『MISS ミス・フランスになりたい!』主演、アレクサンドル・ヴェテールにインタビュー「性別に関わらず自分自身と調和することが大切」
フランスで実際に開催されている、ミスコンを題材にした映画『MISS ミス・フランスになりたい!』。ヒロインはアレックスという若い男性で、夢を叶えたボクサーの幼馴染に触発され、子どものころから憧れていたミス・フランスに挑戦することに。ファミリー同然の個性豊かな同居人たちの批判と応援を受けながら、女性の美しさを競う中で、アレックスは自分自身と向き合い心身を鍛え、勝利に向かって奔走する。作中で目を奪われるのは、アレックスを演じた、ユニセックスモデルで俳優のアレクサンドル・ヴェルテールの存在感。日本公開を目前に、インタビューを敢行した。
『MISS ミス・フランスになりたい!』ユニセックスモデル、アレクサンドル・ヴェテールに直撃取材
──アレックスはミス・フランスになることが、子どものころに抱いた夢でした。将来の夢は何でしたか。
「冒険に出て、隠されたミイラや財宝を見つけることを夢見ていました。古代エジプトが大好きで、映画『インディ・ジョーンズ』のファンでした」
──2016年のジャン・ポール・ゴルチエのファッションショーで、モデルに起用され、ユニセックスモデルとして注目されました。ランウェイにはどのような気持ちで臨んだのですか。
「夢見ていたファッションショーで働く機会に恵まれ、とても嬉しかったです。ジャン・ポール・ゴルチエは、ファッションで世の中を彩ってきた時代を代表するデザイナー。モデルそれぞれの美しさを引き出す演出がなされ、各々のために見立てられた高級な服を纏う、その世界観すべてを気に入っていました。女性モデルと同じようにコルセットとハイヒールを身につけて出演できたことは何よりの喜びで、魔法のような幸せな瞬間でした」
──モデルになった経緯を教えてください。
「実はモデルになるとは思ったことがなく、学生時代は造形芸術を専攻していました。友人が撮った写真をSNSに載せたことで、それを見たパリのエージェントからスカウトの声がかかったのです。冒険家としてではありませんが、リュック一つで誰も知らないパリという都会に出て小さな部屋で生活を始めたことは、自分自身にとっては大きな冒険でした」
──ミス・フランスは、今年100周年を迎えました。このコンテストは、何を象徴してきたのでしょう。
「フランスでは、家族みんなが年に一回、TVの前に集まる瞬間です。決勝戦はフランス各地の代表が集まり、サッカーのワールドカップさながらの盛り上がり。少し時代遅れな部分もあるかもしれませんが、『今年の出来はどうなんだろう』と、国民が一つになる行事だと思います。
私自身は、この映画に出演するまでは、正直あまり興味がないものでした。『誰かステージから落ちないかな』と、少しバカにした目で見ていたと思います(笑)。しかし、この映画を通して、実際のミスフランス経験者や関わっている人々に出会い、とても純粋なコンテストであることがわかりました。たくさんのボランティアがいて、出場者の良さを美容やファッション、所作などで最大限引き立てようとするいいエネルギーに溢れています。まだまだ変わるべきところもありますが、大会の裏側を知ることで、開催の意義を理解できたように思います」
──作中では、アレックスとあなた自身が重なって見える瞬間が幾度もあります。ヒロインを演じた感想を教えてください。
「アレックスとの共通点はいくつかあります。女性として生きることを必要だと感じている点、自らを探求しているところ、それから男性としても期待されていることなど。私自身の人生と重なるのは、アレックスはミス・フランスに、私はジャン・ポール・ゴルチエのファッションショーに女性のモデルとして出たいと思った点でしょうか」
──作中で一番好きなシーンはどこですか。
「友人役のローラが、アレックスに賞の結果を知らせる場面。ローラの尊厳と善意を込めて行う姿にとても心を動かされたんです。特別な感情が溢れる中、演じることができました」
──物語はステレオタイプなサクセスストーリーに止まらず、少し意外な結末を迎えます。このエンディングについて、どのように考えていますか。
「監督のルーベン・アウヴェスは、最後の場面から脚本を書いたと言います。最も大切なことは、自分自身を見つけること。そこまでの道のりこそが意味があるもので、この結末は美しいものだと思っています。彼女の友人のパカとメンターであるアマンダが、結末にアレックスを讃えて言うセリフこそが、この映画の最も伝えたかったことなのではないでしょうか。本当の勝利とは何かを分かっていただけると思っています」
