
京都・嵐山の渡月橋を望む桂川のほとりに佇む「MUNI KYOTO(ムニ キョウト)」。2020年8月の開業以来、感度の高い旅人たちを魅了してきたこの場所が2026年春、メインダイニングの刷新とともにさらなる進化を遂げた。フレンチの技法に伝統的な会席の構成美、そして二十四節気という季節思想を融合させたガストロノミー「MUNI French KAISEKI」の誕生だ。新生「Restaurant MUNI」が提示する美食の真髄を、初夏の美しい嵐山の情景とともに紐解いていく。
安田アトリエが仕掛けた、借景と回廊が織りなす建築美

京都駅から電車やタクシーで約30分、桂川を目の前に望む一等地に「MUNI KYOTO」はある。地上2階建て、全21室というプライベート感あふれるスモールラグジュアリーホテルだ。

ロビーで出迎えてくれるのは、京都を拠点に活動する現代アーティスト、大上巧真氏による絵画だ。建物の建築は安田アトリエが手掛けており、日本の伝統的な寺院の回廊を思わせる折れ曲がった構造をなす。歩みを進めるごとに視界が少しずつ開け、窓から眺める景色がまるで額縁のように美しく切り取られていくように造られている。

館内には対照的な「白」と「黒」をテーマに設計された2つの庭園が存在する。エントランスに広がる「白の庭」は、一面の石組みで嵐山周辺の断層崖を表現している。客室側に広がる「黒の庭」は、小さな滝から流れ出る水のせせらぎが心地よい静寂をもたらす。

最高約4.5メートルの高い天井を持つ客室は、すべて50~70㎡という広々とした造り。西洋の伝統的な左官技法「ベネチアンスタッコ」と、日本の伝統的な漆喰が融合するシンプルモダンな空間だ。

川床テラスを備えた部屋や、渡月橋の雄大な景色を見渡す部屋などがあり、四季折々の嵐山の景観を部屋に居ながらにして享受できる。嵐山の特等席に佇みながら、館内を包むのは凛とした静寂。特に1階は、川床テラスで水のせせらぎを聞きながら、嵐山の豊かな自然を感じられる贅沢な空間だ。自然が溶け合うモダンな客室は、喧騒を離れてエスケープを求める大人にこそふさわしい。

客室には「TWG」の紅茶やカモミールティー、京都・宇治の「丸久小山園」による煎茶のほか、ビールや京都レモネードまでそろい、すべて客室料金込みだ。また、嵐山のアイコンをイラストであしらった特製のアメニティポーチは持ち帰ることができるなど、細部にまで京都・嵐山ならではの心配りが感じられる。
シャガールを眺めながらいただく、二十四節気を巡るフレンチ会席

今回のリニューアルの最大の核となるのが、ホテルの地下1階に位置するメインダイニング「Restaurant MUNI」で始動した「MUNI French KAISEKI」だ。マルク・シャガールの名画『Magician』が飾られた豪奢なダイニングで腕を振るうのは、2025年に総料理長に就任した久岡康司氏。国内外の名店や外資系ホテルで研鑽を積み、丁寧な仕上げと意外性に満ちた食材の組み合わせで多くのグルマンを魅了してきた気鋭のシェフだ。
久岡総料理長が挑戦するのは、伝統的なフレンチの技法を軸にしながら、日本の伝統的な会席料理の流れやリズムを取り入れた多皿コース。ディナーコースは、約11皿で構成される「La Saison(ラ・セゾン)」(24,200円)と、約13皿の「La Nature(ラ・ナチュール)」(30,250円)の2種類だ。メニュー内容は、二十四節気(約15日)の移ろいに合わせて更新される。
訪れた5月上旬は、太陽の光を浴びあらゆる生命が満ちていく「小満(しょうまん)」の時期だ。アミューズの「鯵と菜の花のコルネ」は、アジのタルタルに菜の花をアクセントで合わせたコルネ風で、フレッシュで生き生きとした食材たちが小満を感じさせる。
続く冷菜は、濃厚な玉ねぎのムースをベースに、トマトのジュレとキャビアを重ねた、酸味と旨味が鮮やかに弾ける一品。「イサキ 茗荷のヴィネグレット」は、爽やかなハーブの香りがイサキのカルパッチョの輪郭を引き立てる。パティシエの内藤未央氏が手掛けた、レモンタイムとディルを練り込んだ自家製のフォカッチャも良いバイプレーヤーだ。
温菜へと進むと、伊勢海老を使った海老真丈が、オリーブオイルで丁寧に蒸し上げられた春キャベツに包まれて登場。うすい豆の食感と玉ねぎソース、浅利のジュの滋味深さが重なる。「筍のブルーテと白バイ貝」は、旬のタケノコを使いながら、フランス料理の古典的な技法を感じさせる一皿。クリームソースをベースにしながら、焦がしたバルサミコ酢のビターな酸味が美しいコントラストを描き出す。
さらに、芳醇なトリュフバターでソテーされたホワイトアスパラガスには、竹炭パウダーで黒く染め上げられたオランデーズソースが合わせられ、この時期だけの美味を伝えてくれる。コースのクライマックスに向けて登場する「サクラマスのクリビヤック風 ソース・サフラン・ヴァンブラン」は意表を突く演出だ。サクラマスをリゾット、ほうれん草とともにサクサクとしたパイ生地で巻き上げて香ばしく火入れしており、まろやかなチーズのソースと、サフランと白ワインのソースが、重層的なハーモニーを奏でる。
肉の巨匠「サカエヤ」の長期熟成肉を使ったメインディッシュ

そしてメインを飾るのは、肉の巨匠とも称される新保吉伸氏が手掛ける精肉店「サカエヤ」から仕入れた、長期熟成した近江牛の木炭焼きだ。この日は香ばしいヒレ肉に、深みのある赤ワインと醤油麹を使った和洋折衷のソースを合わせていた。近江牛というブランド牛を、肉のプロが処理することにより、赤身肉ながら舌を包み込むようにやわらかく、噛むほどにうま味が広がる至高の味わいに仕上がっていて、感嘆とする。
食事の余韻を繋ぐデザートには、フレッシュメロンとハーブのジュレ、黒米のチュイルとローストバニラのアイスだ。香ばしい玄米クリームと高貴なラム酒のジュレの組み合わせで、底に忍ばせたクッキー状の玄米がサクサクとした心地よい食感のアクセントを与え、糖蜜の濃厚なコクが全体を優しく包み込む。

ミニャルディーズには、ラズベリーマーマレードを閉じ込めた濃厚なボンボンショコラ、よもぎの和の香りとピスタチオのコクが響き合うフィナンシェ、マンゴーとミントのタルトが並ぶ。
ドリンクは1,000本以上のワインセラーから、ソムリエが料理との調和を考えて提案するペアリングもあるほか、ノンアルコールを含めて非常に充実している。
すべてが美食で満たされる、新オールインクルーシブの贅沢

「MUNI KYOTO」では、メインダイニングでのディナーに加え、朝食、さらにティータイムやアペリティフタイムの食体験を含む「MUNI Inclusive Collection – Elite」(宿泊料金に追加1名35,000円)というプランもあるのだが、今回こちらも刷新されている。

チェックイン後の15:00~17:00のティータイムには、パティシエの内藤氏が手掛けたスイーツが供される。5月上旬は清涼感あふれるメロンとミントのクープ・グラッセ、焼き菓子とチョコレートが登場。アールグレイやダージリンといった紅茶や、カプチーノやカフェラテなど、さまざまなドリンクとともに味わえる。

17:00~19:00のアペリティフタイムには、全12種類のタパスと、スパークリングワインやビールなどアルコールドリンクをフリーフローで楽しめる。タパスには、「マグロのタルタル 最中」や「トリュフ香るふんわりポテトサラダ」、さらに「サーモンマリネとフルーツトマトのブルスケッタ」や「自家製ローストビーフのブルスケッタ」など、一口サイズの中にフレンチの技法が凝縮されたアペタイザーが並ぶ。さらに「自家製お肉のテリーヌ」や「黒煎り七味のリエット」、「京鴨の生春巻き」から「近江牛コロッケ」に至るまで、京都の素材と世界のスパイスが心地よく交差する。

朝食は、メニュー内の料理を追加料金なしで何度でも心ゆくまで注文できる、夢のようなオーダーブッフェスタイルだ。着席すると運ばれてくるのは、自家製フレッシュジュースと、フランス産発酵バターや京都・彼岸山天然はちみつを添えた焼き立ての米粉パンやクロワッサン。さらに近江牛のローストビーフと季節野菜のサラダ、プレーンヨーグルトにフルーツアソートと、これだけでも盛りだくさんな内容だ。

メイン料理は「国産サーモンマリネとクリームチーズのオープンサンド」、マスカルポーネクリームとラズベリーソースが甘美に響く「ブリオッシュのフレンチトースト」、「パルメザンチーズのワッフル」といった洋の逸品だけでなく、「近江牛と錦糸卵の牛丼と肉吸い(季節のおばんざい添え)」という、和の心をモダンに解釈したメニューまでが自由に、何度でも注文できる。
さらに卵料理は、カンナンファームのブランド卵「丹波やまぶき」を使用。オムレツ、フライドエッグ、ポーチドエッグから好みのスタイルでオーダー可能だ。サカエヤ厳選豚バラ肉のジューシーな自家製ベーコンや、北海道トンデンファームのあらびきウインナー、季節の温野菜が添えられるなど、細部にまでこだわりが光る。
朝夕の静寂に癒やされる、嵐山で叶える大人のエスケープ

フレンチの革新が生み出す多重的な味わいに驚き、静寂に包まれたモダンな空間でアートと自然に癒される「MUNI KYOTO」。京都中心部に比べ宿泊する観光客が少ないため、朝夕は静かに過ごせるのも嵐山の魅力だ。次の休日は美しい静寂のなかで、季節の移ろいと一体になる大人のエスケープ旅を叶えてみては。
MUNI KYOTO
住所/〒616-8385 京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3
TEL/075-873-7771(Restaurant MUNI)、075-863-1110(ホテル代表)
URL/https://munihotels.com/
Photos & Text: Riho Nakamori
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