シャイア・ラブーフが自身の壮絶な子役時代を振り返る。映画『ハニーボーイ』
俳優シャイア・ラブーフが自伝的脚本を手がけ、イスラエル系アメリカ人の映像作家、アルマ・ハレルが監督を務めた話題作『ハニーボーイ』がいよいよ日本でも公開される。『ワンダー 君は太陽』などで注目されるノア・ジュプ(2005年生まれ)が、主人公オーティスの子供時代を、若手実力派ルーカス・ヘッジズが10年後のオーティスを演じる。
子役出身、シャイア・ラブーフの自伝的脚本を映画化した
「父と息子」の愛憎と葛藤を描く渾身の珠玉作
映画と人生が重なり合う迫力と哀切。10代の頃からハリウッドの人気子役として活躍し、2007年の主演作『トランスフォーマー』で一躍トップスターの仲間入りを果たした俳優シャイア・ラブーフ。だが彼は表舞台の栄光と交差するように、飲酒による事故や逮捕など数々の事件を起こし、私生活ではトラブルメーカーとして影の道に突っ込んでいく。
問題児となってしまったラブーフの内には、どんな破壊衝動や病んだ魂が巣喰っていたのか? そんな彼がリハビリ施設にいた頃、治療の一環として書き上げた自伝的脚本を、映画化したのが『ハニーボーイ』だ。この映画で彼は自身のトラウマの原因である父親を、自ら演じる。
物語は2005年の「現在」と、1995年の「回想」を往還しながら語られていく。ハリウッドの売れっ子俳優として仕事に忙殺されている「現在」のオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、酒に溺れて自動車事故を起こし、更生施設に送られる。そこでPTSD(心的外傷後ストレス障害)の兆候があると診断され、過去に受けた痛みの素を突き止めるために、少年の頃の記憶をたどり始める。
かくして10年前。12歳のオーティス(ノア・ジュプ)は、子役として華やかなショービズ業界に身を置きながら、普段は狭い安モーテルで無職の父親ジェームズ(シャイア・ラブーフ)とふたり暮らし。父親はかつて道化師の仕事をしていたが、酒とドラッグで身を持ち崩し、妻とも離婚。いまは禁酒会に通いながら息子のマネージャー代わりを務めていた。
いわゆる「毒親」のリアルストーリーである。自分の子役時代をモデルに描く、という映画は、グザヴィエ・ドラン監督の『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(2018年)が最近あったが、『ハニーボーイ』の父と息子の愛憎のかたちは極めて複雑だ。オーティスは「ドジャースのノモ(野茂英雄)」が大好きな普通の少年でもあるが、自分が日銭を稼がねばならぬ緊張感の中で、生活能力のない自称ステージパパの父親を養っている。父ジェームズには自分も一応タレント的な活動をしていたプライドがあり、しかし息子に頼りっきりのダメ人間である自覚にも苛まれ、いつも不安定に突然感情を爆発させる。オーティスはその身勝手で威圧的な態度に振り回され、窮屈に支配される日々――。
12歳のオーティスを演じるのは、『ワンダー 君は太陽』(2017年)や『クワイエット・プレイス』(2018年)で注目されたノア・ジュプ。10年後のオーティスには、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたルーカス・ヘッジズ。さらにオーティス少年に束の間の母性を与える“シャイ・ガール”役に扮した、これが映画デビューとなるシンガーソングライターのFKAツイッグスなど、キャストの演技はとても充実している。
だが何より観る者の心を打つのは、やはりシャイア・ラブーフの渾身の芝居だ。劇中で「虐待親父」とも称される我が父を演じ、彼の生き様を自らの肉体と精神でなぞっていく体験は、一体いかなるものだったのだろう?
それはかつて心が届かなかった親の孤独や立場を理解し、絆を回復させるための旅の過程だったのかもしれない。もちろん父親のバイクの後ろに乗る時など、親密な愛を感じる時間もあった。「現在」のオーティスはカウンセリングを受けて、光の指すほうを探しながら、やがて物語は意外な展開を迎える。
2019年のサンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞。監督&プロデューサーはドキュメンタリー作品で素晴らしい成果を収めてきたアルマ・ハレル。エンディングに流れるボブ・ディランの名曲「オール・アイ・リアリー・ウォント・トゥ・ドウ」(1964年のアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』収録)――「♪俺が本当に望むのは、君と友だちになることさ」との歌詞が、本作のすべてを表わしているようでもの凄く泣ける。大人になったシャイア・ラブーフは、過去を赦し、自らをセラピーするためにも、この珠玉の「父の映画」を作ったのだろう。
『ハニーボーイ』
監督/アルマ・ハレル
脚本/シャイア・ラブーフ
出演/ノア・ジュプ、ルーカス・ヘッジズ、シャイア・ラブーフ
8月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
gaga.ne.jp/honeyboy/
配給/ギャガ
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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito