【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.2 POSTELEGANT | Numero TOKYO
Fashion / Feature

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.2 POSTELEGANT

ミニマルで上質な服づくりやオリジナルな視点を貫く、日本発のインディペンデントなブランドにフォーカスする新連載がスタート。デザイナー自ら、作り手の視点でコレクションを解説し服へ込めた熱い思いを語る。見た目ではわからない(知ったら着たくなる)服の真髄を徹底深掘り。
第二回は「POSTELEGANT(ポステレガント)」のアトリエを訪問。デザイナー・中田優也にとって、素材へのこだわり、服のあり方とは?

【2020AW Collection】

こだわり抜いた素材で完成する
メイド・イン・ジャパンの美しいリアルクローズ

ジャケット ¥140,000/Postelegant(エスケーパーズオンライン)
ジャケット ¥140,000/Postelegant(エスケーパーズオンライン)

ウールとヘンプの特長を併せ持つ軽くハリのあるジャケットコート

「生地から選び出していることもあり、秋冬はコートやアウターなど厚地のものから作ります。この生地は、ウールとヘンプが混ざっています。もともと機屋さんが持っていた糸をベースに縦糸横糸を濃淡のオレンジに染めているのですが、ヘンプが染色差で薄く見えている。ヘンプが入ることで軽くパサっとしたテクスチャーになってハリも出るのがすごくいいなと思って。

ウールとヘンプ、ウールとヤクのように、両方のいいところを掛け合わせた素材に新しさを感じて、これでジャケットよりは重めでコートより軽い中間ぐらいのアウターを作りました。もう1型ロングジレも作っています。美しい立体感とシルエットが出るところが気に入っています」

ガウンコート ¥172,000/Postelegant(エスケーパーズオンライン)

軽くて暖かいドライタッチなガウンコート

「これは早めの時期から着られるガウン的なコートで、ウール100%ですが、撚りをしっかりかけた糸を使って高密に織っているので結構ドライなタッチです。オーバーサイズにさらりと羽織れるけど、ダブルフェイスなので意外と暖かく着回しもききます」

パンツ ¥34,000/Postelegant(ポステレガント)

楽ちんなのにきちんと感を演出、きれいめパンツの決定版

「シーズンごとに素材や色を変えて展開しているパンツの定番の形です。ウエストはゆったりゴム仕様で、センタープレスのようにピンタックを入れています。2020AWは、ウールとトリアセテートの混紡ですが、手触りに変化をつけて、触って納得してもらえるようなものを特に意識しました。
このパンツのようにシーズンをまたいで展開するのも、コレクションに通し番号を付けているのも同じ意味合いなのですが、 過去のコレクションとか関係なく好きに組み合わせてもらうことを考えています。リピートしてくださる顧客さんも増えています」

ムートンベスト ¥150,000/Postelegant(ポステレガント)

ムートン縫製の達人が作る無駄を削ぎ落としたシンプルなベスト

「ムートンのリバーシブルのシャツベストです。ムートンが単純に好きだからということもあって、昔からある素材の原点に戻るという意味でも、秋冬は毎シーズンと言っていいぐらいムートンのアイテムを出しています。これに薄いニットを着れば全然暖かいし、お手入れをしっかりしていれば長く着られるので、そういう意味ではサステナブルです。形は、ムートンだとライダース風ブルゾンに、金具のパーツがいっぱい付いてて重いというものが多いから、うちの場合はできるだけパーツは軽めに極力シンプルに、パッと着られるように裾も切りっぱなしにしています。縫製は、普段は山に入ってマタギをしていて、ムートン縫製の大会で優勝するほど腕の確かな職人さんにお願いしています。だいぶマニアックな世界なのですが(笑)」

【2021SS Collection】

ドレス ¥125,000/Postelegant(ポステレガント)

ウール×和紙、世界に誇る技術を駆使した素材が生む美シルエット

「ウールと和紙のダブルフェイスの素材で、リバー縫製といって、ほとんどを手縫いで仕立てています。機屋さんと一緒に開発して、特注で作っていただきました。最近和紙にハマっていて和紙の糸は昔からありますが、着ると本当に快適です。

吸湿性があり、ドライなタッチという特長が日本の気候にすごく適していて、いろいろ調べてみると、紙の布や服は昔からあって、やはり風土に合ってるというのがわかります。二重織りになっており、少しチラチラ透け感のある風合いが独特です。全身、ドレスで着たらもっと涼しくて気持ちいいかなと思い作ったアイテムです。生地自体もすごく軽くて、ハリがあるから、着るとしっかりシルエットも出ます」

