「トモ コイズミ」小泉智貴に訊く、楽しいファッションとは?
デザイナーが思う楽しいファッションって? ドリーミーなドレスで人の心をつかむトモ コイズミの小泉智貴。彼の表現は私たちにファッションの楽しさを思い出させてくれる。東京を代表するデザイナーに “楽しいファッション”とは何かを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』4月合併号掲載)
一度見たら忘れられないボリューミーでカラフルなドレス。それらが生まれた背景にはどんな物語があるのか。小泉智貴がファッションの世界を志すようになったきっかけから紐解く。
小泉智貴「14歳でファッションに魅せられてから、ずっと」
──小泉さんにとって〝楽しいファッション〞とは何でしょうか
「デザインするときは自分が作るべきもの、自分だから作れるものを意識していますが、それが小難しくならないように、誰が見ても〝かわいい〞とか〝ちょっと笑える〞とかそういった感情を喚起させるものを大事にしています。それが〝楽しいファッション〞かなと」
──そう思うようになったのは?
「14歳のとき、ファッション誌でDior時代のジョン・ガリアーノのショーの写真を見てからです。ガリアーノのデザインは、実験的でユニークでファッション以上のものを感じました。自分はそれに圧倒され、感動し、運命を決められた気がしたんです。美しくて退屈なものは知っていたけど、美しさと刺激が共存しているものがあるのかと。ファッションのことを何も知らない中学生の頃にこの体験をしたことは大きかった。いつか自分も誰かを驚かせ、インスパイアできるものを作れたらいいなと思い、今の活動につながっています」
──多くの人を魅了するTOMO KOIZUMIのアイコン的なラッフルドレスが生まれたきっかけは、日暮里で見つけた生地だったとか。
「はい。日暮里の生地屋でカラフルなオーガンジーの余り生地を大量に見つけて、これで何か作れないかなと。フリルやボリュームのあるドレスが好きだったこともあり、何色も生地を重ねて生まれたのがラッフルドレスです」
──そのドレスがファッションディレクターのケイティ・グランドの目に留まり、2019年にNYコレクションに初参加。モード界に大きな衝撃を与え、一夜にして世界から注目を集めるデザイナーに。昨年はエミリオ・プッチとのコラボレーションを発表されましたね。
「企業と一緒にもの作りをすることは自分にとって挑戦であり、学びもとても多かったです。コラボするからには1+1=2ではなく、それ以上のシナジーが生まれるように、作る意味があるものを意識しました。コラボしたサンダルやTシャツなどは日本でも買えるので、そういった形で自分のデザインを届けられるのもうれしいですね。TOMO KOIZUMIのドレスは一般には流通していないので」
フィクションやファンタジーの要素もなくしたくない
──コロナによって行動が制限されていますが、ご自身のクリエイションに影響はありますか?
「2019年にLVMHプライズに応募したときは一般の方が買えるような量産型の服も作ろうかと考えていたんです。でも、ウイルスが猛威を奮い始めてから出張が減ったので、じっくり考える時間が増え、『やっぱり自分のやりたいことをやろう』と初心に戻ることができました。もちろん売ることの大変さもよく知っているのですが、新しいことに労力を割くよりは自分の強みを生かしたクリエイションに専念したほうがいいと思って。それに、ビジネスとしてブランドを大きくしていくことにあまり興味がないんです。世の中にはこれだけたくさんの服があるんだから、自分が作る意味のあるものだけを作りたいし、少人数のチームでストレスがない環境を保ちたいなと思っています」
──小泉さんがデザインを手がけるとき、何を大切にしていますか。
「リサーチをたくさんするのですが、アウトプットはシンプルにすることを心がけています。知識や技術がついてくると、どうしても自分の中で難しく考えてしまいがちですが、それはただの自己満足であり、つまらないものになる。ファッションの知識がない人がいても楽しさや喜びが伝わるものということは常に大切にしたいです。それに、ファッションには実用性やウェアラブルさも重要だけれども、ファンタジーやフィクションの要素も不可欠だと思うんです。コレクションのショーピースのような、見るだけで心が潤うもの。今、ハイファッションの世界にもそういったものが少なくなった気がしていて、寂しく思います」
──小泉さんが日常で楽しさを感じる瞬間はどんなときですか。
「もともとアーティストのステージ衣装を手がけていたこともあり、エンターテインメントを見ることは今も大好きですね。昨年からは歌舞伎を見るようになり、お能や宝塚にも興味が出てきました。今後はそういった舞台衣装も手がけられたら楽しそうだなと思っています」
Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Saki Shibata Special Thanks:Iwai Omotesando