21世紀少女 vol.13非アイドル的な次世代アイドル“総合エンターテイメント施設”水野しず | Numero TOKYO
Culture / Post

21世紀少女 vol.13
非アイドル的な次世代アイドル
“総合エンターテイメント施設”水野しず

フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を一人ずつ紹介。今回のゲストは、(あえて肩書を付けるならば)漫画家・アイドルの水野しず。待ち合わせは、行きつけだという大久保の名曲喫茶「カオリ座」にて。どこか懐かしさを感じさせる不思議な空間で撮影取材を行った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2016年5月号掲載

軍地彩弓が読み解く
「ソーシャル時代のアンソーシャル姫」

彼女のことをなんといえばいいのだろうか? モデル、アイドル、イラストレーター…。「ジャンルをつけたくないんです、自分に」。自称「総合エンターテイメント施設」。つまり楽しい人になりたい、ということらしい。

彼女が世に出たのは講談社が主催する「ミス iD」というオーディション。アイドルに限らずいろんな才能を発掘するプロジェクトだ。彼女の活動は多岐にわたっている。あるときはモデル、イラストを描き、時にはネット漫画を描くこともある。YouTube では自分のラジオを流し、自分の見たことなどをつらつらと話し続ける。「自分を限定して同じフォーマットを繰り返すことが苦手なんです」。彼女が書くブログはかなり過激な言葉と不思議なイラストで埋め尽くされる。これってアイドル?

その彼女がどう育ったのか?「3歳のときに『なんだこれは!』と思ったんですよ、世の中は訳がわからないと。人と話が通じない、そんな感覚が当時からありました。私の人生は幼少期ほど悲惨なんです」。そんな子どもは児童文学とSFと本に囲まれて育った。特にミヒャエル・エンデが好きだった。

「小学校6年生で2chにはまって、モナー(2chに出てくる猫のキャラ)にきゅんとしました」。父から「孤独を受け入れなさい」と言われて育った彼女は、常に自分が“異物”であるという感覚にとらわれいく。ゲーム「ドラゴンクエスト」にはまったのもそんな環境があったからかもしれない。彼女が持っているクロッキー帳には、ボールペンの跡がくっきりつくくらい描かれたイラスト。これがないと落ち着かないのだという。

今回、撮影用に好きなアイテムを持ってきてくれた。ウサギのおもちゃ、ふわふわのぬいぐるみ、レトロなグラス、70年代のタコのキャラ、クレクレタコラのレイザーディスクなど、彼女のインナーワールドにはいろんな時代が混在している。「古いもの、新しいものに差がないんです」。一番ときめくのは人が困るもの。予定調和でまとまることが多い社会で、人が「え!?」と思うものを見つけたい。ミスiDというメジャーな場で、あえて非メジャーを目指し、ちょっと大人が困るようなリアクションをすること。

アイドルってなんだっけ? 作られた笑顔や、作られた路線で歌を歌い、人が期待する可愛さを振りまくより、この生きづらい世の中をその柔らかすぎる感性で吐き出し続ける。彼女の「アイドル」はちょっとリアルな感じがした。

the recipe of me
私の頭の中

21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。水野しずが鞄から取り出すものは、懐かしいもの、可愛いもの、変なもの。そのいくつかの持ち物から、彼女の大切にしていることが見えてきた。

(左上から時計回りに)
1. Chim↑Pom↑の展覧会時に引いた1000円ガチャ。「カプセル代もあるから原価割れしてますよね(笑)」
2. 『魔法使いサリー』のおもちゃ。
3. 遊戯王の主人公・武藤遊戯が持っていた「千年パズル」のネックレス。
4. 『クレクレタコラ』のレーザーディスク版。「“暴力”がテーマで、これは話のチョイスがヤバい。よく大学でこっそり見ていました」

(左上から時計回りに)
5. 「私がよく描いているタコを、ファンの方が実際に作ってくれたんです」
6. アクセサリーブランド「JUMON」のイヤリング。先シーズンのモデルをやったときのもの。
7. いつも持ち歩いているスケッチブックの1ページ。「いつでもどこでも絵が描けるような状態にないと落ち着かないんです」
8. 中を改造して筆箱にしている『レディレディ!!』の日記帳。

