活況を呈する日本のアートシーンで、いま注目のアーティストを紹介する連載。今月は、編み物に宇宙の原理を重ね、一本の糸から現代社会のあり方を模索する美術家の力石咲。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年6月号掲載)
編むことで宇宙のつながりを再編し、新たな世界を立ち上げる

古くは家事や趣味として、近年ではデジタルデトックスや癒やしの側面にも注目が集まる編み物。けれども力石咲にとってそれは、美術表現であると同時に宇宙の原理とつながる研究手段であるという。
「一本の糸は、一次元の存在である。それは原子のような最小単位として存在し、編まれることで結びつき、面となり、やがて立体へと変化する。その過程を、私は結晶が形成される現象になぞらえている」

情報過多な社会環境で自身の感情に向き合うなか、物事の本質への憧憬が芽生えていった。さらに糸と編み物による制作を続けるうち、地球上に使われることなく眠る「残糸」の問題にも心を寄せた。
「作品をとおして物事はシンプルであること、自分の手で何でも作れることを伝え、現代社会の資源過剰問題にも光を当てたい」
きっかけはこうだ。「身の回りのものを結晶構造化、つまり編み物として作品にすることと並行して、大学の通信教育講座で本格的に学び始めたある日、編み物そのものが結晶だという事実に気づいた」
その発見は現代科学の鉱物起源説とも重なる。「宇宙を漂う塵のような物質が集まり、鉱物が生まれ、現在の世界へと連なっていく。私はこの過程に着想を得て、残糸を地球に漂う塵として捉え、それらを集め、編むことで、新たな世界を立ち上げようとしている」
『結晶集合体』と名付けられた作品群は、そのヴィジョンの具現化にして証しでもある。「人間の生産の残余から、地球的な生成の原理を再び立ち上げる試み」──深遠なる神秘の展望が、ここにある。
Select & Text:Keita Fukasawa Edit:Miyu Kadota
