満島真之介インタビュー「自分と向き合うことで、大切にできるものが増えていく」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.75は満島真之介にインタビュー。
Netfllixのオリジナルシリーズとして配信され、一大旋風を巻き起こした『全裸監督』。1980年代初頭、山田孝之演じる村西とおるが“放送禁止のパイオニア”としてのし上がっていくきっかけを作る相棒・トシを演じているのが満島真之介だ。
シーズン1の終盤、ヤクザに身を落としたトシは、シーズン2では裏社会の闇にまみれながらも、純粋さを失わずに必死に生きる。1の活力溢れるやんちゃさとは打って変わり、ダークな空気をまとう新たなトシをどう演じたのか?
いろいろな経験を経て身に着けた、オンもオフも充実させるための“セルフラブ”についても聞いた。
山田孝之への想いが深まっていった撮影期間
──トシはシーズン1の終盤、ヤクザに身を落とし、2では村西軍団と袂を分かち、裏社会を生きていきます。1とはまとってる雰囲気も大きく違いますが、どんなことを意識して演じましたか?
「シーズン1でトシと村西が出会ったことからすべてが始まり、新時代を作っていきました。その結束の強さというのは作品を通しての大きなテーマでもあったので、今回村西と離れていたとしても、その想いを常に感じながら演じていきました。
國村(隼)さん演じる古谷とか、いろんな人がトシに愛情を注いでくれるんですけど、やっぱり村西との関係には勝てないんです。その村西と同じ時間を共有できない寂しさと、どうしようもできない悔しさが入り混じり、『どうなっていれば2人はずっと一緒にいられたんだろう』っていうことを考えながら演じることを意識していました。
大切な人に対してどういう思いで向き合っているか、そして大切な人と離れた時にどういう思いを持つのか、そういう人と人との強い縁がトシを突き動かしているんです。誰しもに、どれだけ離れていても心の奥に濃い色で残る、忘れられない存在がいる気がするので、見ている方がそういうことまで感じられる作品になったらいいなと思ったんです」
──確かに、バブル時代に乗って村西軍団が勢いよくのし上がっていく様がフィーチャーされたシーズン1と比べ、2は人間同士のリアルな関係性が色濃く出てますよね。
「今シーズンはまさに、人間それぞれに何が必要か、何を大切にして進むかが重要なテーマになっていますね。村西とトシは、性格も全然違うけど心の根底で繋がっているからこそ、自分の弱さも強さもさらけ出し、認め合い、支え合っていたお互いにとって貴重な存在。
でも、そのふたりが離れることで全てのバランスが大きく崩れていくんです。普段の生活においても『この人がいてくれると前に進める』という存在がいると思うんですよね。執着するわけではなく、お互いのバランスが整う存在というのか。
この1年、いろいろなことにぶつかっている中で、『本当にこの人といるべきなのか』『この職場にいるべきなのか』『私はこういう人生でいいのか』というように自問自答した人も多いと思うんです。この作品も、描いている時代は違えど、同じような悩みをそれぞれが抱えていますから、とても良いタイミングでの配信だなと思っています。
シーズン1では村西を演じる山田さんと同じシーンが多かったんですが、今回はほとんど一緒のシーンがなかったんです。僕は役柄上だけでなく山田さんっていう方に惚れているし、山田さんも僕を大切にしてくれてるのが伝わっているので、2の撮影では山田さんに会えない寂しさしかありませんでした(笑)。
でも、不思議なことに愛情って会えなければ会えないだけ深まっていくんですよ。なんだか西野カナさん的ですけど……(笑)」
──(笑)。満島さんは山田さんのどういう部分に惹かれているんでしょう?
「すべてに対して、愛情深いんです。簡単には言い表せないのですが、いつも本当の自分でいますし、役者としてだけではなく、根本から時代を変えていこうとするパワーに溢れているんです。
それが勢いよく『ついてこい!』っていうものではないんですが、静けさの奥底で湧きたつ地熱のようなエネルギー。その優しい熱がいろんなものを動かし、心を響かせ、信頼させてくれる。そんな素敵な姿を心から尊敬しています」
元気じゃないとダークな部分は演じられない
──シーズン2のトシは、痛々しい場面も多くありますが、ダークな役を演じることはプライベートには影響があったりするんでしょうか?
「あまりないですね。ダークな部分は、経験も含めて深いところから出てくるものなので、普段はいたって穏やかに過ごしていました」
──満島さんはヨガやジョギングだったり、とても充実した朝活をやられている印象がありますが、それはやはり心身にいい影響を与えていますか?
