
1907年にサンフランシスコで生まれた「フェアモント」は、100年以上にわたって世界の王侯貴族や著名人を迎えてきたホテルブランド。国連憲章の草案づくりの舞台となったフェアモント サンフランシスコ、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが「ギブ・ピース・ア・チャンス」を録音したフェアモント ザ クイーン エリザベスなど、歴史に名を残すホテルがいくつもある。

フェアモントが掲げるのは、“すべての人”に開かれたラグジュアリー。そしてその“すべての人”には、家族の一員である愛犬も含まれている。1階ロビーで迎えてくれるのは、ラブラドール レトリバーのセリーン。世界のフェアモントの一部で展開されている愛犬プログラム「ケイナイン アンバサダー」を務めるホテルの一員だ。そんなこともあってか、開業当初から愛犬とステイできる宿泊プランが用意されている。そのプランが、開業1周年を機にリニューアルしたと聞き、招待を受けて愛犬・ケリーと出かけてみることにした。
浜松町から歩いて行ける、空の上のラグジュアリーホテル
35階のメインロビーは、大きな窓いっぱいに都心と湾岸が広がる。レストランには何度か足を運んでいたが、宿泊するのは今回が初めて。高層階なのに東西に屋外テラスがあって、外に出て風を感じながら景色を眺められるのは、都心のホテルではかなりレアなんじゃないだろうか。周囲に視界を遮る高層ビルがあまりないので、空がぐんと広い。それだけで心が軽くなる。

インテリアは、パーク ハイアット ニセコなどを手がけたメルボルンのBAR Studioによるもの。“都心のエネルギー”と“水辺の静けさ”という相反するふたつが、ひとつの空間で溶け合っている。全217室はすべて36階以上にあり、いちばんコンパクトな客室でも52㎡。柔らかな色合いのセン材や石英岩に真鍮のディテールを合わせ、日本の工芸や技法を取り入れたアートがさりげなく添えられていて、どこを切り取っても絵になる! さすが!
愛犬が“主賓”になる「ワンタスティック」

今回、利用したドッグステイプラン「ワンタスティック」の対象は、体重15kg以下の愛犬だ(1室1匹まで)。で、このプランを語る上で触れないわけにはいかないのが、愛犬の名前と顔を刺繍したオリジナルのラグジュアリーベッドがプレゼントされること。予約時に送った写真をもとに刺繍を施したベッドが、客室で待っているのだ。どの写真を送ろうかと悩むところから、わくわくが止まらなかった。
(左)チェックインの“儀式”。汚れのつかない方式のスタンプ台で肉球をぺたん
(右)「GUEST OF HONOUR」と記された登録カード。記念のチェキも添えられ、うれしい飼い主
チェックインは客室で行うインルームスタイルだ。「GUEST OF HONOUR」と書かれた登録カードに、肉球をぺたん。この“儀式”にケリーはきょとんとしていたが(多分何が起きたのかわかってない)、飼い主の私は、愛する“娘”が主賓として迎えられる姿に、ひとりじーんとしていた。

当のケリーは、早速、「探検」を始めている。12歳。人間でいえば、もうおばあちゃんだ。それでも好奇心(と食欲)は衰えを知らない。初めての場所では、まず匂いを頼りに歩き回る。今回、宿泊した客室は「フェアモントゴールド スイート」。88㎡のコーナースイートは室内だけでも十分に歩きがいがあるようで、30分以上うろうろしていた。


その間、私はすっかり例のベッドにロック・オン。ケリーがこんなにかわいく刺繍されているなんて……! 世界中の人に見せびらかしたい衝動をおさえるのに必死だ(笑)。ウェルカムアメニティは、おもちゃと名前入りの手作りおやつ。フード&ウォーターボウルやトイレ、お散歩マップまで客室に揃っているので、荷物が少なくて済むのもありがたい。セリーンをモチーフにしたぬいぐるみ「セリーン Jr.」は人間用。これがまた、とってもキュートでにまにましてしまう♡
縁側から東京を眺める、88㎡のコーナースイート
私もケリーにならって探検をば。なにしろ88㎡、人間にとっても探検のしがいがある。リビングとベッドルームが分かれたコーナースイートは2面に大きな窓がとられ、どこにいても視線の先に“東京”が広がる。部屋によって、東京湾と運河を見下ろすベイビューと、東京タワーを正面にとらえるタワービューがあり、空気の澄んだ日には富士山が顔を覗かせることもあるのだとか。ここは天国ですか?

窓辺には、日本家屋の縁側に着想を得たシーティングスペースも。ここに腰を下ろして景色を眺めながらぼんやりしていたら、気づけば翌朝になっていそうだ。インテリアは温かみのある落ち着いた色調でまとめられていた。華美に走らず、それでいて上質。こんなに丁寧に作られた家具に囲まれて暮らしたら、私もきちんとした人になれそうな気がする(笑)。伝統的な「唐紙」の技法を用いたアートも飾られ、空間を静かに彩っていた。


石を用いたバスルームもゆったりとした造り。深めのバスタブにはバスピローとバスソルトが添えられ、レインシャワー付きのシャワーブースにダブルシンク。バスアメニティはル ラボの「SANTAL 33」。ダイソンのヘアドライヤーに、「エアラップ(Dyson Airwrap i.d.™)」まで揃うのが嬉しい。普段は髪のセットはかなり適当な私だが、ここぞとばかりに張り切ってみる(笑)。65インチのスマートテレビにはソニーのサウンドバー、さらにMarshallのBluetoothスピーカーも。すごすぎる眺望の陰に隠れがちな、細やかな心配りがしみる。