トレンチコート ¥325,000/Postelegant(ポステレガント)
トレンチコート ¥325,000/Postelegant(ポステレガント)

究極のモヘヤ100%で作る贅沢すぎるトレンチコート

「紳士の高級スーツ素材にウールモヘヤの生地があるのですが、パリッとハリがあり、夏は涼しく着られる。ただ100%モヘヤはほぼなく、この生地がすごいのは、縦糸もモヘヤを使っているところ。そもそも繊維自体も特殊でオーストラリアで農業を営んでいる兄弟が、ストレスフリーで飼育しているヤギの毛を紡績しているので毛質がとてもよく、糸を細くできるから縦糸にも使える。

トレーサビリティとしてすべて公開していますが、一般的に流通しているモヘヤ糸とはまったく別物。しかもションヘル織機という1時間に1mも進まないような昔の機械を使って、糸にテンションをかけずゆっくり繊維を傷めずに織るので、かなり贅沢中の贅沢な生地です。日本でも有数の腕の良い縫製工場さんで縫ってもらっているので、佇まいも美しいです」

デザイナーインタビュー
「自分がこうしたいという思いよりも、服としての完成度が最優先」

──ポステレガントというブランドの特徴は?

「シーズンテーマは設けず、素材ありきのウェアラブルな服を、ユニセックスでサイズ展開して作っています。ブランド立ち上げからコレクションには、通しナンバーをつけて発表していますが、2021SSは、200番から237番。ナンバーをつける意味は、素材や色だけ変えて同じ品番の型を復活させたりするからです。トレンドやマーケテイングではなく、自分が作りたいものが気分的に合うからこのシーズンで出すということがあるためです」

──服づくりの出発点は何から?

「まずは素材(生地)選びから始めます。素材を集めていくうちに作りたいものが集積してきて、時がきたら発表するという流れでやっています」

──素材選びから始めるというだけあって、かなりのこだわりを感じます。生地からオリジナルで開発することも?

「そうですね。僕は実家が岐阜県なのですが、岐阜県羽島市と愛知県の一宮市一帯の尾州産地(世界的な織物の産地)が近いこともあり、直接出向いて一日中、工場を回ったり、機屋さんの倉庫を見せてもらったりしながらアーカイブをアップデートさせたり、新たに開発したりしています」

──タグにも「MADE IN JAPAN」を謳っていますが、日本製にこだわる理由は?

「クオリティ的にも信頼感があるというのと、やはり日本に還元するというか、服に関わる人を増やしていくというのは、ある種、デザイナーやブランドの使命だと思っています」

──素材選びのポイントは?

「天然のものが多いですが、タフさというか、物体としての強度を意識しています。例えば、このコートを10年、20年もたせようと思ったら、ある程度強度がないと、いかに大事に着ていても着られなくなってしまうので、素材を選ぶ時点で、どれだけ長持ちするかを重視します。僕は建築が好きで、建築家の考え方や作り方を見ていると、数十年から100年は当たり前で、それを前提に木材や石などの材料を選んでいます。それとまったく同じではないですが、考え方のベースは近いです」

──ではデザイン面はどうですか? それも建築と共通する考え方はありますか?

「僕自身あまり突飛なものは作りませんが、長く着たい服ってどんどん限られてくるので、そういったずっと着たい服であるように、ということを考えます。見た目には反映されてませんが、デザインという意味では着心地が大事だと思っています。どれだけ見た目が好きでも着にくいものや、生地の重いものは、結局、着なくなってしまう。なので“着心地もよく見た目も好き”を目指しています。それが自分にとっての服としての完成度に繋がっているように思います」

──着方が複雑だったり、いわゆる個性的な主張のある服とは真逆の考え方ですね。

「かなりシンプルなものが多いです。ロングコートに関しては、着こなし方を決めてしまわないようにほぼボタンレス。基本的にベルトで巻くものが多いのですが、ベルトの使い方次第で自分の着たいように着られるとか、あまり決め打ちし過ぎない。 だから男女の区別も特にありません。僕が想像していなかったような着こなしを見たりすると、新たな発見があったりして楽しいです」

──素材に導かれるように作っていると、品質と価格、売り上げのバランスに折り合いをつけるのが大変なこともありそうです。

「新しいこと、やりたいことはいっぱいあるから、やってはいますが、例えば、ブランドが大きくなってくると、予算内で、ある程度型数もないとダメとか、ビジネス的な話になりがちですが、そこをなるべく考えないようにやりたいです。春夏だけど、アウターが多くて、真夏に着られるものはカットソーぐらい。でもそれでいいのかなって思っているというか。夏物が作りたいというときがきたら作るかもしれませんが、そのくらい自分の感覚で作っているほうが、意外とバイヤーさんたちもそうだよねって納得してくれる人が多いです」

