「ドレス・コード?」を問うファッション展 キーワード&コメント集
ファッションとは、ルールの変わり続けるゲームである…!? 京都国立近代美術館で開催中の「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」展。謎めく問いかけに満ちたそのこころを、主催の京都服飾文化研究財団(KCI)に直撃。(「ヌメロ・トウキョウ」7・8月合併号掲載)
「ドレス・コード?」をめぐるキーワードたち
展覧会の柱となるキーワード全13本より、見どころを抜粋。KCIキュレーター石関亮のコメントとともに紹介する。全人類総参加、“装い大会”の未来がここに。
高貴なふるまいをしなければならない
「階級や性別などのルールに縛られていた18世紀フランス。マンガ『イノサン』は当時を舞台に、自分自身の意志で生きていこうとする架空の女性マリーと、旧時代の象徴型ともいえるマリー・アントワネットの対比が描かれます。今回はKCI所蔵の18世紀の衣装を着た2人のマリーを描き下ろしてもらい、実物とともに展示します」
働かざる者、着るべからず
「特にこの10年、デザイナーたちの注目を集めているワークウェア。ジーンズをその象徴として捉え、現代へ至るバラエティに富んだ展開を紹介します。ジーンズは19世紀中頃にアメリカ西海岸で労働着として誕生しましたが、その歴史的な文脈があるからこそ、例えばそれをドレスに仕立てたときに面白さを感じることができるのです」
生き残りをかけて闘わなければならない
「軍服が発祥のトレンチコートと迷彩服。今はその記号性が薄れる一方で、さまざまなデザインが生まれています。バーバリーのトレンチコートといった典型的なアイテムと合わせて、フォルムや素材、ディテールがデザイナーや着用者によって多様化していく様子をご覧いただきます」
教養は身につけなければならない
「アートとファッションは相互に大きな影響を与え合ってきました。例えば、既存の作品の形を変え、意味をずらし、新たな表現とするサンプリングでは、元ネタがわかるかどうかが教養の有無に関わってくるなど、いろいろな楽しみ方があります。服装を通して極めて高度なコンテクスト(文脈)のゲームが繰り広げられているのです」
見極める眼を持たねばならない
「ロゴは本来、他社製品との区別のために用いられたものでした。それがやがて品質の良さや創造性を訴えるものになり、ステータスシンボルに。今ではグラフィックの要素が強くなり、おしゃれの指標として消費されている。ルイ・ヴィトンの古いトランクや、2000年頃に主流となったモノグラムロゴの服などを展示します」
服は意志を持って選ばなければならない
「シャネルスーツはココ・シャネルが自分用にデザインしたもので、当時の社会に進出していく女性像を体現していました。このように服装で自分がどういう考えを持っているか、どんな生き方をしているかを提示することができるのです。一方で、こうした象徴的な服装がステレオタイプ化されたスタイルを生んできたことも取り上げます」
他人の眼を気にしなければならない
「世界中のいろいろな場所へ行き、同じような服装をしている人を撮影しているオランダの写真家ハンス・エイケルブームの作品を展示します。服を買った場所や理由、時期などはまちまちだと思うのですが、結果として似通ったものになる。ファッションは個性の表現といわれていますが、そこに矛盾が生じてしまうという皮肉も感じられます」
大人の言うことを聞いてはいけない
「ライダースジャケットとタータンチェックはともに、本来の意味とは異なる文脈で20世紀後半の若者文化を代表するモチーフになりました。これらの反体制的なイメージは時代を超えて消費される一方で、こうした文脈が根付いているからこそ、幅広いデザインが可能になるという側面もあります。女性服も展示しながら、その変遷も紹介します」
だれもがファッショナブルである
「ハイファッションの斬新なルックとともに、一般には知られざる人々による面白い装いを両極端で見せていきます。さまざまな要素をミックスするグッチのスタイルをはじめ、写真家・編集者の都築響一さんの目線から、異色肌ギャルや北九州の成人式の様子などを紹介します。こうした現代の装いのなかに、新たな時代のルールが潜んでいるのかもしれません」
マームとジプシー×KCIコレクション
「演劇において衣装は、役柄や人物像を表す大事な要素です。そこで、ファッションブランドとのコラボレーションなどで知られる劇団『マームとジプシー』を主宰する藤田貴大さんに作品を依頼。26人のポートレートを撮影し、その人物像とKCI収蔵の洋服を言葉の断片によって結び付けていただいています。果たしてどんな作品になるのか? ご期待ください」
出展クリエイターのコメント
中里唯馬(YUIMA NAKAZATO デザイナー)
1. 展覧会に期待することは?
「衣食住のうち、人間だけが衣服を身に纏います。その衣服は立場や職業、ジェンダーや趣味趣向、アイデンティティの表現など、さらに多様化しています。装うとは何なのかを考える展覧会を通じて、未来をより明確に想像できるようになると期待しています」
2. 出展作品に込めた思いを教えてください。
「出展作の一つは小さな長方形のパーツを針と糸を使用せずにつなぎ合わせ、形や素材などを自由にカスタマイズできるもの。2017秋冬『FREEDOM』は、衣服の在り方を大きく変えるアイデアを探す旅が『やがて衣服は一点物しか存在しなくなる』というヴィジョンのもと、大きな進化を遂げたコレクションでした」
藤田貴大(マームとジプシー主宰、劇作家、演出家)
1. 展覧会に期待することは?
「何がファッションであって、同時にファッションではないのか、そもそも着るとは何なのかという難しさについて、今までよりもだいぶ踏み込んだところで考えてみたくて、参加しようと思いました」
2. 出展作品に込めた思いを教えてください。
「僕の身近にいる26人の日々、朝起きてから夜がまた訪れるまでの流れを具体的に観察したときに気づいた規則性や、またはますますわからなくなったことを、できる限り正直に綴ってみようと思います」
「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」
会期/2019年8月9日(金)〜10月14日(月・祝)
住所/京都国立近代美術館 京都市左京区岡崎円勝寺町 岡崎公園内
TEL/075-761-4111
URL/www.kci.or.jp/dc
18世紀の宮廷服から現代のモードまでKCIの収蔵品、マンガや映画、ウォーホルや森村泰昌らのアート作品も交えて“装いの実践(ゲーム)”を見つめ直す展覧会。
(主催:京都国立近代美術館、公益財団法人京都服飾文化研究財団)
Text : Itoi Kuriyama Edit : Keita Fukasawa