エンデが夢見たユートピアに向かって
盗まれた時間を人間に取り返すべく活躍する不思議な女の子「モモ」の生みの親ミヒャエル・エンデは、時間とお金にまつわるたくさんの示唆に富んだ文章や発言を遺している。これからの社会を考えていく上でのヒントにあふれた言葉のほんの一部を紹介。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年7・8月合併号より抜粋)
「時間とはすなわち生活なのです。そして生活とは、人間の心の中にあるものなのです」
──『モモ』大島かおり/訳 より「お金は人がつくったものです。変えることができるはずです」
──『エンデの遺言』河邑厚徳、グループ現代/著 より「私が考えるのは、再度、貨幣を実際になされた労働や物的価値の等価代償として取り戻すためには、いまの貨幣システムの何を変えるべきなのか、ということです。これは人類がこの惑星上で今後も生存できるかどうかを決める決定的な問いであると、私は思っています」
──『エンデの遺言』河邑厚徳、グループ現代/著 より「本当に巨大な崩壊が来るまで、何も変わらないだろうと、わたしは思っています」
──『ものがたりの余白』田村都志夫/聞き手・訳 より「人間は、突然まったく新たな姿勢をとることができるし、新しい思考ができるし、新しい仕事ができるということが言いたいのです。それらは、おのれのなかから創造的に行うのです」
──『ものがたりの余白』田村都志夫/聞き手・訳 より世界的ベストセラーとなったミヒャエル・エンデの『モモ』は、時間をテーマにした物語です。成功と利益をちらつかせ人々に無駄な時間を倹約させようと吹き込む「灰色の男たち」との戦いを描く童話でした。でも、これは単なるファンタジーではない。現代社会への鋭い風刺がそこには込められています。それも「人々が慌ただしい毎日に忙殺されて心の豊かさを失ってしまっている」という表面的な内容ではなく、資本主義の根幹をなす金融システムへの根源的な問いかけをはらむものでした。エンデ自身がそのことを明言しています。
お金とは何か。生涯をかけてそのことを根本まで考え続けたのがミヒャエル・エンデという思索家でした。『モモ』以前に書かれた『遺産相続ゲーム』でも、遺作となった『ハーメルンの死の舞踏』でも、モチーフとなっているのは貨幣経済社会の矛盾です。なぜ利子が利子を生むのか。自然界にあるものは全て時が経てば朽ち果てて土に還っていくのに、なぜ貨幣だけが不滅なのか。金融システムのはらむ問題について考え、語り続けてきました。
「コロナがあけたら──」。みながそう言います。でも、戻ってくるのは、本当にこれまでと全く同じ日常でしょうか。パンデミックによって人類は経済活動を止め、世界各国で金利がほぼゼロに近い水準まで下がりました。経済成長率は過去最大規模の落ち込みとなることが予測されています。その一方で、たくさんの人が自宅で過ごす「時間」と「生活」を手にしています。
そんな今だからこそ、エンデの言葉に耳を傾けてみませんか。
※『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年7・8月合併号では、エンデ作品を愛した作家・漫画家の小林エリカ、マームとジプシー主宰・演劇作家の藤田貴大によるエッセイも掲載しています
Illustration:Erika Kobayashi Text:Tomonori Shiba Edit:Chiho Inoue