美術館を訪れることを、旅の目的にしてみる。気になる展示はもちろん、雄大な山々を背景にした立地や美しい湖を望むロケーション、さらに歴史的な建築物など、自然とアートが響き合うスポットであれば、なお楽しい。屋外作品を巡り思考を深め、季節ごとに表情を変える風景を眺めて、想像力を広げてみる。都市部の喧騒を離れて、豊かな自然や緑に触れられる美術館を全国からピックアップ。
原美術館ARC(群馬)|榛名山と響き合う、建築とアート

2021年に惜しまれつつ閉館した品川の原美術館。同館と群馬県渋川市にある別館ハラ ミュージアム アークを統合し、2021年4月にリニューアルオープンしたのが、こちらの原美術館ARCである。伊香保グリーン牧場に隣接する広大な敷地に建てられたシンメトリーな建物が特徴で、磯崎新が設計を担当。ピラミッド型の屋根を有し、厳かな自然光がトップライトから降り注ぐ現代美術ギャラリーや、伝統的な書院造をモチーフに、木や和紙、漆喰で仕上げた和風の特別展示室「觀海庵」など、まるで趣の異なる展示室が同居する。

日本二百名山のひとつ、榛名山を望む屋外スペースには、ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル オトニエルといった国内外の現代アーティストによる常設作品を展示。牧歌的な風景に現れるコンテンポラリーアートが、鑑賞者の潜在的な好奇心を刺激する。旧原美術館といえば、回遊動線に導かれた閑静な庭園が印象的な名建築であったが、本館もまた回廊から見渡せるパノラマの景色は一見の価値あり。

住所/群馬県渋川市金井 2855-1
TEL/0279-24-6585
URL/https://www.haramuseum.or.jp/jp/arc/
セゾン現代美術館(長野)|浅間山麓に広がる、緑豊かな庭園

長野県と群馬県に跨がる名峰・浅間山の裾野に位置するセゾン現代美術館。“作品と深く呼吸する場所の提供”を理念に掲げ、今年6月にリニューアル。建物の設計は1950年代末〜60年代にかけて「メタボリズム」運動を主導した建築家・菊竹清訓が手掛けており、軽井沢の自然に溶け込む数寄屋作りを思わせる低層の佇まいが特徴だ。一枚の絵画のような借景を取り込んだエントランスや、窓の外に広がる木々の緑によって来訪者は風や光を感じながら、ゆっくりと作品に対峙する時間を育むことができる。

作品と向き合い、心を満たす鑑賞体験に寄与するのが、敷地面積約27,732平米にも及ぶ広大な庭園だ。庭園全体の構想を手掛けた彫刻家・若林奮による《振動尺》をはじめ、イサム・ノグチの《雲の山》や《雨の山》などの彫刻作品が点在。小川のせせらぎや自生する植物など、時間の堆積が作り出した風景とプリミティブな作品群の調和が、観る者の感性を穏やかに奮い立たせる。

住所/長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140
TEL/0267-46-2020
URL/https://smma.or.jp/
鹿児島県霧島アートの森(鹿児島)|森の地形を活かした、野外美術館

「自然の中でアートを楽しむ」という趣旨の本企画において、外せないのが鹿児島県霧島アートの森である。霧島連山を背にした栗野高原に位置する野外美術館は、広大な斜面状の地形や樹林帯を活かした没入型の展示が特徴。鑑賞者や風景が作品の一部となる、チェ・ジョンファのインスタレーション《あなたこそアート》や、ステンドグラスでさつま芋の葉を模ったタン・ダ・ウ《薩摩光彩》など、23点のオリジナル作品が点在する。2024年に行われたヨシロットンの個展では、自然光や時間帯によって刻々と表情を変える大型作品の展示が話題を集めた。

自然との調和を想定したアート体験は、施設のゲート的機能を持つアートホールにも通底する。収蔵作品の展示や企画展が行われる展示ホールや回廊といった動線に差し込まれる桜島の借景が、作品に内包するストーリー性を増幅させる。学芸員の解説と共に園内を巡るツアーや探検スケッチといった、自然に触れられる企画も充実しており、訪れるたびに新たな発見や気づきに出会えるだろう。

住所/鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220
TEL/0995-74-5945
URL/https://open-air-museum.org/
安曇野ちひろ美術館(長野)|子どもと一緒に楽しむ、絵本の世界

