人の営みに伴走する馬たち。「ベゾアール(結石)」 シャルロット・デュマ展
銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展を、アートプロデューサー/RealTokyoディレクターの住吉智恵がレポート。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年11月号掲載)
人の生と死に寄り添う馬たちの瞑想
人生の哀しみや喜びのとき、身近な動物たちは人間の感情に寄り添い癒やしを与えてくれる……ような気がする。人は特定の動物を飼育し、食糧源として繁殖させながら、同時に擬人化し、何かの象徴としてあつかう。デュマが人間と密接な関係を育んできた動物たちのポートレイトに取り組むのは、両者のあいだに横たわるこの深い矛盾を掘り下げ、理解するためだ。
デュマは2014年以来、北海道、長野、宮崎、沖縄などを訪れ、日本に現存する稀少な在来馬を撮影し続けている。藍染めの薄布が微かに揺れる空間では、与那国島の馬と少女の親密な物語を綴った映像作品が展示され、第2の展示室では、デュマの当時5歳の娘を子馬に見立て、島の野生馬との交流を描いた作品が上映される。これらの展示を繋ぐのが古墳から出土した埴輪や馬具、馬の胃腸で形成される美しい結石「ベゾアール」など、馬にまつわるオブジェだ。
さらに上階で展示されているデュマの最初の映像作品を見のがさないでほしい。米国の戦没軍人を慰霊する墓地の厩舎で、騎馬隊を務める白馬が睡眠と覚醒のあいだでまどろむ様子を見つめる本作は、長回しの単調なカメラワークが複雑で不安な感情をかき立てる。人の生と死の営みに寄り添う動物は、人間を遥かに超える能力を提供しながら、主人の生き様をどう捉えるのだろう。馬たちは黙して語らないが、瞑想のなかで反芻するその記憶を追体験してみたいと思わせる作品である。
「ベゾアール(結石)」 シャルロット・デュマ展
会期/〜12/29(火) *休館日:11月14日(土)
会場/銀座メゾンエルメス フォーラム
住所/東京都中央区銀座5‐4‐1 8・9階
Tel/03-3569-3300
入場料/無料
www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/
Text:Chie Sumiyoshi Edit:Sayaka Ito