「ダブレット」井野将之が思う、楽しいファッションとは?
デザイナーが思う楽しいファッションって? プレイフルなウェアとユニークなショーで話題を集めるダブレットの井野将之。彼の表現は、見る者に「ファッションって楽しい!」と感じさせてくれる。東京を代表するデザイナーに “楽しいファッション”とは何かを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』4月号掲載)
あるときはゾンビがランウェイを歩き、あるときはファミリーレストランを模した会場に多国籍のモデルたちが食品サンプルを持って登場する。いつもユニークなショーで楽しませてくれる「doublet」。デザイナーの井野将之は何のためにこの壮大な舞台を生み出しているのか?
井野将之「興味がない人にも届けたい」
──2021AWコレクションのショーでは「再生」をテーマにモデルが後ろ向きにランウェイを歩く様子を逆再生動画で見せるという演出が話題になりましたね。
「映画『TENET』(2020)を見た後に、逆再生動画を撮って遊んでいたんです。だんだんコツをつかんできて、何かできないかなと思っていて」
──過去のショーやデジタルコレクションもユニークな作りで、並々ならぬこだわりを感じます。
「ショーはファッション好きのためだけのものではないと思っています。服に興味がない人が見ても楽しめるエンターテインメントにしたい。それを見て、少しでもファッションに興味を持ってくれたらうれしいなと」
──YouTubeにショーの様子や裏側をアップすることも見る人を限定しない姿勢の表れなのかなと。
「そうですね。デジタルショーをやり始めてから、よりエンターテインメント性の高いものを作りたいと意識するようになりました」
人と会うことが非日常になった。だからこそ、服を楽しみたい
──今回のショーでは自身の幼少期の記憶や思い出が着想源になったそうですね。
「コロナの影響でここ1年ぐらい移動がしにくく、新しい刺激やインプットを得られる機会が減ったので、それなら自分の中を掘り下げてみようと。実家から昔の写真を送ってもらい、幼い頃のことを思い出しながらイメージを膨らませました。自分の中をタイムトラベルする感じでした」
──赤ちゃんが着るロンパースのようなウェア、愛くるしいぬいぐるみや戦隊ヒーローをイメージしたデザインもありましたね
「今回挑戦したかったのはエイジレスな服です。大人の服なのか子ども服なのかよくわからないもの。ジェンダーレスやタイムレスをテーマにした服はこれまでにもあったと思うんですけど、年齢も超越してみたいなと」
──「doublet」はショーもそうですが、コレクション全体にFunのムードを強く感じます。
「デザインするときは〝楽しさ〞を強く意識しているわけではないですが、着た人が元気になれる服を作りたいと思っています。たとえば、知らない人とでも『それ、面白いね』と話が弾むようなコミュニケーションのきっかけになるもの。コロナ禍によって外出もままならず、人に会わない生活を送っていると毎日同じ格好でもいいという人もいると思うんです。でも、ファッションを楽しむベースには〝人に会う〞ことがあると思うんですよ。誰に会うのかとか、どこに行くのかとか、TPOに合わせて何
を着ようって考えると自然と気持ちが高まるし、相手と話が弾むとうれしいし。会うことがすごく貴重になったからこそ、人と会う喜びを底上げできるようなファッションを発信できたらと思います」
──今回は井野さんが幼い頃から親や祖父母から教えられ、聞いてきた「もったいない」という言葉もキーになっていて、ほとんどの服に再生可能素材を使われたとか。
「リサイクル素材を使うのは初めてで、国内にどういった工場があるのか、そこで何ができるのか、調べるところからのスタートでした。コロナが少し落ち着いていた昨年の夏に日本各地の工場を回ったのですが、新しい発見が多く、とても面白かったですね」
──例えば?
「日本で育った羊の毛は、環境負荷が高い薬品で洗浄する必要があるため、刈っても廃棄されていたそうなんですが、それってもったいないなと。なので、環境に配慮した方法で処理をして、純国産のメルトン生地を作ることにしました。ワラも一緒に織り込まれていて、独特の風合いになっています。左右で柄が異なる靴下はそれぞれ切り取り線が入っていて、線を切って縫うとぬいぐるみになるんです。靴下って履き続けるとゴムがよれたり、穴が開いちゃって捨てなきゃいけなくなると思うんですけど、こうやって別の形にすれば長く楽しめる。素材や技術に頼るだけではなく、デザインでリサイクルに取り組むのも面白いなと実感しました。今後はリサイクル生地と全面に打ち出さずに、さりげなく使っていきたい。それが一番いいかなって」
Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Saki Shibata Special Thanks:Iwai Omotesando