「かなりいい影響がありますよ。シンプルに早寝早起きをしてる人は健康な人が多いと思いますし、運動するとお腹も空きますからね。そういう生活を送っていると、常に心と体の好循環を生み出すことができるんです。食べなかったり寝ないことで自分を追い込む人もいますが、僕には合ってない。
今回トシはダークサイドに落ちたような状況にはいますが、純粋さや人を想う気持ちは変わってないんですよ。自分の心と今いる場所にギャップがあって、そこから抜け出せないのがトシの置かれた状況。役とのギリギリのバランスを保つためには、健康でいなければいけないんです。僕の体がダメになっちゃうと総崩れになってしまう。元気じゃないとダークな部分は演じられない」
満島真之介流“セルフラブ”の極意
──そういう心境にはどうやってなれたのでしょうか?
「人生って楽しいことだけじゃない。でも、今までのすべてがあって自分が生きているので、すごく感謝しているんです。苦しい状況があったとしても、その先に人生を変えるような出会いの風が吹いたり、明るい光が差し込んできたり。あとになってから気がつくことってたくさんあるんです。
起きている事柄や今自分が思ってることにちゃんとフォーカスを当てていかないと、自分自身が何も変わっていけない。現状から目を背けて逃げっぱなしだと、あとでツケが回ってきますからね。
いろんなことを経験しながら感じて考えて、喜びと悲しみ、上手くいったことと上手くいかなかったことの幅が広ければ広いほど、自分のキャパも大きくなるはずなんです。それによって、ほかの人ともお互い考えてることのキャッチボールができるようになっていく。
自分に向き合ってない人は、すぐに否定するか、適当な相槌を打って人の話を聞いていないことが多い。そうなりたくないなら、自分で自分を愛することを日々実践してみると良いですよ。
『逃げ出したい』とか『やめたい』と思った時に、一度深呼吸して自分と対話してみるんですよね。『これはもう無理だから逃げなさい』って時ももちろんあります。
自分の声を聞く練習をしていくと、本当に大切にできるものが少しずつ増えていくはず。おうちで例えると、間取りを大きくしていくというのかな。自分と向き合えずにいるとずっとワンルームのままなので、受け入れられる範囲が狭いままです。
だけど、ゆっくりしっかり向き合っていくと自分の心の間取りが増えていくので、心身ともに循環も良くなるし、余裕も出てくる。人生をより楽しめるようになれるはずです」
──ポジティブになれる方法として、セルフハグやセルフハイタッチを実践されているのだとか。
「そうなんです(笑)。生まれてから死ぬまで一緒にいるのは自分しかいないので、自分を認めて愛せないと相手のことも認めてあげられないと思うんですよね。どうしたらそうなれるかと、かなり前から色々と試行錯誤してきました。
人の細胞って膨大な数で成り立ち、常に入れ替わってるわけなので、自分の肩を優しくトントン叩いて『今日もありがとう』と声をかけると、細胞が喜んで活性化されていくんですよ。持論ですが(笑)。
半信半疑でやってみた方から、『よくわかんないけど、なんだか笑顔になりました』っていう反応もいただけてるので、効果ありですよ!(笑)」
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督 シーズン2』
平成の始まりと共にアダルトビデオ業界の頂点に立った村西(山田孝之)は、企画シリーズものを大量に制作していた。だがそれらは、黒木(森田望智)と作り上げた『SMっぽいの好き』のような伝説的な作品には遠く及ばない。黒木は再び村西との作品制作を切望するが果たされず、二人の間には少しずつ溝が生まれ始めていた。そんな時、村西は衛星放送事業への進出を勧めらる。「空からエロを降らせる」という大きな夢に向けて、更に金をかき集める村西。そんな村西に疑問を抱く川田(玉山鉄二)。しかし、苦楽を共にした川田の意見にも聞く耳を持たず、遂に決別した村西は新会社・ダイヤモンド映像を立ち上げ、乃木真梨子(恒松祐里)ら新たな女優たちのプロモーションを始める。一方、古谷(國村隼)のもとでヤクザとなったかつての相棒・トシ(満島真之介)は、村西に対して複雑な感情を抱いていた。
総監督/武正晴
監督/後藤孝太郎
出演/山田孝之、満島真之介、玉山鉄二、森田望智、恒松祐里、柄本時生、伊藤沙莉、冨手麻妙、後藤剛範、渡辺大知、MEGUMI、西内まりや、笠松将、増田有華、吉田栄作、伊原剛志、宮沢りえ、石橋蓮司、室井滋、小雪、ピエール瀧、リリー・フランキー、國村隼
脚本/山田能龍、小寺和久
原作/本橋信宏『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版・新潮文庫)
2021年6月24日(木)Netflixにて全世界独占配信 公式サイト/www.netflix.com/全裸監督
Photos:Takehiro Goto Styling:DAN Hair & Makeup:Masashi Saito Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara