趣里×菅田将暉が語り合う「愛について」
若手俳優として圧倒的な存在感を放つ、趣里と菅田将暉。現在公開中の本谷有希子原作、関根光才監督の映画『生きてるだけで、愛。』で初共演を果たした二人が登場。愛することにも愛されることにも不器用で自ら関係を壊してしまうような女。他人と距離を保つことで傷つきも傷つけもしない、すべてをあきらめているような男。それぞれが演じた役柄と重ねながら、自身の恋愛観について語る。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年12月号掲載)
──共演前はお互いにどういう印象を持っていましたか?
菅田将暉(以下、菅田)「僕ら同じ事務所なんですけど、忘年会のときにスタッフさんが歌って踊るのを、みんなでゲラゲラ笑いながら写真を撮ってて。で、気づいたら彼女が横にいて、同じアングルで撮ってたんですよ」
趣里「あった、あった。あのときね」
菅田「それで、共演するって聞いたときに、あ、起こっているものを同じ感覚で、同じ画角で見ようとしてる人なんだろうなと、ちょっと安心したというか。感覚的に合うという印象が、勝手に僕はあったな」
趣里「うれしい(笑)。私は、もう『菅田パイセン』って呼ばせていただいてます(笑)」
菅田「いやいや、何をおっしゃいますか。趣里ちゃんのほうが年上ですから」
趣里「菅田くんが、舞台『ロミオ&ジュリエット』(12)に出てたとき、いちばん輝いてて『すごい人だ!』と思っていました」
菅田「マジ?」
趣里「うん。その後もいろいろな作品で活躍されていて。やっぱり共演となると気が引き締まりました。現場もすごく心地よくて、楽しくお話しさせてもらいました」
菅田「音楽の話いっぱいしたよね。好きなものが似てたかもしれない」
趣里「うん。私が現場に寧子としていられたのは、菅田さんの津奈木が自然体で受け止めてくれたからだし、お芝居していて楽しかったです。すごく健康的に撮影できたのかなと思います」
菅田「部屋の中でずっと二人でしゃべるという場面を一連でやるのは、やっぱり楽しかったなぁ。結構キャッキャしながらやってたよね」
情感の出し方が異なる男と女
──お互いの役柄に対して、どんなところに愛を感じていました?
趣里「まず最初に脚本を読んだときに、たぶん、寧子の葛藤と重なる部分もあったんだとは思うんです。なんかほっとけないなというか、彼女のことを抱きしめてあげたくなったんです。ちょっと、エキセントリックですけど、まだ誰かに何かをやってあげたいという気持ちは残っていて、それができないもどかしさが表に出ちゃってると感じました」
菅田「こっち側がそれを『出ちゃってるんだな』と思うか『出してくれてるんだな』と解釈するかで全然違って。じゃあ、僕が演じた津奈木がなぜ寧子と一緒にいたのかというのが、男同士ですごく盛り上がるところなんです。一見あまり見たくないだろうと思う女の子の部分って、褒められるようなところではないかもしれないけど、実は男はちょっと見たかったりもするんですよ」
趣里「ほうほう」
菅田「僕は、汚いところはどんどん見たいって思うんですけど。そりゃあ料理も掃除もしてくれて、むしろ男のほうが悪さできるような寛大な女性というのが、もしかしたら世間的には理想なのかもしれないけど、それだとちょっとつまんないなってところもある。それは女性としてもそうだけど、たぶん人間としての部分が大きくて。津奈木みたいに、思ってることがあっても前に出せない人は、感情を出せる人をカッコイイとか素敵と思えるから」
趣里「逆に寧子からすれば、もう少し向き合ってほしくて『私だけこんなに疲れて、あんたどう思うの?』っていう思いがある。でも好きだからこそ知りたくなるのだと思います」
菅田「津奈木は、それが「眩しすぎる」って引いてしまうわけでね」
趣里「男女二人が同じベクトルで向き合うってなかなか難しいよね」
菅田「他人だからね」
趣里「例えば、自分のすべてをさらけ出して、そのときは『よかったね』となったとしても、その後、状況が良くなった試しがない(笑)」
菅田「そう思う。人を急に変えようとしてもダメというか、なら自分が変わったほうが早いというのもある。かといって自分を変えたくないってところもあって。奥底を変えるのはすごく時間がかかるけど、表面的なものだったら『違うから!』って言うかもしれない(笑)。大事なものほど言いにくいのかもね」
趣里「その大事なものを変えようとすると、自分もどうしてもダメージを負うしね。だから、そうしないようにしようとする津奈木の気持ちもわかります。年齢を重ねるごとに、俯瞰で物事を見てしまったり、冷静になると思うんですよね」
菅田「そうだね」
趣里「だから、壁をドンッと叩くとか、イライラが出ちゃう瞬間はやっぱり素敵ですよね。ショックでもあるんですけど、みんな感情があって生きてるというのを知ることができるから」
──黙って何にでもすぐ「ごめん」と謝る男性はどう思いますか?
趣里「『いや……だから、なんなのそのごめんは?』ってなることもありますよね!私も言ったことありますもん(笑)」
菅田「でも理論が通じない場合、そういう判断せざるを得ないときというのはあるんだよ。どっちが正しいという話ではないけど、津奈木を演じていて思ったのが、ガーッと責められると、本当に息つく暇もないんだよ。それこそ息しているだけで精いっぱいだから。それがどんどん蓄積していって、仕事も掃除もやんなきゃいけないしとなると、うん、ごめん」となるんだなというのはすごく想像がつく。だから、お互いに呼吸をする時間がズレちゃうと終わりなんだなぁって感じがすごくしたなぁ。相手にも自分が呼吸してる分だけの時間を与えないとコミュニケーションにならないというか」
趣里「会話が一方通行になる」
菅田「どんな恋愛も、極論を言えば、そういうことなんだと思う」
趣里「うん、すごく普遍的だよね。キャラクターは難アリですけど」
菅田「僕はむきだしの寧子の感じが羨ましくて仕方ないけどね。ああやって生きられたらどれだけ魅力的か。苦しいとも思うけど。こういう表現の仕事をしてるとさ、簡単に言うと『情熱大陸』に向いてるような人になりたいわけじゃん」
趣里「あはははは!」
菅田「そういう意味で言うと、津奈木みたいなタイプは向いてないよね。でも寧子は普段から変わらず感情的だから、絵になる。でも、どちらを幸せと思うかは、人によって変わるんだと思う」
趣里「どっちかといえば、私は前者で、表で頑張っちゃって、家で一人で落ち込むこともあります」
菅田「じゃないとこの仕事はできないよね。僕は音楽や洋服、友達とか、違うもので還元してます」
趣里「私は時間が過ぎるのを待つ。ちょっと落ち着くまで(笑)」
菅田「それはすごいよねぇ。よく言うじゃん『女性は次の日になったら忘れる』とかって、あれは何?忘れないでしょ!」
趣里「忘れはしないけど……」
菅田「気持ち的に平気ってことでしょ。だから勝てないよね、男は」
理想の愛のかたちって?
──違うのも問題だけど、似すぎている問題というのもありますよね。
菅田「同族嫌悪というのもありますし、恋愛だと「はっ!似すぎている!」という悩みはありますよね。友達だったら最高なんだけど」
趣里「わかるよ、わかる!」
菅田「頭抱えますよね」
趣里「ぶつかりまくるからね、似ていると。違うほうがいい人と、似てるほうがいい人に分かれるけど、私はわかってもらえるんではないかというところから、相手をより近くに感じられるんじゃないかと思っちゃうほうです。そう思うと結構、自分が基本ですね。嫌だな〜(笑)」
菅田「みんなそうだよ。でも最近思うのは、どちらも選択肢でしかないというか、たぶん、両方とも幸せにはなれると思う。ただどっちが好みかっていうだけで。だから両方あり」
──原作にもありますが「私は私とは別れられないんだよな」という寧子の台詞がすごく刺さりました。
菅田「あれは本当に名言すぎる。だいぶ傲慢な発言ではあるんだけどね。そうやって生きてるのは私のせいなんだからというのもあるけど、どうしたってどうしようもない私というのもいる。正直、口では発したくない言葉ですね、僕は。自分もそう思ってるところがあるし、みんながそうやって思うのもわかるから」
趣里「でも、この感覚をよく言葉にしてくれたなとは思うよね」
菅田「ね、すごいよね。でもそれが蔓延するのは違うぞと思う。こんないい言い訳ないから!」
趣里「一生別れられないから!」
菅田「寧子が言うからいいのであって、それを使われちゃうと……」
趣里「アイテムにしないっていう」
菅田「そうそう」
──そんな「私」がついやってしまいがちな行動や癖ってあります?
菅田「僕、初対面の人がいるときは、ずーっと箸袋で鶴を折ってる」
趣里「あはははは!」
菅田「すっごい落ち着くんだよ、手を動かしとくと(笑)。だから飲みに行ったときに、僕の前にいっぱい鶴が置かれてたら『あ、緊張してんだな』って思ってもらえると」
趣里「話のネタにもなるしね」
菅田「ちっちゃい鶴を作るの趣味だからってね(笑)。でも、頭を動かしてこの場を覚えとこう、みたいな大事な時間だったりするのかもしれない。いずれにしても、じっとは聞いていられないんだろうね」
趣里「はははは」
菅田「趣里ちゃんも撮影のとき、ストレッチとかしてなかったっけ?」
趣里「あ〜!伸ばしがち(笑)」
菅田「ね。めっちゃ体が柔らかくて」
趣里「アキレス腱を伸ばしたりね。現場ではよくやっているかもしれません」
──逆に異性の仕草や癖で、思わず愛しちゃうものってありますか?
趣里「女子聞きたいよ、これは」
菅田「意外とベタかもな。普通にラーメン食べるときとかにするやつ」
趣里「髪をかけ上げるみたいな?」
菅田「そうそう。そういうとこめっちゃ見るから(笑)!でもねわざとなのはバレるから。だから2、3本髪の毛が汁に入ってる段階でやってたらおおってなる」
趣里「私もベタで、爆笑してるところとか。男子たちが箸が転がっても面白いみたいなときあるでしょ?」
菅田「クソみたいな時間ね(笑)」
趣里「そう(笑)。小学生みたいでかわいいなって思う。何が面白いのかわからないけど、笑ってるのを見てるだけで笑えるときない?」
菅田「あるある。わかるわ〜」
──最後に、お二人が理想とする愛って、どういうものでしょうか?
菅田「数日前に友人の結婚パーティの帰りに、一緒に行った友達が泊まりに来たんです。そこで彼女の話や『結婚を考えている』という話を聞いていて。とりあえず音楽の制作用にメモっていたときにハッとしたのが、自分の話になると照れくさいけど、人のことって、なんてストレートに言葉にできるんだろうと。こうやって自分のこともやれたらいいのになぁって思った」
趣里「わかる」
菅田「恋愛以外のこともそうだけど、客観視できるからね」
趣里「うん。でも、自分に置き換えた瞬間にできなくなるのもわかる」
菅田「自分のことだと、ふるふるして冷や汗が出ちゃう」
趣里「そうそう(笑)。理想の愛って難しいけど、少しは歩み寄ることと……、ある程度の距離感もきっと大事なんだろうね」
Photos:Ko-ta Shoji Fashion Director:Ako Tanaka
Styling:Aki Amatsu(Shuri),Keita Izuka(Masaki Suda)
Hair & Makeup:Kyohei Sasamoto(Shuri), Azuma(Masaki Suda)
Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Yukino Takakura