
2026年3月、京都・宮川町に日本初上陸となるラグジュアリーホテル「カペラ京都」が開業した。2024年に「The World’s Best Hotel」で堂々1位を獲得したカペラバンコクの元支配人、ジョン・ブランコ氏がヘッドを務めることでも、世界中のエグゼクティブから熱い視線を集めている。ホテルの施設とサービスの全貌を紐解いた前編に続き、後編では食のデスティネーションとも言える「カペラ京都」のダイニングを紹介したい。
米国の三つ星が日本初上陸。京都のテロワールと響き合う「SoNoMa by SingleThread」

ホテルのシグネチャーダイニングを飾るのは、アメリカ・カリフォルニア州ソノマで唯一のミシュラン三つ星に輝く「SingleThread(シングルスレッド)」の世界初となる支店「SoNoMa by SingleThread(想乃間 by SingleThread)」だ。

「SingleThread」オーナーシェフのカイル・コノートン氏は、日本企業と仕事をしていた父親の影響で幼少期から日本の食や食材に興味を持ち、16歳から地元の寿司バーや日本料理店で働き始め、その後、北海道の「ミシェル・ブラス トーヤ ジャパン」でも経験を積む。農学博士である妻のカティーナ・コノートン氏とともに東京や北海道に居住した経験もあり、日本のおもてなしの心や四季折々の旬の食材、職人のクラフトマンシップに深く魅了されたそう。

「SingleThread」開業後も、日本のシェフや職人を招聘したイベントを開催し、京都をはじめとする日本各地の作り手と関係を続けてきた。そんな夫妻が考える「テロワールを尊重し、その土地の物語を料理に投影する」という哲学と「カペラ京都」の世界観が共鳴し、「SingleThread」初の海外拠点として「SoNoMa by SingleThread」が誕生した。

「SoNoMa by SingleThread」は「カリフォルニアに着想を得た京都のレストラン」と位置づけられている。日本料理を知る人には新たな視点からの発見を、日本料理が初めての人には日本の食文化の魅力を伝えるよう、どちらの人にも楽しんでもらえる工夫をこらす。決まったメニューはあらかじめ用意せず、京都の石割農園、和歌山の吉岡ファーム、京丹後の青木農園など信頼する農家から届いた食材を見てから、その日限りの旬の一皿を表現している。

キッチンを率いるのは、カリフォルニア・ソノマ出身でありながら日本料理の名店「てのしま」や米国の「SingleThread」本店で研鑽を積んだバイリンガルの富永敬太氏。伝統的なお茶屋の雰囲気に着想を得た空間には、目の前で調理のライブ感を楽しめるオープンキッチンのカウンター12席と、よりリラックスして過ごせるラウンジバー20席が用意されている。
知覚を揺さぶる、ひねりを効かせた味覚と一期一会のコース体験

コースは、ラウンジでリラックスしながらいただくウェルカムハーブティーと、複数の小さなウェルカムバイツから幕を開ける。

和歌山の吉岡ファームから届いた旬のトウモロコシを、まずはそのまま与那国島の海塩「SAI」につけて。「青のりトルティーヤ」は、トウモロコシのムースやエスプレッソ、カリフォルニア産のトーマチーズを削りかけたソースをつけながらいただく。京都の祇園祭にちなみ、厄除けや祝福を願って作られたちまきは、笹の葉を開くともち粉で包まれた鴨、濃厚なフォアグラ、そして爽やかに香る山椒を合わせた特製のあんが現れる。

ダイニングエリアへと移動すると、いよいよカウンター越しにシェフとご対面だ。信楽焼の器に盛られた「初夏 京都 想乃間」の八寸仕立ての前菜では、本店のシグネチャーであるフェンネルパンナコッタと北海道ウニの組み合わせをはじめ、東京湾産のタカベを用いた棒寿司、帆立の柑橘セビーチェ、豆腐とアボカドの白和えにマカデミアナッツを合わせた一品、そして道明寺粉で鴨レバーのパルフェを包み桜の葉で巻いたアメリカンチェリーの品々など、和の技法とカリフォルニアの食材や食文化が交差する。
コース中盤からメインへと続く皿の数々も、驚きに満ちている。炭火焼きにした鰹に完全無農薬のキュウリを合わせたお造りに始まり、能登半島・上田農園のフルティカトマトを使った「京の清流 ソノマの陽」は、川でトマトを冷やす日本の夏の情景を模し、鮎のパテやホタテのムース、トマト水のゼリーや鮎の肝で作った魚醤が絶妙なハーモニーを奏でる。
また、本店シグネチャーの「モルテッドポテト」を京都版に昇華させた「モルテッドインカの目覚めじゃがいも」は、一番出汁の茶碗蒸しの上にクリーミーなポテトピューレやハマグリ、キャビアをトッピングした和洋融合の傑作だ。
メインを飾る亀岡牛の炭火焼きにはオリーブの葉の燻香をまとわせる。明治創業の乾物問屋「尾粂」と共同開発した特製だしで炊き上げる「森のご飯」に至るまで、関西圏の生産者や、日本の食文化の魅力を、「SingleThread」という新たな視点から見せてくれる料理ばかりだ。
料理の輪郭を際立たせるのが、アルコールのペアリングだ。提供時には、オーガニックや低温発酵へのこだわりなど、生産者の熱い哲学が語られる。
たとえば、タコのクロケットやモルテッドポテトには、兵庫県産山田錦を20%まで削り出した小玉酒造の純米大吟醸「天巧20」のエレガントな甘みを。お造りにはドイツ・モーゼル「クレメンス・ブッシ」のオーガニック・リースリングを合わせて爽やかさを引き立てる。
メインの亀岡牛には、ブルゴーニュの銘醸ワインと見紛うほどの新潟「フェルミエ」のピノ・ノワール2022を合わせるといった具合だ。他にも、過剰な樽香を抑えたカリフォルニア・ソノマ「Lioco」のシャルドネなど、日米の架け橋となる気鋭のセレクションが脇を固める。
パリのカフェ文化と京都が融け合うブラッスリー「ランテーヌ」

「カペラ京都」のもう一つの顔といえるのが、朝食会場にもなっているフレンチブラッスリー「Lanterne(ランテーヌ)」だ。京都・宮川町の提灯に着想を得て、フランス語で「ランプ」を意味する名が付けられており、パリのカフェ文化を京都の美意識で再解釈している。建築家・隈研吾氏が設計した坪庭を望む開放的な空間には、やわらかなインテリアがしつらえられ、洋の洗練の中に和の趣が溶け込む。

朝食は、メイン料理にビュッフェを組み合わせたハーフビュッフェスタイルだ。焼き魚やだし巻き玉子、汲み上げ湯葉などをそろえた王道の「和朝食」をはじめ、ケージフリー卵を用いた各種エッグディッシュ、ブリオッシュの「エッグベネディクト」、ホテルメイドの「クロワッサンサンドイッチ」や「スモークサーモン タルティーヌ」などがラインナップしている。

さらに、牛肉しぐれ煮を添えた「お粥」や、魚介のクリアスープが染みる「醤油ラーメン」、バナナのキャラメリゼが香ばしい「フレンチトースト」や「抹茶パンケーキ」といった麺・粥・スイーツから、ヘルシーなオートミールやアサイーパルフェまで網羅。

ビュッフェカウンターには、サーモンマリネなど厳選された料理が並び、ドリンクには「スイカ 赤しそ ライム」や「京都グリーンデトックス」、「ビーツ ブラッドオレンジ」など、色鮮やかなボトルジュースが用意されている。「ファーム・トゥ・テーブル」の思想を重視し、スイートコーンなどの食材に農家名が明記されるなど、地元の生産者との繋がりを大切にした温かな朝食体験が、優雅な一日の幕開けを約束してくれる。

また、「ランテーヌ」のエントランスには、ペストリーブティック「Patisserie(パティスリー)」も併設。「SoNoMa by SingleThread」のエグゼクティブ・ペストリーシェフであるエマ・ホロウィッツ氏と、東京の3つ星フレンチ「L’Effervescence(レフェルヴェソンス)」で研鑽を積んだ森田実生氏が共同監修するペストリーコレクション「SingleThread Entremets(シングルスレッド アントルメ)」は、先述したカティーナ・コノートン氏が空間ディスプレイを担当している。
知的な刺激と洗練を味わうバー「宵」

