松尾スズキという哲学「“笑い”がすべて」 | Numero TOKYO
Interview / Post

松尾スズキという哲学「“笑い”がすべて」

宮藤官九郎、阿部サダヲ、皆川猿時、村杉蝉之介、荒川良々などの面々が所属する「大人計画」を主宰し、作家、演出家、俳優…さまざまな顔を持つ松尾スズキにインタビュー。大人計画結成30年という節目を迎える今だからこそ思うこととは?

ジャケット¥60,000 シャツ¥30,000 パンツ¥35,000/すべてSuzuki Takayuki(スズキ タカユキ) ハット/スタイリスト私物
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テレビや映画で、この人を見ると目が釘付けになる。一見、渋いオジサマだが、只者ではない空気感が漂う男・松尾スズキ。演劇界きっての人気劇団・大人計画を率いて30年。脚本・演出を担当、自ら俳優として出演することも多い。

「大人計画を立ち上げた頃は演劇をやりたいのか、笑いをやりたいのか、まだフワフワしていました。初期はコントだけの公演も多かったんです。宮沢章夫さんとの出会いが大きくて。彼は放送作家でもあり、シティボーイズや竹中直人さんなど超有名な人と芝居して、すごくリッチな匂いがしました。コントの作り方は彼から教わりましたね。温水(洋一)とコントをやったことでテレビから仕事が来たり、宮沢さんにラジオの仕事に呼んでもらい、松尾貴史さんとコント。2年以上、毎週5本のコントを作りましたから、かなり鍛えられました。それと並行してコラムの仕事が入るようになった。演劇で食べられるようになったのは、だいぶ後。僕の歩みが鈍いから、ここまで来るのに30年かかってしまった感じです。いろんなことに手を出しているから、ジワーッとしか進まない。今では大人計画は笑いに取り組む人たちの中で、独自の島を作っている気がしますね」
 

所属俳優には、宮藤官九郎、阿部サダヲ、皆川猿時、村杉蝉之介、荒川良々、池津祥子、平岩紙らがおり、まさにスター軍団。劇団公演はチケット入手困難で、テレビや映画でも彼らの顔を見ない日はない。

「なかでも阿部のスター性はすごかった。グループ魂の人気も重なって、若い頃はキャーキャー言われていましたから。演劇の公演なのに、客席にずらっと並んだ観客が〝阿部サダヲLOVE〞と書いたバナーを持っていて、何しに来たのか(笑)」
 
劇団に入団する際、松尾が重要視したのは笑いのセンスだ。

「阿部の人を笑わせる才能は未知数でした。他の人と全然違った。軍服を着ていたので、落としたら何されるかわからないという怖さもありましたね(笑)。宮藤官九郎は演出助手で入ったけど、最初から面白かった。あと荒川良々も」

松尾は劇団関連と俳優業以外にも、外部の脚本・演出、映画監督、小説家、エッセイストなど、実に多才。小説に関しては、今年、三度目の芥川賞候補となった。現在、映画制作も進んでいる。

「何かをすると、それをきっかけに別のメディアでのアイデアが生まれます。それを追いかけるうちに、また別の…と、経験が発想を生んで、それを追いかけながら今に至る。目の前をふらふらと飛ぶ蝶々を追っている感じです。何かを目指したわけではなく、その時々の選択でうまく転がってきた。もしサラリーマン生活が居心地よかったら、もし漫画家になろうとしたときに一本でも作品が売れたら、今の自分はない。今振り返ると失敗が良い選択を生んできた。当時は挫折の連続でしたけどね」
 

そんな松尾に“いい男”像を聞くと、しばし悩んだ。

「いい男…難しい質問だな。例えば舞台で一緒に立つ阿部を見ていると、惚れ惚れする時があるんです。こいつ、どこまで伸びしろがあるんだろう?っていつも思っちゃう。20数年一緒にいるけど、想像の上をいく瞬間がまだまだある。あと、横尾忠則さんは長いこと憧れの人です。天才は量を伴うといいますから」
 
