現代美術作家・川俣正×シャンパーニュメゾン「ルイナール」、代官山で見せる新たな風景 | Numero TOKYO
Life / Feature

現代美術作家・川俣正×シャンパーニュメゾン「ルイナール」、代官山で見せる新たな風景PROMOTION

1729年の創業以来、自然と向き合いながらシャンパーニュづくりを追求してきたルイナール。アートとの深い関わりでも知られるメゾンが、2026年のコラボレーションパートナーに迎えたのは、パリを拠点に世界各地で活動する現代美術家・川俣正だ。

シャンパーニュ地方の風景や自然、人々の営みに着想を得た作品を発表してきた川俣が、アートウィーク東京に合わせて代官山T-SITEに特別なインスタレーションを制作。その世界感を体感できる「ルイナール シャンパーニュ&アートバー」で、シャンパーニュづくりとアート制作の意外な共通点から、自然や時間に対する哲学まで、川俣正に話を聞いた。

シャンパーニュづくりとアート制作。共鳴する「時間」の感覚

──今回、ルイナールとのコラボレーションが実現した経緯を教えてください。

「最初にお話をいただいたのはたしか2025年の3月頃。もともと、あまりコマーシャルな仕事はしたくないと思っていたんですが(笑)、とりあえず現場を見に行ってみようと。ルイナール本社があるランスを訪れて、ブドウ畑や地下のセラーを案内してもらいました。それがすごく面白かったんです。

本社の地下には、かつて石灰岩を採掘していた広大な空間があり、そこに何千、何万というシャンパーニュのボトルが眠っている。地上とはまったく違う世界が広がっていました。そこで何年もの時間をかけてシャンパーニュが熟成されていくという光景を見て、感じるものがありました。

それに、ルイナールの人たちは非常にプロフェッショナルでそれぞれの仕事に向き合っていて、そこにも共感しました。作品についても、こうしてほしいという注文がほとんどなく、アートディレクターと話しながらプランを考えることができました」

──ルイナールのものづくりに触れて、ご自身の制作姿勢と重なる部分はありましたか。

「どちらも、アイデアを形にするまでの時間を大切にしているところでしょうか。ルイナールの本社を訪ねた時、朝早くにブドウ畑へ連れていってもらったんです。広大な畑に朝霧がかかっていて、それが昼になるにつれて晴れていく。そうした自然の変化を細かく観察しながら、すごく丁寧にブドウを育てている環境だと知りました。

僕の場合も、まず現場へ行って、最初に受けた印象を頭の中に残しておくんです。それをしばらく自分の中で発酵させるような感覚でアイデアを膨らませていきます。そういう意味では、シャンパーニュづくりと作品づくりは似ていると感じました。

それから、気候変動によってブドウの栽培環境が変わってきているという話も聞きました。自然の状態が毎年違うなかで、伝統的な味わいをどう維持していくのか。そのためにさまざまな工夫を重ねている。そういう姿勢にも、ものづくりとして共鳴するところがありました」

──川俣さんのインスタレーションには、完成後に解体されたり、時間とともに朽ちていく作品が少なくありません。そうした表現を続ける理由はなんでしょうか。

「昔から、あまり重苦しいものはつくりたくないと思っているんです。なので、僕の作品のほとんどは、つくったあと解体するか朽ちていくものが多い。ふわっと現れて、最後は消えていくような作品がいい。シャンパーニュも飲むと泡になって消えていきますよね。その点では近いかもしれないです」

3つのインスタレーションが描く、土地と風景の新たな物語

──今回、ルイナールのメゾンには『Nest』『Observatory』『Tree Hut』という3つの作品を制作されました。それぞれどのような発想から生まれたのでしょうか。

「メゾンには古い建物があって、現在はオフィスとして使われています。その向かいには藤本壮介さんが設計した新しいパビリオンがあって、目の前の庭には、これまでルイナールとコラボレーションしてきたアーティストたちの作品が展示されているんです。そこに新しい作品を置くよりも、少し違う場所で何かをやりたいと思ったんですね

まず考えたのは、伝統的な建物に直接何かを付け加えること。そこで生まれたのが『Nest』です。巨大な鳥の巣のような構造物を、建物の外壁に取り付けました。

『Observatory』
『Observatory』

『Observatory』は、地下のセラーを見学したときに思いついたものです。地下に大きな空間があって、そこから地上へと空気が抜けていくような場所があったんですよ。その真上に塔をつくりたいと思いました。高さは7メートルくらい。シャンパーニュのボトルを逆さにしたようにも見える形で、螺旋状の階段を上がっていくと、上部に出られるようになっています。地下から空気が上昇して、地上へと抜けていくようなイメージですね。そして『Tree Hut』は、メゾンを訪れた人が帰るときに初めて目にするような場所につくりました」

──作品を鑑賞する順序や訪れる人の動きも意識されているのですね。

「人がその場所をどう訪れて、どう感じるのか。地下も地上も含めて、3つの作品でひとつのストーリーをつくるようなイメージです。『Observatory』の真下には地下の大きな空間が広がっているけれど、地上からは見えない。でも、そこに何かがあると想像できる。そうやって、目に見えるものだけではなく、見えない場所のことも意識してもらえたら面白いですよね」

──川俣さんの作品には木材が多く使われています。素材としての木にはどのような魅力を感じていますか。

「僕がこういう作品をつくり始めたのは1982年頃ですが、当時はサステナブルなんて言葉もなかった時代なので、エコロジーとかリサイクルという発想で木を使っていたわけじゃないんです。単純にお金がなかったから(笑)。