「SoNoMa by SingleThread」のすぐそばにあるバー「宵(Yoi)」もまた、「カペラ京都」の哲学を宿す。かつてこの地にあった新道小学校の記憶を受け継いでおり、店内のペンダント照明には理科室で使われていたものが、バーカウンターの下板には音楽室の床材が再生して使用され、上品な懐かしさを演出している。シティポップなどの1980年代の音楽が流れる中で、食・酒・会話が自然に交わる社交の場が再解釈されている。

カウンターでは、板前が目の前で仕立てる地産地消にこだわった本格的な和食をアラカルトやおまかせで提供。「冷やしトマト」や「焼鳥」、炭火で焼き上げた鰻にアクセントにミョウガのピクルスをきかせた「うなぎり」など、四季を映したメニューや、日本の居酒屋文化を感じさせる料理が味わえる。
合わせるドリンクは、ロンドンやシンガポールの高名なバーを経て着任し、世界大会での優勝経験も持つイタリア出身のミクソロジーディレクター、マリオ・ラ・ピエトラ氏が牽引する。日本の「侘び寂び」精神を現代的に解釈し、日本の原風景や親しみのある味覚を再構築した「アペリティフ」「アガベ」「アロマ」「アシッド」「アルコールフリー」の5つのカテゴリーで構成されたカクテルがそろう。

そしておすすめなのが、宿泊ゲストなら誰でも無料で参加できる、カペラモーメント(体験型ワークショップ)の「Balance in the Glass」への参加だ。マリオ氏や、実力派バーテンダーの泉大樹氏らプロフェッショナルから直接手ほどきを受け、日本におけるカクテルの歴史やバー文化を肌で学ぶことができる。

ワークショップの醍醐味は、「クラシックカクテルの原本」と、現代的に再解釈した「アレンジ版」の比較テイスティングだ。たとえば、オーストラリア発祥の爽やかな「ジャパニーズ スリッパー」と、それに京都産ジン「季の美」やゆず酒を加え複雑な香りのレイヤーを持たせた「ジャパニーズ ローファー」の飲み比べ。ただ味わうだけではない知的な刺激に満ちている。
プロに委ねる、という贅沢。「カペラ京都」で見つけた新しい豊かさのカタチ

世の中には「ラグジュアリー」を標榜するモノやサービスであふれている。誰もが知るハイブランドの品々、ファーストクラスや自家用ジェットでの移動、ミシュラン星付きレストランでの高級食材を使った食事、希少で高価なヴィンテージワインを嗜むこと。高価格で豪華、希少性があり、職人技が施され、長い歴史を誇るもの。これらはすべてラグジュアリーと言えるかもしれないが、本質はそこにはない気がしている。なぜなら、欲しいものがわかっているのであれば、今の時代の富裕層は自分でそれらを手にすることは簡単だからだ。

だからこそ、その人の知見の外にある、その人の嗜好にあった選択肢を提示・提案できるサービスにこそ価値がある。自分だけではたどり着けない未知なる境地へ、物理的にも精神的にもその道のプロに連れて行ってもらえること。自身の世界を広げてくれるセレンディピティなサービスこそ、ラグジュアリーの本質なのだろう。

これらの哲学をすべて体現しているのが、「カペラ京都」での滞在だった。随所に散りばめられた土地の記憶、繊細なクラフトマンシップ、そしてゲスト一人ひとりに寄り添うパーソナライズされたホスピタリティ。自分の知見の少し先にある、新しい視点や味覚を手渡される喜びこそ、現代の贅沢であることをこのホテルは教えてくれるはずだ。
カペラ京都
住所/京都府京都市東山区小松町130
TEL/075-541-8877
URL/https://capellahotels.com/jp/capella-kyoto
取材協力:カペラ京都
Photos & Text: Riho Nakamori
Profile
















