「Chanel」と迎える新しい季節。長澤まさみの撮休日&インタビュー
シャネル(Chanel)の2021年春夏 プレタポルテ コレクションの主人公は“女優”。レッドカーペットや映画の一幕で、シャネルを着こなした女優たちの生き生きとしたエレガンスをインスピレーションに、時代を超えて愛される、タイムレスなシャネルスタイルをモダンに再解釈。「オフの日の女優」をテーマに、長澤まさみが着こなすとっておきな普段着のヒロインスタイル──それは喜びにあふれた、カラフルで活気に満ちた新しいモード。( 『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年5月号掲載)
TALES OF HER
努力をして、才能を身につけた自分を目指し続けられるかどうか。
そして、努力をあきらめない中で運をつかめるかどうか──。
長く続いているコロナ禍の混乱や不自由の中でも、長澤まさみは伸びやかに日々を送る。とても風通しのいい人だ。
「例えば舞台の場合、一緒にお仕事をしているカンパニーの全員が、お互いに気をつけ合わないといけない状況で、課題を課せられながら慎重に日々が進んでいました。すごく大変でしたし、神経も張り詰めるのでたやすくはなかったけれど、その努力や忍耐はみんなが無事に過ごすためのもの。こんなに人のことを思いやりながら、作品に臨んだのは初めてのことでした。この状況が良いとは決して思わないけれど、原点回帰というか、もともと自分がやりたかったことに気づけたり、喜びや幸せ、ありがたみを噛み締めることができたんですね。そういった意味では、いい経験になりました。
私自身の座右の銘までじゃないけど、生き方のテーマの中に“なるようにしかならない”というのがあるんです。あきらめみたいな突き放した感情ではなくて、そのときどきの流れに身を任せたり、心を寄せるのが重要だと普段から思っている。“こうじゃなきゃダメだ”という頑なさをなるべく持たないように心がけているんです。その場の状況に応じて、対応できる自分でありたいなと。厳密に言えば、流れるままではなくて、流れに身を任せるけど、舵は握っているっていう感覚かな。
だから取り巻く環境が変化してもストレスもないですし、不安も感じてない。むしろ、こんなときこそ『頑張らなきゃ』という気持ちが湧いてくるんです。窮地に追い込まれるほど、しっかりしなきゃというマインドが働く。この現状は誰に文句を言う出来事でもないし、誰かのせいでもないわけだから、だったら状況は自分の手で切り開いていくしかないなって。これって、女性の特質なのかもしれないですね。困難のときこそ、わぁーっと力が湧くというのは」
より自分らしく、より心地いい自分でいるためにたどり着いたのが、“自分のことは自分の手で”という、ごくシンプルな方法。
「きっと何かのせいにするのがイヤなんですよね。人って自分を認めてもらいたいし、自分自身の存在意義を確かめたくなってしまう生き物だと思う。自分を否定されるような出来事に直面すると、本能的に自分を守ろうとして、何かのせいにしてしまう。私にもそういう瞬間があります。でも、ひとまず自分なりに解決しようと、頑張るようにはしています。
仕事柄、心ない声が耳に入ることもあるけど、同じようなことを自分もしている場合が多いんです。他人に言われて気にすることを、自分が他人に言ってたりする。まさに因果応報なんですけど、それを身をもって感じられるのもいい経験。なりたい自分になることが、簡単だと思えるようになったから。『イヤだな』と感じることも、一つの学びになるから重要で。イヤだと感じたら、自分は人にしなければいい……その繰り返しの中で、自分で自分を少しずつ育てていけばいいだけのこと。
だからいい感情もそうじゃない感情も、いろんな気持ちに対して敏感でいたいですし、たとえ傷ついたとしても、感受性を持てているなら大丈夫って」
さらに「想いを言葉にして伝えることも大切」と続ける。心の動きを見逃さないためにも。
「それこそ、昔は言わないようにしていたんですけど、疲れたときは『疲れた』と言うし、寒いときは『寒い』って言う。私は言わないとストレスが溜まっちゃうと気づいたので、口にするようになりました。もちろん、言いたくない人は、言わなくていい。言う人が“わがまま”で、言わない人が“偉い”ってわけでもなくて、ただ自分の心地よさをもっと優先してもいいんじゃないかなと。
心地いい状態でいる自分を認めてくれる人は絶対にいるから、安心して取り繕うのをやめてみる。もし誰かの言葉でイヤな思いをしたなら、率直に気持ちを伝える。もちろん逆もそうで、素敵な言葉をもらったら『ありがとうー!』って感謝を伝えたり。気持ちを人に伝えることが、今すごく重要な気がするんです」
ここまでのインタビューの中で気づいたのは、彼女の言葉も心もまなざしも、常に前向きだということ。