──過去にご自身の性について葛藤することはあったのでしょうか。
「ジェンダーの問題を抱えていたとは思っていません。しかし、女の子だからこういうことはしない、逆に男の子ならしてはいけないなど、何かを諦めて欲求不満になることが気持ちを落ち込ませました。性別に関わらず自分自身と調和性を取れた形で、自分がやりたいことをやる、生きたいように生きることが大切です。すぐに上手くいかなくても、一歩踏み出してやってみるべきだと思っています。私自身は女性として生きると決め、10年間過ごしてきましたが、いまはより自由で良いと思えるまでになりました。しかし、決して女性性を捨てるわけではなく、今なお自分の一部として存在し続けています。思い返すと、芸術やファッションという枠組みの中で、自由に女性性を表現できることは幸運でした。枠組みがなければ、難しかったかもしれません」
──悩んだときは自分や周囲とどのように向き合い、乗り越えてきましたか。
「幸運にも、周囲の人々が善意を持って見守ってくれ“私の生きたいように生きる実験”を助けてくれました。地球上にはたくさんの人間がいて、必ず自分と似たような境遇で同じような考えの人がいるはずです。絶対に孤独ではなく、受け入れて助けてくれる人がいるので、新しい出会いを怖がらないでください」
──演じているときの自信に満ちた振る舞いや微笑みが印象的です。女性らしい所作を身につけるために、参考としたミューズはいたのでしょうか。
「ミューズを挙げるとしたら、私の母でしょう。80年代のイヴ・サンローランが打ち出した強い女性像を体現するような人物で、子どものころから彼女が化粧や手入れをするのを注意深く見ていました。往年の女優や90年代のスーパーモデルなど、私が美しいと思う人は少し流行が去ってしまっていますが、その美しさを見直す流れがまた来ているように思います。特に、シンディ・クロフォードに憧れを抱いいて、痩せ細っていることよりも本物の美しさが宿っていると思います。でも、私自身の女性的なところは子どものころから持っていたもので、誰かを見て盗んだのではなく、自分自身で育んできたものです」
──友情物語でもありますが、あなたの人生において欠かせない仲間との出会いはありましたか。
「アンドレイ・ペジックというモデルの存在は大きいです(現在は性転換を行い、アンドレア・ペジックに改名)。彼がジャンポールゴルチエのファッションショーに出演し、ウェディングドレスを着用してランウェイを歩いたことがありました。あまりの美しさに女性だと思いましたが、ドレスに男性器が透けて見えていたのです。あまりに革命的で驚きましたが、その姿を見て、女性性を表現してもいいんだ、と気づくことができました。そして、ジャンポールゴルチエのファッションショーに出たいと思うようになったのです。現在はSNSが発達して、ハッシュタグを辿ると自分と似たような考え方を持って生きている人の多さに驚かされます。SNSで女性性を打ち出したライフスタイルを発信し始めた当初は少数で、これほど仲間やフォロワーと出会えるとは思ってもみませんでした」
──フランスには素晴らしいアイコン、大女優がいます。これからの時代、あなたがそういった役割を担っていくのではないでしょうか。世の中に発信していきたいことは?
「偉大な女優の伝統と系譜に、私が繋がっていると思っていただけたことを誇らしく思います。実は、本作でセザール賞の新人男優賞賞にノミネートされました。選ばれた俳優の中で、トランスジェンダーを演じたのは私だけ。将来的には、男性と女性の違いは捨てるべきものになっていくでしょう。前向きなエネルギーこそが重要で、これからはこの物語や私のように、人とは少し違う人たちが前に出ていく時代になるのだと思っています」
『MISS ミス・フランスになりたい!』
監督・原案・共同脚本/ルーベン・アウヴェス
出演/アレクサンドル・ヴェテール、イザベル・ナンティ、パスカル・アルビロ、ステフィ・セルマ
2020/フランス/フランス語/スコープサイズ/107分
©︎ 2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS
https://missfrance.ayapro.ne.jp/
Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue