21世紀少女 vol.8
作詞家 中村彼方
ダウンロードするように時代を描く作詞家
フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を一人ずつ紹介。今回のゲストは、女子の心をつかむ歌詞を生み出す、作詞家の中村彼方。イヤホンで曲を聴きながらiPadでさらさらと歌詞を書く彼女がよく作業をするという渋谷の「cafe croix」で撮影取材を行った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2015年11月号掲載)
軍地彩弓が読み解く
「女子心をつかむ、“詞”の力」
その人の名は知らなくても、その歌詞を口ずさんだことがある。中村彼方は作詞家だ。少女時代の「Gee」や「GENIE」など多くのK-POPを手がけ、私たちの毎日にどこかで聞いたことがある言葉を生み出してきた。彼女に会って最初に見せてくれた膨大なノートがあった。中学生時代から書きためているというセイカの自由帳。中はびっしりと小さな文字とイラストで埋め尽くされていた。じっくり読もうとするとその手を制された。「ごめんなさい、これは絶対誰にも見せないって決めているんです」。そこに書かれているのは10代の頃の彼女のむき出しの心の言葉。「いっぱい湧き上がる言葉を、書くことでしか発散する方法がなかったんです」。
小学生の低学年の頃から物語が好きだった。自分の中で物語を想像して、その世界に入り込んで泣いている、そんな子どもだったという。歌詞を書くようになったのも、そんな想像癖からであった。中学生のときに宇多田ヒカルに出会った。ほぼ同世代。宇多田が書く“タバコ”という歌詞に垣間見える大人の世界にのめり込んだ。周りの女のコたちが曲に熱狂するなか、彼女は歌詞の世界に没頭した。曲を読む。そうしながらこつこつと作詞を始めた。
デビューが決まったのは25歳。コンペに受かってからだが、その間、就職をせず、バイトをしながら作詞家を目指し、手探りで音楽制作会社に歌詞を送り続けていた。デビューのきっかけになった「けいおん!」の記事がyahoo NEWSに出たとき、感動もしながら自分の作品がこうやってニュースになることを不思議に思っていたという。夢を実現する力。言葉にはそういう力がある。
書きためていったノートの言葉は今もそのまま歌詞になることが多い。「10代の頃、自分が何を考えていたか忘れてしまっているんです。ノートにはその頃の言葉がある。今それを歌詞にして、書き出しているんです」。それだけに彼女が書く歌詞はヴィヴィッドに女子の心をつかむ。「歌詞を書く作業は、最初に曲があって、デモテープを聴きながら作業します。不思議ですけど、曲を聴いていると、歌詞が降りてくるような感覚がある。未来に仕上がって、誰かが歌っているその曲をダウンロードしているような感覚です」
中村彼方が書く歌詞はまるで女子のおしゃべりを聞くように、リズムが跳ね、ポップスの曲に乗りやすい。詞は時代の映し鏡。「作詞家より言霊師でありたい」。そう語る彼女には、その覚悟があるのだと思った。
Photo:Maki Taguchi
Director:Sayumi Gunji
Text:Rie Hayashi