「そうですね、いい言葉を口にしていると自分の気持ちが上がるし、私は体温まで上がると思っているんです。たかのてるこさんというエッセイストのお友達がいるんですが、彼女から『心配なことがあったら“大丈夫”って100回唱えてごらん』とアドバイスをもらったことがあったんですね。大丈夫以外にも、『ありがとう』とか『今日も幸せ』とか、前向きな言葉を自分の中で唱えるといいよ、と。いい言葉はいい気を持っているから、唱えるだけで自分の気持ちも変わる。その言葉が持っている意味に助けられたり、元気になれるんです。今、悩み事がなんにもないのは、いい友達に恵まれているのも大きいと思います」
役者としての彼女は、昨年デビュー20周年を迎えた。第一線で輝き続けるゆえの窮屈さだとか重荷を感じさせず、生業を自身のペースで軽やかに謳歌しているように映る。
「オファーが来ないんじゃないかと、20代のはじめは仕事に対して心配する時期も多少ありました。でも、しょうがないですからね。ないときはない(笑)。この性格は、父ののんきな気質を受け継いでいます。ほかにも『こんな作品をやってみたい』とか、自分の理想みたいなものが二の次だったりして。
でも、30代になった今は作品選びに対して逆に意思がないかも。シンプルに脚本が『面白そう』と思えたら、お引き受けする。マネージャーさんをはじめ、信頼している方が提案してくれる仕事には乗っかりたいので、自分には響かなかったとしてもやってみる。悩んだこともあるとはいえ、いま思えばマンガ原作の青春ラブストリーもあれば、独特なコメディがあったり、自分が出合った作品たちを振り返ると『面白いなぁ』と思えるんですよね。自分自身の作品への愛情を大人になった今も変わらずに感じられているのは、恵まれている証拠。友達と同じで、作品との出合いも運があるのかなって。
とある俳優の先輩が、この仕事は運が8割だとおっしゃっていて。才能がある人間なんてほんのひと握りで、ほとんどの人には才能なんてない。努力をして、才能を身につけた自分を目指し続けられるかどうか。そして、努力をあきらめない中で運をつかめるかどうか──。すごく腑に落ちたんですよね。あれもこれもやりたいと思っても、体は一つしかないし、タイミングにも左右される。その中で、やるとなった作品は自分のもとに来るべくして来たものだったんだと。でも『あの女優さんがやっているこの作品が素敵だな』という気持ちは“野心”として持ち続けたいですね」
求められるものが大きくなる一方で、“至らない、応えられない”と怖くなることはないのだろうか。
「人間できないことはない、私はそう思います。できる自分になると、次はそれ以上を求められる……その心理が働いて、怖くなることも多いけれど、そのときの自分の最善を尽くすことのほうが何よりも重要。他人から見てできてなくても、いいんですよ。上手いとか、下手とか、評価は関係なくて、その人はやってないわけだから、そもそも同じ土俵に立っていない。大人になるほど、できてないことは自分が一番よくわかっているじゃないですか。自分で自分を追い詰めてしまったり、可能性をつぶしたら、もったいないですよね。
自分に期待することは重要だし、もし憧れる姿や目標があるとしたら、そこに近づけるように努力をしていきたい。それに自分に期待しているんだったら『自分自身が憧れられる自分になれているのか?』を俯瞰で捉える客観的な目線も常に持っていなければですよね。勝負の世界だから、力がなかったらそこで終わってしまうのはしょうがないこと。だから努力は必要だし、し続けたい。どんな世界でも、天才であることがすごいことかもしれないけど、そうじゃなくて、天才になるための努力を重ねられることのほうがずっとすごいと感じます」
評価を誰かに委ねず、最善を尽くすことにフォーカスする。長澤まさみが手応えを感じられる瞬間とは。
「ほめられたりしなくてもよくて、『観たよ!』とひとこと言われたらそれだけで十分なんです。だって観てもらえなければ、次の作品は作れないですから。ただいちばん嬉しいのは、大好きな役者の先輩たちが、『面白いね』と言ってくれること」
役者として、また一人の女性として。33歳の今、彼女のまなざしの先にある未来とは?
「20代は仕事もプライベートも、『これからどうなるんだろう?』とワクワクとか楽しみが大きかったけれど、30代に入ってみると人生設計を考えるようになりました。もし子どもを産むなら……とか。実際のところ、今はお芝居が楽しくて仕方ないので、仕事をしながら運よく結婚が訪れたら、その波に乗ってもいいのかな。今すぐにというのは全然ないですけど、最終的には相方がほしいですね。
何より、毎日楽しく過ごせるのが理想です。過去の出来事にすがることなく、いつも前向きに未来に進んでいきたい。『あのときよかったな』なんて、過去を思い返して楽しむ時間もあるけれど、基本的には過去から学んだら『じゃ、ありがとう!』と、すっきり手放して前へ。
そして、ときどきは自分をねぎらい、甘やかしてあげたい。大人になっても、やっぱり仕事を頑張ったらご褒美が大事ですから。もちろん我慢すること、律することも必要だけど、人に対してだけじゃなく、自分にも優しくありたいです」
Photos : Akinori Ito Styling : Shinichi Miter Hair : Asashi Makeup : Fusako Interview & Text : Hazuki Nagamine Edit & Text : Hisako Yamazaki