岩井勇気インタビュー「無償の愛をくれ。もしくは、ただ楽しく一緒にいられるだけでいい」 | Numero TOKYO
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岩井勇気インタビュー「無償の愛をくれ。もしくは、ただ楽しく一緒にいられるだけでいい」

ハライチの岩井勇気が、2作目の著書となる『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を刊行した。23本のエッセイと、初の書き下ろし小説を含めたこの一冊は、前作『僕の人生には事件が起きない』から引き続き、日常の中に見つけた奇妙な出来事や小さな事件をきっかけに展開される独自の解釈や、空想の世界が描かれている。少しクレイジーでどこか愛おしい独自の世界を読み解くべく、ベールに包まれた人生観や恋愛観について聞いた。

一緒にいるなら、恋愛関係よりも、ちゃんと会話ができる人

──初のエッセイ集発表から2年。前作から比べて、2作目ではどのような変化がありましたか?

「力まずに書けるようになったので、1作目より書く時間も速くなりました。笑いどころを無理に探したり、笑いを乗せたりせずに、普通に生活する中で面白かったところを選んで書いています」

──今作は、連載22本と書き下ろしエッセイ1本、初の書き下ろし小説『僕の人生には事件が起きない』が収められています。締め切りに苦しんだことはありましたか。

「本業が作家なら、ギリギリまで悩んでいいものを書くのもしれないけれど、僕は主軸が芸人なので、他にやることがあるから、むしろ早く終わらせたい。締め切りに間に合わなかったことはありません」

──「喉に刺さった魚の骨が取れない」「トイレの詰まりと謎のギャンブル」など日常が垣間見えるエッセイの中で、「10代の頃に思い描いていた想像の一人暮らし」という空想の話が印象的でした。フリーターで半同棲状態の彼女がいて、結婚することになって一人暮らしが終わるという。

「実際には30歳まで実家から仕事に通って、それなりに名が知られてから一人暮らしを始めたので、想像していたものとは全く違うんですけどね」

──今、岩井さんが、結婚や恋愛についてどう考えているのかお伺いしたいのですが、理想のタイプは?

「時代錯誤かもしれないけれど、無償の愛をくれる人。自分が将来、食いっぱぐれても支えてくれる人が理想です。僕は、恋人との間に利害関係ができるのが嫌なんです。『私はこれをしたんだから、あなたもこうして』と言われると、『無償の愛をくれ!!』と思っちゃいますね。都合のいい話なんですけど。あとは、自分が車を運転していたら助手席でナビをしてくれる人、もしくは、何にもしないけど楽しそうにしている人。さらに言えば、相手が運転してくれているのに自分が助手席で寝ちゃっても許してくれる人」

──もはや親と子のような愛情ですね。ちなみに、理想の出会いはありますか。

「引越した初日に窓のカーテンを開けたら、向かいの家でカーテンを閉めずに女の子が着替えていて『キャー!!』っていう出会いがいいですね。または、不審者を見つけて『お前、何やってるんだ!』と取り押さえたら、そいつが下着泥棒で、隣の家の女性が『最近、下着をよく盗まれて困っていたんです。ありがとうございました』とか(笑)」

──それは、往年の恋愛マンガのシチュエーションですね。

「もしかしたら、出会いたいとも思っていないのかもしれませんね。自分にとって仕事と趣味が重要なので、恋愛のプライオリティはそこまで高くないのかもしれません」

「俺は腐ってない。そういう世間の方が間違っている」

──「廃墟の隣の大家さんの家に引っ越す」「コラボキャンペーンの悲劇」のエピソードでも、日常の些細な出来事をとても楽しんでいらっしゃいます。今は無理に誰かと一緒にいる必要性がないとか?

「そうですね。趣味もアニメ、麻雀、車、バイクとたくさんあるし、芸人はヒマなヤツがたくさんいるので誰かしら遊んでくれるんです。それに今は、プライベートより仕事の方が面白いんですよ。芸人は面白さを追求している集団なので、面白さのピークが仕事中に起こるんですね。仕事中に爆笑することもしょっちゅうだし、プロ意識が低いのかもしれないけど、現場に遊びに行っている感覚です」

──今は多様な生き方が選択できる時代ですが、もし結婚しなかったときの理想の人生プランは?

「とはいえ一人は寂しいので、恋愛関係のない友人でも、誰か好きな人と一緒に暮らすこと。そう考えると、気の合う可愛い男と暮らすのが一番楽しいんじゃないでしょうか。やっぱり、同性だからこそ共感できるノリはあるので」

──パンサーの向井慧さんと仲が良いことでも有名ですが、“可愛い”という要素は重要ですか。

「視覚的な魅力は、ないよりあったほうがいいというくらいですけど、外見の好みはうっすらあります。自分が女性に求めるものに視覚的な可愛らしさも含まれているので、それを備えた同性の友人がいたら完璧です」

──共同生活に求める条件は?

「話に乗ってくれること。どんな小さなことだとしても、『これどう思う?』と相手に尋ねたとき、『細かいこと言うなよ』『ちょっとわからない』と片付けられてしまうと会話にならない。一緒に暮らすなら会話は大事です」

──「珪藻土バスマットをめぐる母との攻防」で、お母さんとの軽妙なやりとりが描かれていました。それもコミュニケーションのひとつの理想形では?

「実家にいたときは、ずーっと母と喋っていたんですよ。ケンカをすることもあるけれど、母はたいてい1時間経てば忘れるんです。一緒に暮らすならそれも重要ですね。引きずらない人。悲観的な人と一緒にいると、自分もネガティブになるので、ポジティブさは大事です」

──岩井さんには辛辣な毒を吐く「腐り芸」がありますが、本書では、どんな出来事も面白がるポジティブマインドを感じました。

「僕は陰キャだと思われがちですけど、むしろリア充だし、ポジティブです。腐り芸だって、芸能界のことをストレートに表現したら、『腐ってる』『ひねくれてる』と言われて。でも、そう表現する世間の方が間違っています。自己肯定感が低くて承認欲求が高い、例えるなら、相方の澤部みたいなのは本当に良くない。俺の発言で傷ついたと言われても、弱さを武器にしないでくれと思いますし、そんな攻撃は気にせず、自分は自分で頑張ろうとポジティブに変換しています」

──本書を読んで、心が軽くなった理由がわかった気がしました。

「無理にとは言いませんけど、楽しく読んでくれたら嬉しいです」

『どうやら僕の日常生活はまちがっている』
『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

発売日/2021年9月28日
発行/新潮社
価格/¥1,375(税込)

Photos:Ayako Masunaga Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Saki Shibata

Profile

岩井勇気Yuki Iwai 1986年、埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と「ハライチ」を結成。2006年にデビューし、直後から注目を浴びる。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。 Twitter:@iwaiyu_ki

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