その点、松尾も常に表現しているのではないかといえるほど多作だ。

「量だけはね。でも僕、メジャー感がないんですよ。普通に電車に乗りますし(笑)。若い頃は時間はたくさんあると思い込んでいましたが、さすがにこの歳になるとリミットが見えてきた。あとどれくらいのことができるだろう?と思うと、気が急く。一人しかいないから、急いでもしょうがないとわかっている。でも人生足りないよ、と思うことがモチベーション。あ、いい男…笑いを忘れない人かなあ?笑えない空気にするタイプの人っているじゃないですか。そういう人を見ると、セクシーじゃないなと思っちゃう」

プライベートでも、常に笑いを意識しているという。

「例えばセミが死んでいる。それは怖いのか、笑えるのか。ベランダでセミ二匹の死骸が平行に並んでいるのを見て、死に際に位置を揃えたくなる何かがあったのかな?とか、想像してしまいます。妻がセミを過剰に怖がるので、それをうまく笑いに変えられたらいいなあと。僕は笑えることが全てだと思って生きているので。ニュースを見ていても笑いどころを探してしまいますね。最近は日本ボクシング連盟の山根明元会長に夢中でした。最近、見ていないからちょっと寂しい(笑)」

世の中に物申したいことを聞くと、

「ないですね。ただ、政権を批判するような表現がだんだん潰されてきている気がしてならない。それは不自然でうっすら怖いこと。ただ、権力の抑圧から解放されるには、批判する方法だけではなく、表面的な表現ではない、違う潜行の仕方があると思います。僕が政治のことを言い始めたらおしまい。それはもっと知的な勉強をした人がやればいいことで。僕はもっと生理的な部分、それこそ笑いで、イデオロギーと別のところで戦っていきたいです。人間の心は絶対に自由だと言い続けたい」
 
ここで、再び“いい男”の質問を思い出した松尾。

「そうだ! いい男とは、自由だなあと感じられる人じゃない? 高田純次さんみたいな人は自由ですごくかっこいい。今、自分からカテゴライズされにいこうという風潮があるじゃないですか。みんな不安なんだよね。でも少なくとも、魂は自由でいなければ!」

松尾スズキ+大人計画
30周年記念イベント「30祭(SANJUSSAI)」

会期/2018年12月18日(火)~30日(日)
会場/スパイラル(東京・表参道)

大人計画大博覧会

2018年12月18日(火)〜27日(木)

松尾スズキ30周年記念ファミリーコンサート
“なんとかここまで起訴されず”

2018年12月25日(火)、26日(水)

名作上映会と愉快なトーク

2018年12月28日(金)、29日(土)
他にもイベント多数!
URL/http://otonakeikaku.jp/

Photo:Akihito Igarashi Styling:Tomoko Yasuno Interview&Text:Maki Miura  Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾スズキ(Suzuki Matsuo)1962年福岡県生まれ。1988年、「大人計画」を旗揚げ。94年、作・演出を手がけた舞台『愛の罰〜生まれつきならしかたない〜』で本多劇場に初登場。97年、作・演出の舞台『ファンキー!〜宇宙は見える所までしかない〜』で岸田國士戯曲賞受賞。2001年、作・演出の舞台『キレイ―神様と待ち合わせした女―』でゴールデンアロー賞演劇賞を受賞。04年公開の初監督映画『恋の門』ヴェネチア国際映画祭に正式出品。06年、小説『クワイエットルームにようこそ』が芥川賞候補に選出され、翌年、自ら映画化。08年、脚本を担当した映画『東京タワーオカンとボクと、時々、オトン』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。10年、小説『老人賭博』で再び芥川賞候補。14年、20歳下の一般女性と再婚。その生活を綴ったエッセイ『東京の夫婦』を17年に出版。18年、小説『もう「はい」としか言えない』で 三度目の芥川賞候補に。他、出演作や著作など多数。

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