(右上から順に)
9. ぬいぐるみ作家・片岡メリヤスさんの愛らしいハンドメイドぬいぐるみ。
10. 「ぼく脳」さんの黒板ネックレス。「『ときメモ』の藤崎詩織が「こんにちは」と言っている状況だそう(笑)」
11.「AROMATHERAPY ASSOCIATES」のバス&シャワーオイル。「ファッション誌だから一つくらいおしゃれなものを…(笑)」

(左上から時計回りに)
12. 熱海土産のペン立て。
13. ブースカのリメイク版『ボアボアブースカ』のぬいぐるみ。「黄色に惹かれるのはピカチュウの影響だと思うんだよなぁ」。
14. 最近もらったケサランパサラン。「植物性だから白粉は食べないみたい」。
15. 西荻窪の骨董屋さんでもらった「リズムうさちゃん」。

水野しずの年表

2007年 18歳
美術大学に進学の為上京。

2010年 21歳
在学中に行ったパフォーマンスを「難解だし、恐い」と言われる。

2011年 22歳
卒業製作に60分超の手描きアニメーション「最悪の事態」を提出するも、大学中退。

2013年 24歳
展示の際「普段描いてる落書きが見たい」と言われ、完成度<エネルギーだと気付く。

2014年
ミスiDグランプリに選出される。

水野しずへの5つの質問

──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)

「いま日本に住んでいることって、自分のアイデンティティの中でそんなに重要じゃないんですよね。そういえば日本だった、くらいの感じ。私としては、境界線は曖昧にしておきたいんですよね。境界線が強固だと、逃げ場がなくなってしまうじゃないですか。それでいちばん怖いのは、その箱の中に収まっているのに、自分の意思がないこと。だから団地とかも怖いんですよ。なんでそこで『チクショー』って言わないんだ、って」

──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?

「ジョブズとガンジーです。どっちも絶対に譲らないところがすごく好き。あと、あの二人も微妙に迷惑だと思うんですよ(笑)。譲らなくて迷惑なのに、あれだけ人に愛されてるのってすごくないですか? 完全に自分の道をつくっちゃってますよね。何もないところを歩いていくと、そこが舗装されていく感じっていうか。そこが好きですね。私もそうなりたい。そうだったらいいのになっていう願望なんですけど(笑)」

──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?

「ないです(笑)。日々やりたいことをして、好きな絵を描いて、思うままに漫画を描いて、生きていきたいですね。目標とか、考えたことないな。あ、自分の目標じゃないですけど、もっとマニアックなもの、多数決でみんなの共感が得られないものにも、価値を与えられる世の中になったらいいな。いろんな人がいて、いろんな価値があっていいんだっていう。私は共感するよりも“わからない”ほうが好きなので」

──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?

「興味があることは、野菜ジュースですね。今いろんなメーカーの野菜ジュースを飲み比べてるんです。缶のほうが大体おいしい。トマト主体じゃなくてケール主体で“この栄養が細胞に染み渡っていく”っていう感じがいい。怖いのは“豊島区”ですね。まず島じゃないし。確かになんか豊かですけど。まさか自分が住むとは。”豊島区”って得体が知れないんですよね。概念自体が怖いです(笑)」

──10年後の日本はどうなっていると思いますか?

「“お金ダサい”って風潮が蔓延していると思いますね。何かやるにしても“え、それお金でやったの? ダサいね! 俺なら○○(人脈とか技術とか)でやるけどね!”(笑)って。お金って人間が持ち得るものの中でいちばん外側にあるものだから、使うのは簡単だけどダサい、みたいな。これからはいろんな価値観を壊していっていいと思うんですよ。何はともあれ、世の中よ、もっと良くなれ!愛で満たされろ!と思ってます」

Photo:Maki Taguchi Director:Sayumi Gunji Text:Rie Hayashi

Profile

水野しず(Shizu Mizuno) 1988年生まれ。岐阜県多治見市出身。18歳で上京。アイドルオーディションで優勝したり「上手いのか下手なのかよくわからない」と評される絵や漫画を描くなど独自の活動を展開。

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