気軽に買えて、持てて、集められる。だからこそ、その人らしさが表れるトートバッグ。クリエイターたちのコレクションから、それぞれのストーリーをひも解く。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年9月号掲載)
福原咲子|編集者
愛するアーティストの反骨精神を携えて

「こうして並べてみると、トートバッグから感じる熱量がものすごい」と言葉を弾ませる福原さん。迫力満点のコレクションは、大量にある中のほんの一部だという。「今回ピックアップしたのは、“MY HERO”的な存在のアーティストたちのトートバッグ。学生時代から憧れの存在だった、リタ・アッカーマンやリチャード・カーン、マイク・ケリー。ロンドンの美術館で出合った作品。あとは文脈問わず、bumpした(ばったり出合った)もの。ナイーブさと、パンク精神を持ち合わせたアーティストに自然と惹かれているのかもしれません」と語る。
普段使いするトートバッグには、仕事用のPCを入れているそう。「生地感と持ち手がしっかりして、丈夫なことが大事。最近は、中に入れた物がよれないA4サイズが気に入っています。メインバッグは、ロゴがない無地のものしか持たないので、逆にサブバッグのトートは、自分のパーソナリティと結びつくものであってほしい。Tシャツだと臆するけど、トートだとちょうどいいと言いますか。アーティストの世界観に共感しながら、トートバッグという存在と自分らしい距離感で楽しみながら付き合いたいなと思っています」。トートバッグは、アートやカルチャーの文脈を伝えるメディアのような役割も担っている。
福原咲子(ふくはら さきこ)
1983年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。『DAZED & CONFUSED JAPAN』の編集を経て2010年に独立。カルチャーやファッションを軸に編集・執筆を行うほか、ブランドのクリエイティブディレクション、展示やイベントの企画を手がける。
奥浜レイラ|MC・ライター
音楽を記憶するライフワークとしての収集

ミュージシャンのライブ会場や音楽フェス、レコードショップで見つけたトートバッグを集めている奥浜さん。「現場ではまず、いちばん最初に物販へ向かいます(笑)。後で買おうと思うと売り切れちゃうので。デザインがすごく気に入ったものやあえてギリギリのラインを狙ったセンスのものはもちろん、よほどダサくない限り買います」というように、会場限定のトートバッグは欠かさずチェックするそう。集める理由を尋ねると、「そのときのことを思い出せますし、収集はもはやライフワーク。フェスの出演者のラインナップが載っているバッグを持っていると、『何のフェス?』『あの年に行ったんですか?』と話しかけられることも多くて。とにかく会話が盛り上がるんです」。
約360日トートバッグで過ごし、仕事では厚手、休日は薄手と使い分けるなど、コレクションはすべて現役。「ただいいデザインなだけでなく、作品やアーティストらしさがちゃんと表現されているものが理想です。旅先でたまたま立ち寄ったレコードショップで買うのもいいですよね。高級なバッグも素敵ですが、自分にとってはこういうトートバッグのほうが価値が高いのかも」。一枚一枚に、その場の空気感、旅の記憶が刻まれている。
奥浜レイラ(おくはま れいら)
1984年、神奈川県生まれ。音楽・映画の領域を中心に活動する。テレビやラジオ、音楽フェス、映画イベントで司会を務めるほか、洋楽・映画カルチャーへの知見を生かし、執筆やインタビューも行なっている。
Kaho Kikuchi|写真家・書店員
出版社やギャラリーが持つ世界観を表現

書店員として働いて、今年で5年目を迎えるというKahoさん。仕事柄、多くの書籍や出版社、ギャラリー、美術館と出合ったり、ブックフェアに行く機会が多々あるそう。「書籍やアートブックはもちろん大好きですが、書籍の販促や書店のお土産として作られるトートバッグにも多くの魅力が詰まっている。見つけるとついつい手に取ってしまうんです。トートバッグは気軽に買えるグラフィック作品のようであり、同時に作り手や取り扱っている場所への敬意を示すために購入している感覚もあります」と話す。
本や作品が内側に知識や感覚を蓄える存在だとすれば、トートバッグはそれを外へ開く存在だという。「身に着けることで、自分が持っている価値観が視覚的に伝わって、言葉がなくても他者とつながれるコミュニケーションツールでもあるんです。そうやって世界が広がっていく感覚が楽しいですね」。現在の所有数は30点ほど。「自宅にある専用の収納ボックスに畳んで入れています。これからも増え続けそうです(笑)」。色とりどりのトートバッグから、大事な一冊に携わった人たちの顔が浮かんでくる。購入した本を入れる便利なアイテム以上に、出版界におけるトートバッグの持つ意味は深い。
Kaho Kikuchi(かほ きくち)
東京を拠点に活動するフォトグラファー。アートブックを中心に扱う書店「POST」に勤務する書店員でもあり、ドーバー ストリート マーケット ギンザ内ブックスペース「BIBLIOTHECA」を担当している。
清水翔太|「TAWKS」店主
フード業界ならではのコミュニケーションツール