もともと僕は油絵科でしたし、彫刻の専門的な技術があったわけでもない。石や鉄だと加工するのも大変だけど、木だったら誰でも扱える。それに、世界中どこに行っても手に入るし、同じような規格の木材がある。現地で材料を調達して、そこで作品をつくるという僕のやり方にはすごく合っていたんです。

今回も、ルイナールのメゾンでは現地の大工さんたちと一緒につくりました。『Nest』には以前の作品などで使った廃材を利用していますが、人が上る『Observatory』には、安全性や構造計算の問題があるので新しい木材を使っています。何でも廃材を使えばいいというわけではないんですよね。むしろ、廃材のほうがコストがかかることもありますから」

──今回、代官山T-SITEのギャラリーで発表するインスタレーションは、どのような発想から生まれたのでしょうか。

「夏に一度、会場を見に来たとき、ギャラリーの周りには木が多いのが印象に残っていて、それを空間の中に取り込みたいと思いました。それから、このギャラリーは天井が高いのがいいなと思ったんです。普通のギャラリーだとなかなか高さを出せないんですけど、今回は5メートルくらいの作品をつくることができ、それは僕にとっても新鮮でしたね」

──作品に使われている木材はどのように選ばれたのでしょうか。

「今、新潟の小学校を使ったプロジェクトに関わっていて、その周辺に森があるんです。今年の夏にそこで木を選んで、伐採してきました。森の木なら何でもいいというわけではなくて、間伐するような形で、ほかの木の生育にも配慮しながら選んでいます。

それを2、3カ月乾燥させて、東京へ運び、江戸川にある倉庫で組み立てました。展示が終わったら、また新潟にある僕のアトリエへ持っていく予定です。作品をこの先どうするかは、まだ決めていないんですけどね」

──今回はギャラリー内だけでなく、代官山の街にも『Tree Hut』を制作されたとか。

「代官山T-SITEの前にある木に『Tree Hut』をつくっています。『Tree Hut』はこれまで世界中で200個くらいつくってきましたが、実際の木に取り付けるときは、木の形や枝ぶりを見ながら考えていきます。今回も模型はつくりましたが、現場で実際に組み立てると、また違ったものになる。完成したらどんな反応があるのか。それが今は楽しみですね」

自然とは、人間がつくり出したイマジネーション

──今回のプロジェクトには「Conversations with Nature(自然との対話)」というテーマがあります。川俣さんにとって、自然とはどのような存在なのでしょうか。

「僕は『自然』という言葉自体が、すごく人工的なものだと思っているんです。そもそも、何を自然と呼ぶのか。自然なものって何なのか。そう考えると、自然という概念そのものが、人間によってつくられたイマジネーションなんじゃないかと思うんです。

例えば、人間が都市をつくって、環境をどんどん変えていく。そうして不自然な状態になったから、今度は自然を求めるようになったのではないか。そう考えると、自然と人工物をそんなに簡単に分けられるものではないと思うんです。

だから僕は自然を守ろうとか、自然と共生しようとか、そういうスローガンを掲げて作品をつくっているわけではないんですよね」

──自然を特別なものとして捉えるのではなく、人間の営みも含めて考えているということでしょうか。

「そうですね。木があって、森があって、そこに人間がいて、何かをつくっている。その全体がひとつの状態なんだと思います。シャンパーニュも同じだと思います。ブドウが育って、それを人間が収穫して、発酵させて、ひとつのものをつくり出していく。自然だけでも、人間だけでも成り立たない。そういう全体のプロセスを考えるほうが僕にとっては面白いんです」

作品は消えても、人の記憶に残っていく

──ルイナールは約300年にわたって伝統を受け継いできたメゾンですが、一方で川俣さんの作品には、一時的なものや、時間とともに変化していくものが多くあります。作品が消えてしまったあと、そこに何が残ると思いますか。

「残れば残ったでいいし、壊れたら壊れたでいいと思っているので、僕は形にはあまりこだわりがないんです。今回、ルイナールの人たちと話していて面白かったのは、彼らは毎年ブドウを収穫して、自然の条件が違っても、ある程度同じ味わいを保とうとしていること。でも僕の場合は、作品をつくったら、そのあとどう変化していっても構わない。そこは、ものづくりに対する考え方の違いかもしれないですね。

それに、これからは物を残すという発想自体が、変わっていくんじゃないかと思っています。大切なのは、物そのものよりも、情報や記憶なのかもしれない」

──それはどういうことでしょうか。

「作品がなくなっても、鑑賞した人の記憶には残り続けることに意味や価値が置かれていくのではと思っています。先日、僕が30年近く前につくった作品を見たという人に会ったんです。その人は当時のことをよく覚えていて、すごく感激したと話してくれた。作品そのものはもう残ってないけれど、誰かの記憶の中で生き続けている。それもひとつの残り方ですよね。

美術館に作品を収蔵して、何百年も保存するということだけが、アートのあり方ではないと思うんです。シャンパーニュだって、飲んだらなくなってしまう。でも、そのときの体験や記憶は残る。泡になって消えていく。それでいいんじゃないかな」

期間中、ルイナールのシャンパーニュを楽しめる「Ruinart Bar」もオープン
期間中、ルイナールのシャンパーニュを楽しめる「Ruinart Bar」もオープン

Ruinart Champagne & Art Bar

会期/2026年10月28日(水)~11月8日(日)
開館時間/11:00~20:00
会場/代官山T-SITE GARDEN GALLERY
住所/東京都渋谷区猿楽町17-5
入場料/無料

Interview & Text: Mariko Uramoto

 

Magazine

DECEMBER 2026 N°202

2026.10.28 発売

Obsessed!

好きなものと、生きる

オンライン書店で購入する