あっこゴリラインタビュー「100年変わらなかったフェミニズム。そろそろ、人類進化しませんか」
「ラッパー/フェミニスト」の肩書きをもつ、ミュージシャンの「あっこゴリラ」。アルバム『GRRRLISM』(18年)や、各メディアで、ジェンダー平等やセクシャルマイノリティ、ルッキズム、あらゆる差別について言及してきた彼女が、グッチのプロジェクト「CHIME FOR CHANGE」のジン『CHIME ZINE N.2』に登場。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で、現在、日本は世界121位。その現状の中で彼女が今、考えることとは?
ラップバトルによって見えた、ジェンダー差別とルッキズム
──ロックバンドのドラマーとしてデビューし、解散後の2016年、ヒップホップアーティストとして再デビューしました。ジェンダーについて考え始めたのはいつ頃ですか?
「ずっと、社会規範からはみ出してしまう自分に、生きづらさを感じていました。枠に収まる自分を伸ばして、枠からはみ出すところは短所として直さなきゃいけないと感じていて。少しでも枠に収まらないと、死にたくなるほど苦しくて、『普通に生きること』がとても大変でした。ラップというのは、自分の内面を分析した上で、世界と対峙する行為です。ラップを始めてから、自分はどういう人間で、どういう環境で育ち、何を考えているか。自分自身を解体して考えたことが、セルフカウンセリングになりました」
──ラップバトルに出場した経験もきっかけになったとか。
「社会の不均衡は、ラップバトルにも顕著に現れていました。まず、男女比が、9.8:0.2ぐらいで、圧倒的に女性が少ない。だから、バトルに出場するだけで目立つし、攻撃されるのは女性であることや外見のこと。それで盛り上がるという超マチズモ社会だったんです。だから、それもフェミニズムを考える強いきっかけにはなりました」
──2016年に1stアルバムをリリースし、2017年に「ウルトラジェンダー」を含むEP『GREEN QUEEN』、翌年には1990年代初頭のフェミニスト・パンクムーブメント「Riot grrrl(ライオットガール)」からインスパイアされたアルバム『GRRRLISM』を発表しました。最近の作品になるほど強いメッセージがありますよね。
「ラップを始めたのが2015年なんですが、それまでいろいろ溜め込みすぎていたので、心がバグを起こしていたんです。最初の3年ぐらいは、自分をひとつずつ確認して、セルフカウンセリングしながら、言葉にしていって。しんどい作業でしたけど、ヒップホップで自分自身を治したことは、成功体験として自信にもつながりました。方向性が見えてきたのは『ウルトラジェンダー』のあたりから。それまで、男性社会のヒップホップ界では、私は“イロモノラッパー”と呼ばれていたんですが、その頃から、すごく熱量の高いメールや手紙をもらったり、リスナーも増えていきました」
100年前から続くフェミニストのリレーのたすきをつなぐ
──反応が多かったのは、女性からですか?
「女性も男性も、LGBTQ+の方も、いろんな方からリアクションをいただきました。そこから3年ぐらいそういった活動をしてきたんですけど、そもそも1980年代、ヒップホップが生まれた時点から、フィメールラッパーたちは『私たちにだって人権がある』と訴えてきたんですよ。でも、それで世の中が変わったわけではなく、今も同じことを言い続けなくちゃいけないんです」
──ここ数年、フェミニズムのムーブメントは大きくなっている印象がありますが、変化は感じますか。
「変化のスピードが遅いですよね。私が無駄毛処理をテーマにした『エビバディBO』をリリースしたのが2018年。今年、貝印の広告(※1)が話題になって、私のところにも取材が殺到したんですが、2年のタイムラグがありました。ただ、フェミニズムの歴史を調べると、声を上げてから社会に定着するまで、だいたい100年はかかっています。『ウルトラジェンダー』や『GRRRLISM』で描いたことは、1970年代には、すでに言われていたこと。これが実現するのは、2070年頃なのかと思うと気が遠くなりますね」
──何世代にもわたって活動して、やっと現在の段階なんですね。
「だから私も、フェミニズム文脈においては、100年以上前から続くリレーのたすきを繋いでるだけなんです。そうやって走り続ける中で、今、一番の課題は、一枚岩にならないバラバラの私たちが、このままどうやって共存していくかということ。みんな、平等や平和など同じ未来を望んでいるし、新しいシステムが必要だと思っているけれど、一人一人の考え方は違います。でも、それでいいと思うんです。そんな私たちが、どうやって手を繋いで前進していくか。それには、個々を尊重した上で、社会の変革を推し進めたいという意識を、どれだけ共有しているかが重要になってくるのかもしれません。SNSなどのオンラインムーブメントは今の時代ならではの画期的なことだと思うんですが、その前提を共有していないと、お互いの矛盾を指摘し合うばかりで、共存もできないし議論が深まらないですよね」