ロンドンから東京へ、都会の“感度の高い”飲食の世界を渡り歩いてきた清水さん。「トートバッグは友人の作品や仲間のお店のものだったり。お土産にもらうこともあります。どれも背景にストーリーがあるので、用途ごとに選んで使っています」と語る。また、メッセージ性や広告性、人に何か伝えることができるツールとしても活用しているという。「自分の店のバッグを作った際は、街でこのバッグを持っている人に気がつけるようにと太陽マークをプリント。バンドTのようにコミュニティとつながれるアイテムですね」
清水翔太(しみず しょうた)
東京・表参道にある「tobacco stand」、日本橋兜町「SR Coffee Roaster」でバリスタの経験を積み、2020年に渡英。ロンドンのベーカリー・カフェ・レストランの「Jolene」でバリスタとして働く。日本への帰国後、亀有の芸術文化センター「SKAC」内にコーヒーショップ「TAWKS 」を24年にオープンした。
國分貴洋|「BOW INC」代表
アントワープの伝説的6人が集結!

「ベルギー・アントワープにあるモード博物館で開催中の『THE ANTWERP SIX』展へ行き、手に入れました。黒い生地に、ファッション界に革命を起こした6人のデザイナーたちの顔がプリントされています。限定品や希少なトートバッグは持っているだけで、ちょっとした優越感を味わえる。安価で楽しいアイテムだと思います」
國分貴洋(こくぶん たかひろ)
バウインク代表。ファッションやカルチャー領域でPRやブランド戦略、空間・イベント設計を行う。
ユリ・アボ|プロデューサー・編集者
さりげなく自己主張ができる

「大阪の『MoMoBooks』で購入した、アーティストsuper-KIKIのトート。家父長制や血縁による家族制度への違和感をユーモアと怒りで表現し、芍薬やハエのモチーフに美しさと抵抗の二面性が宿るデザインにビビビときました。社会の抑圧的な価値観を『埋葬する』という表現も痛快でとても気に入っています」
ユリ・アボ
ジェンダーや性、文化にまつわる企画、編集、発信に携わる。ポッドキャスト番組『もっと違和感!』を配信中。
村上由鶴|秋田公立美術大学助教
研究対象のテーマに合うモチーフ

「韓国の写真家、ハン・ヨンスの写真とハングルの文字が入った黄色のトートは、ソウルの国立現代美術館で購入。写真を研究しているので、作品を用いたグッズもどうしても厳しく見てしまうのですが、選び抜かれた写真のセレクトと構図に納得。軽くて汚れても洗えるし、装いの差し色としても活躍中です」
村上由鶴(むらかみ ゆづ)
美術批評家としても活動中。現代美術や写真を研究し、執筆・企画を行う。
河田愛歌|編集者・ライター
ゆかりの地で見つけた珍品

「ロンドン出張のフリータイムに行ったフロイト博物館で買いました。フロイトの伝記を読んで面白かったこともあり訪れたのですが、意外にもグッズが充実。トートにプリントされた、フロイトの理論を図解にした愛嬌たっぷりの脳みそのイラストを『英国式の皮肉なのか?』と思いつつ買ってしまいました」
河田愛歌(かわだ あいか)
神奈川県出身、スイス育ち。パリのスタジオ・ベルソー卒業。ファッションやカルチャーの編集・執筆をする。
水戸美千恵|Numéro TOKYO編集長
好きな作品の関連グッズとして

「LAのアカデミー映画博物館のミュージアムショップで購入しました。スピルバーグ映画と育った世代で、特に『E.T.』には強い思い入れがあり、少しずつグッズを集めています。わりとある自転車で空飛ぶシーンではなく、宇宙船で帰るシーン、『PHONE HOME』という名台詞のデザインで即決でした」
水戸美千恵(みと みちえ)
大学卒業後、扶桑社へ入社。女性誌編集部を経て『Numéro TOKYO』創刊1年目より副編集長に。昨年より現職。
金原毬子|Numéro TOKYOエディター
ファンだからこその思い出とともに

「左は俳優・アーティスト『のん』の2ndアルバム『PURSUE』ツアー(2023年)、右はLAのバンド『ハイム』の1stアルバム『Days Are Gone』ツアー(14年)にて購入。どちらもアルバムをいい意味で裏切る骨太なライブが最高で何か買わずにはいられませんでした。高揚した瞬間の思い出を持ち歩けば、どんなときも頑張れます」
金原毬子(きんばら まりこ)
2017年に扶桑社に入社し、19年より小誌編集部に。主に人物取材やカルチャー企画を担当。
Photos:Shuichi Yamakawa Edit & Text :Aika Kawada