このカテゴリーなら、42階の「フェアモントゴールド ラウンジ」はぜひ利用したい。41〜42階の特別なフロア「フェアモントゴールド」のすべての客室と、すべてのスイートの宿泊ゲストが利用できる、スペシャルな空間だ。朝食に始まり、リフレッシュメント、アフタヌーンティー、イブニングカクテル、ナイトスナックと、時間帯ごとに表情を変える。ラウンジのフードを自慢にするホテルは少なくないが、ここは別格(筆者調べ)! リフレッシュメントでオーダーした料理もボリュームたっぷりで、ローラン・ペリエやポメリーといったシャンパンを含むアルコールも、ほぼ1日中いただける。ディナーの後に夜景を眺めながらもう1杯、なんて使い方も最高。朝6時半から夜22時まで開いているから、気づけば一日に何度も足が向いてしまう。時間がいくらあっても足りないのが悩ましい。罪なホテルよ……。


とはいえ、ラウンジに入り浸っているわけにはいかない。館内には、まだまだ行くべき場所がある。35階の、ミストサウナ付き屋内インフィニティプールと屋外リラクゼーションプールを利用しない手はない(笑)。水面の先に東京タワーがそびえる光景は、記憶に鮮明に刻まれるほどに強烈だ。今回は時間が足りず叶わなかったが、「フェアモント スパ」には、港区のシンボルであるバラと日本の国花・サクラから着想した香りに包まれるシグネチャートリートメントがあるそう。気になる~!
人間顔負け! 愛犬のためのコース仕立てのディナー

館内のあちこちで感嘆の声をあげているうちに、気づけば窓の外の空は茜色に。客室でいただける、コース仕立ての愛犬用ディナーは、「ワンタスティック」ならではのお楽しみだ。館内の2つのレストランが手がけるコースから、どちらかを選ぶ。炭火グリルの「DRIFTWOOD BAR & GRILL(ドリフトウッド バー&グリル)」は、牛肉や馬肉が主役。地中海のエッセンスを取り入れたオールデイダイニング「Kiln & Tonic(キルン&トニック)」は、大山どりのガランティーヌや鮮魚のアクアパッツァ。どちらも魅力的だけれど、肉食のケリーのために「DRIFTWOOD BAR & GRILL」バージョンを選んだ。


前菜は馬肉のタルタル、メインは国産牛のグリル、デザートは骨型のピーナッツムース。人間の料理と見紛うほど美しく盛り付けられている。皿が置かれるやいなや、ケリーはお肉に一直線。あっという間にメインを平らげ、続けてデザートを差し出すと、「これも私の分?」と言わんばかりに一瞬フリーズしていた。今日は特別よ!
夜は43階へ。扉を探すところから始まるバー

レストランやバーに愛犬は入れない(まあ当然だが)。ゴージャスなディナーを平らげたケリーにお留守番をお願いし、私は最上階43階の「DRIFTWOOD BAR & GRILL」へ。まずは目の前に迫る“ザ・東京”の夕景に乾杯! そして、炭火で香ばしく焼き上げたグリル料理を味わう。

同じフロアには、入口の扉を探すところから始まるスピークイージー「OFF RECORD(オフレコード)」もある。見事(!)たどり着いた人だけが入れる大人の隠れ家には、厳選されたレコードと希少なスピリッツが揃う。ホテル内には、ほかにも、6席のカウンターで江戸前鮨を味わう「みぎわ」、同じく6席の鉄板焼「燈辻(とつじ)」、薪窯で焼くピザやアクアパッツァが看板の「Kiln & Tonic」、フレンチと和の2種類のアフタヌーンティーが好評のロビーラウンジ「Vue Mer(ビュメール)」──。館内だけで何日でも過ごせそうだ、というか、過ごせるものなら過ごしたい。
お腹も心も満たされ、ほろ酔いで部屋に戻ると、ケリーはベッドの上でうとうと。部屋を出るときは「え、それ聞いてないよ?」とばかりに呆然と私を見上げていたのに、自分の顔が刺繍された唯一無二のベッドを、ちゃんと“自分の場所”だと理解したらしい。
東京湾を眺める朝、そしてセリーンとの対面

翌朝は、ケリーのオーガニックブレックファストと一緒に、私の朝食もルームサービスで届けてもらった。東京湾を眺めながら、ふたりで過ごす穏やかな朝。楽しい時間ほど、あっという間に過ぎてしまう。よほど名残惜しかったのだろう、部屋を出るときも、帰りのエレベーターでも、ケリーはどことなくしょんぼりしていた。私だって同じ気持ちだ。現実世界に戻りたくない(笑)。

なお、このプランの売り上げの10%は、動物愛護団体「NPO法人Tier Heim KOKUA(ティアハイム・コクア)」に寄付される。愛犬と過ごす贅沢なひとときが、どこかで新しい家族を待っている犬たちの支えにもなる。
浜松町駅から徒歩でたどり着ける、空の上のラグジュアリーホテル。レストランを訪れるだけでももちろん楽しいが、泊まるともっともっと楽しい。次は違う季節に“帰って”こよう、また愛犬と一緒に。
フェアモント東京
住所/東京都港区芝浦1-1-1 BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S
TEL/03-4321-1111
URL/fairmont.jp/tokyo
Text: Aya Hasegawa