絵本画家・いわさきちひろと世界の画家の作品を紹介する、世界最大規模のコレクションを擁する美術館。1997年に、信州出身の両親を持つちひろが、幼いころから度々この地を訪れ、数多くのスケッチを残すなど、「こころのふるさと」であった松川村にオープン。安曇野の自然にとけこむような建物は、内藤廣の設計によるもの。子どもたちが人生で初めて訪れる美術館「ファーストミュージアム」をコンセプトに、全館バリアフリーで授乳室を完備。国内外の絵本約3,000冊を閲覧できる「絵本の部屋」、木や布のおもちゃで遊べる「子どもの部屋」を備えるなど、大人はもちろん、子どもも一緒に楽しむことができる。

周囲には北アルプスを望む53,500㎡の安曇野ちひろ公園(松川村営)が広がり、その一角には、ちひろの絵で読み継がれている『窓ぎわのトットちゃん』(ちひろ美術館館長・黒柳徹子著)の物語にちなんだ「トットちゃん広場」を設け、トットちゃんが授業を受けていた電車の教室の再現や図書室がある。公園の芝生に寝ころんだり、四季の花を楽しんだりと、誰もが思い思いの時間を過ごせるので、訪れた際はちひろが愛した安曇野の豊かな自然を追体験してみてはいかがだろう。

住所/長野県北安曇郡松川村西原3358-24
TEL/0261-62-0772
URL/https://chihiro.jp/azumino/
市原湖畔美術館(千葉)|湖とアートをめぐる、房総の旅

県内最大の貯水面積を誇る人造湖・高滝湖が、眼前に広がる市原湖畔美術館。首都圏から車で約1時間というアクセスのよさに加え、房総の里山に佇む絶好のロケーションは、ドライブ旅にも最適。1995年に誕生した文化施設をリノベーションして作られた建物は、元々あったスロープや階段による回遊性を活かした構造にアップデートされており、建物の内外を連続的に巡ることでアート作品や自然を一体となって体験できる。

常設展示室では、日本を代表する版画家であり、生前は市原市にアトリエを構えた深沢幸雄の作品(銅版画、ガラス絵など約500点)を中心に紹介。湖に面した芝生広場や吹き抜けスペースには、KOSUGE1-16や鈴木ヒラクの立体作品が並ぶなど、独自性と横断的なキュレーションが見て取れる。広場の突端には、明治から大正にかけて農業用水を汲み上げるために使われていた、高さ28mの藤原式揚水機のレプリカを設置。イベントや大型連休の際には、試運転を見学することができるので、お見逃しなく。

住所/千葉県市原市不入75-1
TEL/0436-98-1525
URL/https://lsm-ichihara.jp/
小海町高原美術館(長野)|白樺の森に佇む、安藤忠雄建築

八ヶ岳の麓、長野県・松原湖高原の丘陵地帯に立つ小海町高原美術館。湿度が低く過ごしやすい高原リゾートとしても知られる避暑地に、突如現れるコンクリート打ち放しの建物が一際目を惹く。設計を手掛けたのは、建築家の安藤忠雄で、“人と自然の融合・調和”がテーマ。3つの展示室にそれぞれ設えた、天井まで届く大きな窓は、降り注ぐ陽の光や豊かな自然を取り込むように計算されている。とりわけ、青々とした芝生に白樺の木が立ち並ぶ景色は、ここが日本であることをふと忘れてしまうような美しさを誇る。

コレクションは、小海町出身の画家・栗林今朝男や人間国宝で陶芸家の島岡達三を中心に、写真家の広川泰士や小林紀晴などの作品を収蔵。現代美術、建築、デザイン等を扱った企画展も積極的に開催している。また、アーティストが一定期間小海町に滞在し、作品制作を行うアーティスト・イン・レジデンスや町民向けのワークショップを開催するなど、地域に根差した活動は誰もが芸術に触れる環境を創出する。

住所/長野県南佐久郡小海町豊里5918-2
TEL/0267-93-2133
URL/https://www.koumi-museum.com/
十和田市現代美術館(青森)|緑に囲まれた、屋内外のアート空間

八甲田山や十和田湖を有し、風光明媚な場所として知られる青森県十和田市。同市が推し進める「Arts Towada」計画は、市の中心市街地にある官庁街通り全体を美術館に見立てたプロジェクト。そんな“アートのまち”の中核を担うのが、2008年に開館した十和田市現代美術館だ。設計を手掛けたのは、現代日本を代表する建築家のひとり、西沢立衛。個々の展示室を「アートのための家」として独立配置することで、作家や作品に合わせた空間が生まれた。離れのようなユニークな構造は、屋外にも独立した展示スペースを創出。蟻をモチーフとした椿昇の立体作品やオノ・ヨーコのインスタレーションなどが並ぶ。
Photo:Ota Takumi
美術館向かいの「アート広場」には、草間彌生やインゲス・イデーの立体作品を設置。緑豊かな木々や芝生が広がる公園のような空間で、自然とともに作品を楽しめる。春には官庁街通りの桜並木も美しく、館内から望む緑や周辺の景観も見どころ。通りの至るところには「ストリートファニチャー」と題したベンチ型の作品やオブジェが点在し、街と自然、アートが一体となった風景をつくり出している。

