活況を呈する日本のアートシーンで、いま注目のアーティストを紹介する連載。第8回は、音楽と映像を組み合わせたキッチュな世界観で独自のストーリーを紡ぐ現代美術家の笹岡由梨子。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年5月号掲載)
絵画的な思考で立ち上がる、宇宙のような頭の中

実写の身体パーツにローテクなCG合成、自作の歌。現代美術家の笹岡由梨子が生み出す作品は、奇妙ながらもどこか懐かしい。圧倒的なエネルギーを放つこの作風の起点にあるのは、笹岡のルーツである油絵だ。彼女はその思考を「絵画的な思考で映像を作る」と表現する。その制作過程では、一見関係なさそうでも妙に気になるモノやコトを、クレヨンや水性絵の具でドローイングして壁に貼り、マインドマップのようにつないでいく。
「モチーフから連想したものを数珠つなぎ的に描くことで、そこに星座のような意味性を見出し、作品へのイメージが成長していきます」。キャラクターや動植物、装飾が施された単語やフレーズまで、ボードには彼女の宇宙のような頭の中が少しずつ具現化されていく。特に多く登場するモチーフは体のパーツだ。「映像は時間芸術であり、同じく自分の身体にも時間性があります。作品で身体を扱うことは、『重奏的』に時間を取り扱っている感覚です」と笹岡は語る。

そこにさらなるパワーを与えるのが音楽だ。自作の歌詞をメロディーに乗せ、ただでさえ強烈な視覚情報をさらに聴覚で補強する。映像にあえて残された編集のバグやノイズは、キャンバス上の荒々しい筆致にも似て、洗練された現代の映像にはない生々しいリアリティを突きつける。言葉、音楽、絵画的映像──それらが多層的に積み上がった笹岡の作品は、一度観たら忘れられないインパクトとなって、観る者に迫ってくるのだ。
Select & Text:Asuka Kawanabe Edit:Miyu Kadota