──やりたいことが明確なほうが伝わりやすいのかもしれませんね。

「買う人も結構偏ってきているというか、好きな人は本当に好きだから、暑くて着られないから買わないではなくて、欲しいから買うみたいな人が多い。そして、それを自分なりに着こなせる人のほうが多いので、偏っていることも全然気にしてないです、正直(笑)」

ウールとヤクのそれぞれの要素が独特の光沢やとろみを生んでいる。シャツとパンツのセットアップで贅沢なパジャマスーツにも。
ウールとヤクのそれぞれの要素が独特の光沢やとろみを生んでいる。シャツとパンツのセットアップで贅沢なパジャマスーツにも。

──素材から入るということですが、シーズン全体のコレクションの統一感とかムードはどうやって表現しているんですか?

「春夏の場合は、建築やインテリアが好きなのでそういったものを見て、インスパイアされることはあります。2020SSは、メキシコの建築家、ルイス・バラガンの建物の色彩や開放的なムードをちょっと意識しました。2021SSは、インドの建築事務所のスタジオ・ムンバイのビジョイ・ジェインという建築家の作り方や考え方に共感して。建築って長い目で見るので、それを踏まえた上で、模型から作り始めて試行錯誤しながら作っていくプロセスや、職人さん100人くらいと一緒に住み込みで作業したり、土地に自生しているものを使うなど、そうすることで環境に調和させているのが、すごい素敵だなと。コロナ禍でどこも行けない状況で、日本にいて日本で作るということに向き合い、素材や色を意識したシーズンではあります」

──では、展開中の2020AWの場合は?

「どちらかというと秋冬は室内寄りっていうか。なんかこういうところにいて、こんなの着てたら気持ちいいよなとか、それくらいのムード感だけは繋がっているのですが。だからイメージビジュアルの撮影も絨毯を敷いて、家とかちょっと都会のムードで、どこかホームパーティーに出かけるとか、よりリアルなシーンのほうが思い浮かびました」

──なんか北欧的な気がします。北欧は冬が長いから、冬をいかに楽しく過ごすかがデザインの背景にあるようですが、それに通じる考え方のような。

「それに近い感じですね。あと僕、寒いのが苦手なのでそれもあります。だからアウターも厚地が多かったり、 しっかり暖かいものを作りがちです(笑)。ただ、冬物はそうですが、春夏は真夏以外が多いから、結果、冬から秋口まで3シーズン通しで着られます。シーズンをまたいで合わせられる服ということも意識してるので、 前シーズンはあれ買ったから、今シーズンはこれと合わせられるねとか、そうやって蓄積できるようにしています」

──ポステレガントの服は、根本的なスタンスは変わらず、素材から始まり、中田さん自身の気分やムードが反映されて完成していくからブレないですね。

「そうですね、一見シンプルなものが多いので、着心地とか肌触りとか、着たときの楽さとか、そういうところで、ずっと着られることによって、より魅力が伝わる服だと自分では思っています」

POSTELEGANT(ポステレガント)
Tel/03-5738-8507
https://www.postelegant.com/
Instagram:@postelegant

ESCAPERS online(エスケーパーズオンライン)
Tel/03-5464-9945
escapers.jp
Instagram:@escapers_online

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記

Photos:Kouki Hayashi(Item) Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue

Profile

中田優也Yuya Nakata 1988年、岐阜県出身。名古屋学芸大学在学中に渡仏、2010年Académie Internationale de Coupe de Paris を卒業後、Lutz Huelle(ルッツ ヒュエル)でスタージュを経験。帰国後、「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」「ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)」でインターンを経験。2013年に文化ファッション大学院大学を首席で修了。2014年からオンワード樫山に入社し、「BEIGE,(ベイジ,)」のデザイナーを経て、2017年より秋冬シーズンより自身のブランド「POSTELEGANT(ポステレガント)」をスタート。2019年東京ファッションアワードを受賞。
佐々木真純Masumi Sasaki フリーランス・エディター、クリエイティブ・ディレクター。『流行通信』編集部に在籍した後、創刊メンバーとして『Numero TOKYO』に参加。ファッション、アート、音楽、映画、サブカルなど幅広いコンテンツ、企画を手がけ、2019年に独立。現在も「東信のフラワーアート」の編集を担当するほか、エディトリアルからカタログ、広告、Web、SNSまで幅広く活動する、なんでも屋。特技は“カラオケ”。自宅エクササイズ器具には目がない。

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