──エイジズム(※2)やルッキズム(※3)も、フェミニズムと同じくらい議論されています。
「コロナの自粛期間中に、Zoomgals(※4)というギャルサーを結成して、曲をリリースしたんです。それで出演したバラエティ番組で、最年長の私がギャルを名乗るのは、おかしいと言われて。まだその話? と愕然としました」
──「ギャル」はマインドですよね。
「そう! 若さ特有の良さはあるけれど、解消するべき差別があることも事実。ルッキズムだって、外見で価値を決めないで欲しい、価値を決めるのは自分自身って、何十年言い続けなきゃいけないの?と思います。だから、もう言葉ではなく実践するしかないんですよ」
「旗振り役になりたいわけじゃない。みんなで考えよう」
──2019年頃から、「フェミニスト/ラッパー」という肩書ですが、フェミニストを表明することも重要なことだと考えていますか。
「ラベルはラベルであって、私はいつでも“あっこゴリラ”でいるだけです。それより、フェミニスト間にも分断があって、正論を追求する人、自分なりのフェミニズムを実践する人と様々です。それがお互いに揚げ足取りになっている現状があって。これまで、男性社会で女性がサバイヴするために、受け入れてきたことだってたくさんあるじゃないですか。それは否定したくない。Zoomgalsも、それぞれの考え方はあるんですけど、一緒に共存しています。こういう姿を見せることが重要なんだと思っています」
──今回の『CHIME ZINE N.2』は、フェミニストとしてストレートなメッセージを掲げていますが。
「ZINEには誤解を恐れずにストレート直球を書きました。でも、私は正論だけを追求したいわけではないから、真反対の視点で書いた曲をリリースしたりもしています。あっこゴリラはブレてる? と思うかもしれないけれど、私はフェミニズムの旗振り役になりたいわけじゃなくて、思考を促したいだけ。今年の新型コロナウィルスの感染拡大によって、誰もが自分やとりまく社会について、改めて考えましたよね。そして、みんな今、勉強したいモードが高まっていると思います。私の考えを押し付けたくないので、一人ひとりが学んで考えて、その上でお互いが共存できたらと思っています。そろそろ、人類進化しませんか。私の曲や言葉がきっかけの一つになったら嬉しいです。私も頑張ります!」
貝印の広告(※1) 刃物メーカー「貝印」が2020年8月17日よりバーチャルモデル「MEME」を起用し、「ムダかどうかは、自分で決める。」というコピーで、ムダ毛を剃る・剃らないの選択の自由を提案する広告を展開。
エイジズム(※2) 年齢を重ねることに対するネガティブな感情や、年齢による偏見や差別のこと。
ルッキズム(※3) 容姿の美醜によって人を評価すること。容姿による差別。
Zoomgals(※4) Valknee、田島ハルコ、あっこゴリラ、なみちえ、ASOBOiSM、Marukidoによる“ギャルサー”。10月に2ndシングル「生きてるだけで状態異常」を配信リリース。現在アルバム制作中。
グッチのプロジェクト「CHIME FOR CHANGE」のジン第三弾『CHIME ZINE N.2』
CHIME FOR CHANGEは、ジェンダーの平等を目指して闘う世界中の活動家やアーティストの声をより大きなものにするためのジン『CHIME』を発行。最新号では、日本社会におけるフェミニズムや、ジェンダーおよび自己表現にスポットライトを当てた特集が組まれ、東京の寿司店オーナーであり寿司職人の千津井由貴、クィアのフェミニストとして活躍するライターであり日英バイリンガルのZINE『B.G.U.』を創刊した森本優芽、インターセクショナル・フェミニズムとインクルージョンの理念に基づいてパーティーイベントを企画・開催している「WAIFU」のメンバー、ラッパーのあっこゴリラなどが寄稿。本編では、障害を持つ女性と少女たち、難民、女性性器切除(FGM)、児童婚といった世界中から寄せられた多様なストーリーを紹介し、行動を呼びかけている。
配布場所/グッチ ガーデン(フィレンツェ)、グッチ ウースター ブックストア(ニューヨーク)、世界各地の厳選された書店
日本語版配布場所/代官山 蔦屋書店、waltz、BIBLIOTHECA / DOVER STREET MARKET GINZA、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、本屋B&B(すべて東京)、恵文社一乗寺店(京都)
デジタル版/chime.gucci.com/zineよりダウンロード可能
お問い合わせ/グッチ ジャパン クライアントサービス
Tel/0120-99-2177
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Photos:Chikashi Suzuki Styling:Kan Fuchigami Hair & Make-up:Megumi Kuji Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Chiho Inoue, Mariko Kimbara
Special Thanks:Ebisu Batica