住所/青森県十和田市西二番町10-9
TEL/0176-20-1127
URL/https://towadaartcenter.com/
清春芸術村(山梨)|巨匠たちの建築と作品が集う、創造の場

1980年代に“白樺派”の作家たちが思い描いた美術館を、世界的巨匠、谷口吉生が実現したことに端を発したのが、北杜市にある清春芸術村だ。以降、数多の芸術家が、ここに集い、多岐にわたる作品を残している。レンガ積みの壁と円錐型の屋根が印象的な「ラ・リューシュ」は、若き日のシャガールやモジリアニが暮らしたパリにもあるアトリエ兼住居を忠実に再現したもの。コンクリートの要塞を思わせる「光の美術館」は、安藤忠雄が設計を担当。内部には一切の照明がなく、自然光のみに頼った特別な鑑賞体験を享受できる。

他にも藤森照信や赤瀬川源平、南伸坊らによる樹齢80年の檜を利用したツリーハウス型の茶室徹や、谷川俊太郎が館長を務める白樺図書館、さらに杉本博司+榊田倫之が内装を手掛けたオーガニックレストラン素透撫など、この場所に携わったアーティストは枚挙にいとまがない。静寂に包まれた森の中を歩けば、名工や巨匠、さらに気鋭の作家が手掛けた作品に出会えるので、自然を感じながら時間をかけて楽しみたい。

住所/山梨県北杜市長坂町中丸2072
TEL/0551-32-4865
URL/https://www.kiyoharu-art.com/
東京都庭園美術館(東京)|アール・デコ建築と3つの庭園をめぐる

港区白金台という都心の一等地にありながら、総敷地面積約35,000平米の半分以上を占める庭園は、東京都庭園美術館の大きな魅力のひとつ。旧朝香宮邸として90年以上前から引き継がれた芝庭や、国の重要文化財にも指定された茶室「光華」を備える日本庭園、さらに春になれば優美な桜が楽しめる西洋庭園など、趣の異なる3つのエリアが存在する。チケットを購入すれば敷地内は出入りが可能で、日本を代表する彫刻家・安田侃の《風》をはじめとする貴重な彫刻作品をベンチに座って鑑賞したい。

日本におけるアール・デコ建築の傑作として知られる本館も見逃せない。中でも写真の大客室はまさに出色。フランスの室内装飾家アンリ・ラパンによる壁画や、大理石を使った暖炉、さらに近代ガラス工芸の巨匠と謳われたルネ・ラリック制作のシャンデリアなど、宮内省お抱えの名工と共に仕上げた設えや贅を尽くした調度品に、往時の面影が忍ばれる。なお、本館自体も2015年に重要文化財に指定されており、実際に体感できるのは貴重な経験と言えよう。

住所/東京都港区白金台5-21-9
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/https://www.teien-art-museum.ne.jp/
MMoP(長野)|写真と出会う、浅間山麓のアート空間

レストランやガーデニングショップ、コーヒーロースターなどが軒を連ねる長野県御代田町の複合施設 MMoP(モップ)。同施設内にスペースを構えるのが、御代田写真美術館である。荘厳な浅間山の麓にあり、周囲を豊かな自然が取り囲むなか一歩足を踏み入れると、外の世界とは切り離された静謐で凛とした展示空間が広がる。常設作品としては、広告ビジュアル制作会社アマナが所蔵する日本の現代写真家のオリジナルプリントを展示する。

また、本美術館も会場になるのが、2018年よりスタートした「浅間国際フォトフェスティバル」だ(2026年は9/27まで開催)。浅間山麓の地域を舞台にした屋外型のアート写真の祭典で、今回は、20世紀アメリカのドキュメンタリー写真を代表する写真家ウォーカー・エヴァンスをはじめ、遠藤文香やリン・チーペンなど、国内外からセレクトされた多数の写真作品を紹介。中には、ファブリックにプリントされた大判作品や、展示方法や表現も含めて鑑賞者の規制概念を裏切るような作品も展観される。屋外型の写真展としては類を見ないスケール感と自由な感性で生まれた写真表現を、五感を駆使して感じてみては。

住所/長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1
URL/https://mmop.jp/
Text:Tetsuya Sato Edit:Naomi Sakai


