自分の暗さに目を凝らすドラマ「死と乙女」
宮沢りえ、堤真一、段田安則。この3人がそろうのであれば、演目が何であれ足を運びたいと思う顔ぶれだ。時代物でもいい。もしくは明るく派手な作品なら、どんなに楽しいだろう。
しかし、この9月から上演されるこの作品はそのいずれでもない。舞台は多くの日本人にとって縁の薄い地球の反対側、南米の独裁政権下とその直後。作者のアリエル・ドーフマン自身が、この舞台のベースとなった時代に壮絶な迫害を受け、その体験をもとに生み出した物語なのだ。
南米チリのピノチェト独裁政権は終わり、犯人捜しが始まろうとしている。かつて反政府側の活動家だった弁護士とその妻。妻は、かつて受けた拷問と凌辱のトラウマに今も苦しんでいる。嵐の夜、夫が車の故障で立ち往生しているところに、手を差し伸べた一人の医師。夫を送ってきたその医師こそ、妻のかつての忌まわしい記憶を掘り起こす存在だった。妻の追及と復讐が始まり、男たちもまた暗い記憶にとらわれていく。観客は、妻である宮沢りえの狂気、夫である堤真一の弱さ、そして、疑惑の医師である段田安則の狡さに目を凝らすことになる。3人の嘘と保身と妄想の合間にかすかに見える真実らしきものを手繰っていくのである。
とにかく暗い。夜明け前が最も暗い、というのは先人の言葉であるが、まさに、独裁政権下の闇を必死で潜り抜けた人間たちが、そこからはい出そうとする最後の暗さは目を背けるばかりだ。だが、地球の反対側の深い闇の話がこの国でも繰り返し上演されるのは、この暗さが人の心をとらえて離さない普遍的なテーマだからだろう。
演劇は楽しく浮き立つ体験ばかりをもたらすのではない。演劇を通して自分自身の狂気、弱さ、狡さに目を向けることも、ドラマなのである。
舞台『死と乙女』
作/アリエル・ドーフマン
翻訳/浦辺千鶴
演出/小川絵梨子
出演/宮沢りえ、堤真一、段田安則
美術/松井るみ
照明/原田保
衣装/前田文子
音響/加藤温
ヘアメイク/佐藤裕子
舞台監督/瀧原寿子
プロデューサー/北村明子
企画・製作/シス・カンパニー
チケットの詳細は公演サイトから
<東京公演>
会場/シアタートラム
住所/東京都世田谷区太子堂4-1-1
TEL/世田谷パブリックシアターチケットセンター03-5432-1570
(発売初日特電10:00~19:00 初日のみ店頭販売なし)
03-5432-1515(7/29以降10:00~19:00 オペレーター対応)
公演日程/2019年9月13日(金)~10月14日(月・祝)
料金/8,000円
<大阪公演>
会場/サンケイホールブリーゼ
住所/大阪府大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F
TEL/ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888(11:00~18:00/発売初日のみ10:00~18:00)
*窓口での販売は7/29(月)11:00より。(ただし残席がある場合のみ)
公演日程/2019年10月18日(金)~10月21日(月)
前売り開始日/2019年7月28日(日)
料 金/S席8,000円 A席6,000円 中2席バルコニー4,000円(全席指定・税込)
*中2階バルコニー席は非常に見づらいお席です。ご了承の上、お求めください。
※各公演とも小学生未満のお子様はご入場いただけません。
Text: Reiko Nakamura