SNS時代の不器用な恋愛を描く、映画『パリのどこかで、あなたと』
『猫が行方不明』や『スパニッシュ・アパートメント』で知られるセドリック・クラピッシュ監督の新作『パリのどこかで、あなたと』が公開。パリという都会を舞台に、隣り合うアパートメントで一人暮らしをしている30歳のメラニーとレミーの不器用な恋愛模様を描く。
巴里の空の下、隣りにいるのに、知り合わない二人。
フランスの人気監督が贈る「他人同士」の女と男が織り成すロマンティックコメディ
ところはパリ。隣りに並んで建つアパートメントの各々の角部屋で、それぞれひとり暮らしをしている女と男がいる。実は隣り合った空間に住む二人だが、互いのことをまったく知らない。同じ景色を見つめ、同じ電車にも乗るし、同じ店で買い物をするが、相手を認識することなくすれ違う。せっかくの「接点」に気づかない他人同士の二人。そして奇しくもともに30歳という人生の節目の年齢を迎えている――。
こういった類のこと、都市生活者にはありがちなシチュエーションではないか。年齢も抱えている事情も、住んでいる場所も近いのに、実質交わることのない人生を生きる不思議な距離の在り方。とりわけソーシャル・ディスタンス――外出を控え、顔をマスクで隠してしまうポストコロナの世界では、さらに進行する傾向かもしれない。
本作はそんな現代の喧噪の中での出会いを見つめたヒューマンドラマであり、主人公の二人が“互いを知らない”まま進行する一風変わったロマンティックコメディだ。監督はフランスの中堅世代を代表するひとり、セドリック・クラピッシュ。主演は彼の前作『おかえり、ブルゴーニュへ』(2017年)で姉弟役を演じたアナ・ジラルドと、フランソワ・シヴィルの再タッグとなる。
女性はメラニー(アナ・ジラルド)。がんの免疫治療の研究者として働く彼女は、元カレとの恋愛を引きずりながらも、仕事に追われる日々を過ごしていた。
男性はレミー(フランソワ・シヴィル)。巨大な物流倉庫で働く彼は、AIの導入などで同僚が解雇されるも、自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。
まもなくメラニーは過眠症になり、いくら寝ても疲れが取れない。レミーは不眠症になり、時に地下鉄で失神したり。日常生活に支障をきたした二人は、それぞれセラピーに通い始める。
そんな中、メラニーは友人に勧められたマッチングマプリにハマっていく。たくさんの男性たちと一夜限りの関係を繰り返すようになるが、しかし心の飢餓はますます強くなっていく。
「今は出会いが簡単すぎて怖いくらい」――メラニーはそうつぶやくが、SNSを介してインスタントに知り合った相手と、継続的な信頼や安定を築いていくことはなかなか難しい。
一方のレミーは職場で出会った女性とデートするようになるが、苦戦。同じように孤独を埋められない二人だが、果たして“共振しながら知り合わない”メラニーとレミーの運命は……!?
セドリック・クラピッシュ監督は、ありふれた市井群像の中で、不器用に浮遊するモラトリアム模様を描くことに格別の冴えを見せる。とりわけロマン・デュリス演じる主人公グザヴィエの25歳から40歳までの成長を追う「青春三部作」――『スパニッシュ・アパートメント』(2002年)、『ロシアン・ドールズ』(2005年)、『ニューヨークの巴里夫』(2013年)が人気だが、今回もさまよえる現代人が抱える苦悩や葛藤を優しく見つめ、彼らが過去を受け入れて前進する姿を大らかなタッチで綴っていく。
パリの空の下、繊細な人間群像をほっこりする後味まで紡いでいく語りは、ジュリアン・デュヴィヴィエの古典作などを受け継ぐフランス映画の伝統的な真骨頂ともいえる。ちなみにクラピッシュ監督の代表作の一つに『猫が行方不明』(1996年)という傑作があるが、今回劇中で「猫が行方不明」になるエピソードが(セルフパロディ的に?)使われているのにも注目。あとクラピッシュ監督は、ほぼ毎回自作に端役でさりげなくカメオ出演することでもファンにはおなじみ。今回はパーティーのシーンで「妻はラカン主義者だ。小難しい話ばかりで、気が休まらない」などと愚痴っている男の役でチラリと登場している。(監督の顔写真を検索しつつ)探してみて!
『パリのどこかで、あなたと』
監督/セドリック・クラピッシュ
出演/アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル
12/11(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国順次公開
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© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA
Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito