じる精神性を持つファッション、瀬川さんの審美眼による選りすぐりのプロダクト、ヴィンテージ家具、日本の作家ものの器、アートブックが並ぶ。
1階は洋服、アクセサリー、シューズ&バッグといったファッションアイテム、その奥にガラスの扉で仕切られた、ちょっとしたギャラリースペースが用意されている。
「SEEALLを主軸にクリスタセヤ、ルメール、さらには、ヴィンテージの生地を使ったり、いわゆるファッションインダストリーとは一線を画す独自路線のフランク・リーダーのようなブランドも扱う。全体として言えるのは、トレンド押しのファッションというよりは、一貫した哲学とものづくりの背景にフォーカスしているようなブランドをセレクトしています。再生ポリエステルのコレクションを展開するCFCLのようにイノベーティブなものと、フランク・リーダーのようなクラフト感のあるものの両軸です」
ファッションコーナーの奥、ガラスの向こう側に見える部屋は、やや緊張感のあるかしこまった雰囲気を醸し出している。ここはヴィンテージの器や雑貨、日本の作家ものの器を展示するスペース。
「凛とした空間にしたかったんです。そのまま続いていたらなんとなく入ってしまうところを、気分をいったん区切る、少し敷居を上げるという意味でドアを設けました。でも透明だから中の様子は見えるし、自動ドアなのですっと入りやすい。少しだけ気を引き締めて特別な気持ちになってもらえれば。ディスプレイの仕方も、作品性を高めるために一つずつちょっと仰々しく置いています」
土ものの温もりやゴツゴツした有機的な存在とソリッドで無機質な空間とのコントラストが、一層作品を際立たせている。
内装は青山の「SKWAT」の仕掛け人DAIKEI MILLS(ダイケイミルズ)と瀬川さんの共作。店名「FAAR」とは、Functions And Alternative Researchの略だが、その名の通り「空間に多機能性を持たせる」をコンセプトに、どう区切り、どこにどう機能を持たせるかを突き詰めたミニマルな空間のアクセントになっているのが、材木を積み上げたかのような階段だ。「空間の中で唯一意匠を取り入れられるポイントで、ミニマルさもありながら、ナチュラルな素材感、積むという行為にアート性もある」と瀬川さん。確かにこの空間においては、インスタレーションにも見えてくる。
そんな階段を昇り、2階へ。床はカーペットが敷かれ、チェア、サイドテーブル、壁面の棚やキャビネットにはアートブックや器、オブジェなどが飾られている。ホテルのラウンジのような、リラックスして本を読むリビングルームのような印象だ。
「器と本を共通の色で見せています。本も作家さんの作品も精神性に共感できる、余白を感じさせるもの作りをしているものを置いています」。本は、Joseph Beuys(ヨーゼフ・ボイス)、Roni Horn(ロニ・ホーン)、Carl Andre(カール・アンドレ)、Doug Aitken(ダグ・エイケン)といった現代アーティストの作品集などTwelve Booksと一緒にセレクトしている。
とにかく店内の至るところに名品が散りばめられているが、日本の作家さんの作品とともに、さりげなく置かれている瀬川さんの個人コレクションの貴重なヴィンテージが、実は裏目玉アイテムだったりする。既に旅立たれたものは多々ありますが、一例をご紹介。中にはプライスがASKとなっているものも、臆さずASKしてみるのがポイントです。
そして、リビングコーナーの横、一段高くなったスペースにもヴィンテージの家具が。ここは自由な多目的スペースとして、家具、絵画、写真などの展覧会を行う予定だそう。
(左)Pierre Paulin(ピエール・ポラン)の「F444」の1982年に1年だけリリースされたというシートがメッシュバージョン
(右)Andre Cazeneuve(アンドレ・カゼナヴ)による通称ムーンロックランプ
店内のディスプレイ用にさりげなく使用されている家具も必見。Dieter Rams(ディーター・ラムス)やPierre Chapo(ピエール・チャポ)のキャビネット、60年代のUMS Pastoe(パストー)の外部デザイナー、Cornelis Zittman(コルネリス・ジットマン)のチェアなど、非売品もありますが宝探し感覚でぜひチェックしてください。
「FAAR」の建物の3階は、SEEALLのオフィスということもあり、その延長線であるショップには、利益を度外視した瀬川さんの好きなものだけしか置かない、まさに多趣味な彼の世界観がぎゅっと凝縮されている。今後はさらに多機能というコンセプトのもと、自身で育てた20種ものイタリアントマトなど無農薬野菜を販売したり、お気に入りのワインショップとコラボレーションをしたイベントも画策中。来るたびに新しい出合いがあることも魅力にしたいという瀬川さんの思いと感性をどう披露してくれるのか楽しみ。
東京都現代美術館でアート鑑賞をして、カフェに立ち寄るというコースに、ぜひ加えてほしい、いや加えるべきショップだ。
瀬川キューレーションによる作家作品&プロダクトをご紹介
鹿児島拠点の木工作家、盛永省治の木の器
「盛永省治さんの魅力は、生木を使うところ。普通、木工作家さんは乾燥させた木を使うので、きれいな真円が成形されているんですが、盛永さんの場合は、生木を水分を含んだまま削り出すので、成形後、乾燥させる段階で真円が歪んでいく。その自然の影響を取り入れた、偶然も作用することで完成する造形の美しさや鹿児島の山で伐採されている木を使うという姿勢が、僕もヤクの毛を無染色のまま使ったりするので、どこか近いように思っています」
土を探求する陶芸家、芳賀龍一
「芳賀龍一さんは、自ら土を求めて、その土地に掘りに行って自分で精製して作る希少な作家さん。普通陶芸作家さんは土を買っているので、どこにいても同じ質感のものが作れるんですが、芳賀さんは土に合わせて作るから作風が全然変わる。彼自身、土の調整は実験だと言うように、一点ものが多いのも魅力。土を作ることが自分の中の作品作りの8割で相当長い時間をかけている。土ができた後に、その土にあった造形を自然に整えてあげるだけというところが、糸や生地から開発する服作りに近いアプローチだと感じます」
皮革作家、上治良充のレザーのオブジェ
「上治良充さんというレザーを扱う作家さんで、もともと家具の革の張り替えをしていた職人さん。一見、木のようにも見えますが、薄いレザーを蒸気で丸めてから、樹脂で固めて、重ねたり、細かいギャザーを寄せたりしています。置いておくだけで、迫力がある作品性の強い、アートようなオブジェです」
FAAR
住所/東京都江東区平野2-3-34 1F
Tel/03-5875-9085
休/月火(月曜が祝日の場合は火水が休み)
Instagram: @faar_tokyo
Photos:Anna Miyoshi Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue