今という時代が求める共感力の磨き方
ファッショニスタの手に必ず握り締められているスマートフォン。最新コレクションの模様をアップし、数千、数万のフォルワーから「いいね♥」を浴びる。共感を得ることは、社会を動かす大きな要因となっている現代において、共感力を高めるポイントとは何か?「レバレッジコンサルティング」代表取締役社長、本田直之に聞いた。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年7・8月合併号掲載)
タテ社会からヨコ社会へ
1990年代まで続いた上下関係でつながるタテ社会。それがインターネットやSNSが普及した2000年代を境に劇的に変化した。これを本田さんは“ヨコ社会”と表現する。
「先輩や上司に従順でいることが正解だったタテ社会は、いわば強制の社会でした。上の言いなりにならないと情報が入らない。会社、学校から外れると、村八分になってしまう。狭いコミュニティでの協調性や忖度する能力が必要だった息苦しい社会でした。しかし終身雇用が崩壊し転職が一般化。インターネットやSNSの普及により誰でも多くの情報を得ることが可能になった現在、無理にタテ社会に所属する必要はなくなったのです」
そこで新たに浮上したのがヨコのつながり。キーワードになるのは“共感性”だ。
「SNSのセンスに共感した人たちが世界レベルでつながり、コミュニティを形成し新しいビジネスが生まれています。共感でつながる社会はすでに始まっているのです」
インスタが呼び起こした共感性
ヨコ社会への転換が顕著に表れているがSNS。特に画像メインのインスタグラムだ。
「インスタは相互承認型のフェイスブックと違い、センスがいいと感じ共感した人を簡単にフォローすることができます。フェイスブックでは、上司から友達申請されて困ることもありがちですが、インスタはストレスフリー。不特定多数に発信できるから、世界から多くのフォロワーが集まりやすく、一般の人でもセンスさえあれば、数万人ものフォロワーを獲得することができる。必要なのは最低限の人間力と、共感を生むセンスです」
インスタグラムを通していち早く、多くの共感を得てきたキアラ・フェラーニやローラ、エイミー・ソングなどパワーインフルエンサーに共通するのも、センスとオリジナリティ。Photos:Aflo
共感を得るにはセンスとオリジナリティ
インスタグラムで多くのフォロワーを獲得できる人と、そうでない人の違いは?
「センス+オリジナリティです。普段のコーディネートをポストするにも、独自の要素が必要です。仙台在住の@bonpon511さんは、夫が定年退職後、夫婦のリンクコーディネートをアップするインスタを始めました。すると理想のカップルだと評判を呼び、現在71万人超のフォロワーがいます。日本を拠点にする香港出身の@little_meg_sui_megさんは、英語とプロ並みの画像で日本の食を発信。今や世界中のシェフが彼女をフォローしています」
大阪市中崎町の若いクリエイターによる再開発プロジェクトが盛り上がりを見せる。物々交換をテーマにしたEqual Projectより。
共感する=貢献する
インターネットを中心としたヨコのつながりを、ビジネスやライフスタイルに展開するには“共感と貢献”がキーワードになる。
「たとえ能力があっても、一人で成り立つビジネスやライフスタイルは制限されてしまうので仲間は必要です。会社組織では有能な人にぶら下がっていればどうにかなりますが、タテ社会を離れた自由な個人が共感をもとにつながって、それぞれの技術・能力をコミュニティに貢献をするとタテ社会以上の大きなパワーを生むし、お互いの力を高め合うことができる。僕が主催する『シェフズギャザリング』では星付きのシェフや、ムービーのディレクターなどがその技術を提供してくれて、強度の高いコアなネットワークが生まれています。そこから、新しいチャンスや次のプロジェクトにつながっていくこともあります。ヨコ社会では、年齢、学歴、ジェンダー不問だから、特に日本では、女性の活躍できるフィールドが広がると思います」
クラウドファンディングにトライ!
クラウドファンディングもベースは共感。
「2000年代以前なら強制的な寄付はありましたが、これは不特定多数の人が見知らぬ人のプロジェクトに共感して資金を提供するもの。タテ社会が強い時代なら考えられませんでした。ビジネスを始めるなら、まずはクラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げて、自分がどれだけファンを獲得できるか腕試しするのも手です。コストもかからないのでリスクはゼロだし、資金が集められなければ企画内容を練り直すチャンスにもなります。資金集め以外でも、共感を得るにはどうするべきかのトレーニングになるでしょう」
島根県海士町は、島外からの移住者を積極的に受け入れる。大手企業を経て移住した若者などが続々と集い、新たなビジネスを展開している。
地方都市に広がる共感
注目されている地方移住。過疎化した地域でも、自治体の新しい試みに共感した若者が集まり活性化した事例が多くある。
「有名なのは島根県の海士町。以前は破綻する可能性が高いといわれていましたが、起死回生を図り移住者を受け入れ始めたら、現在、人口の1割が若い移住者です。合言葉は『ないものはない』。開き直りにもとれるし、活躍の場はいくらでもあって、自分次第でどうでもなるから“ないもの”はない、という意味でもある。今は物質主義が限界に達して、本当の幸せを考え直す時期。ライフスタイルに共感する場所を探し移住するのも一つの方法です」
人生は実験だ!
インターネットの普及により、社会構造は、共感をベースにしたヨコ社会へ。より自由に、個人の能力が問われる時代になった。
「90年代以前は、インターネットもSNSもありませんでした。それが不可欠なものになり、人生100年といわれるようになった。こうなると、いつまで働けるのか、どう生きれば幸せなのか、誰も正解がわからない。だから実験し続けて、自分の正解を見つけるしかありません。上手くいかなかったらやり方を変えればいいだけ。それに、かつては起業するにも資本金が1,000万円必要でしたが、今は1円でいい。インターネットによって、時間と場所を限定されずに仕事ができ、個人でカバーできる幅も広がりました。独立や副業も、昔よりリスクが少ないなら、むしろチャレンジしない方が損ともいえます。ただ、パートナーは必要だから、利害関係を超えた仲間を見つけること。そのために、共感性を磨くことが必要になるのではないでしょうか」
Illustration:Miyuki Ohashi Text:Miho Matsuda Edit:Etsuko Soeda