2025年もヒット曲が次々と生まれ、新人アーティストのデビューやサバイバル番組の盛り上がりなど、K-POP界は話題に事欠かない一年となった。K-POPイベントのMCやボーカルトレーナーとして活動するNICE73に、今年の動向を振り返ってもらった。
2025年のK-POP、キーワードは「日本」「バンド」
──2025年のK-POP全体のトレンドはいかがでしたか。
K-POPというか韓国全体の大きなトピックとして挙げたいのが、「日本人」です。『WORLD OF STREET WOMAN FIGHTER』(Mnet)に出演した日本人ダンサー・KYOKA様や、『現役歌王JAPAN 日韓歌王戦2025』に出演したNovelbrightの竹中雄大さんなど、日本人アーティスト・ダンサーの韓国での人気ぶりを見ると、かつてないほど韓国で日本人が歓迎された1年だったと思います。日本人がたくさん進出したし、韓国側の受け入れも昔とはもう全く違うんだなと実感しました。「2025 MAMA AWARDS」でKYOKA様がZEROBASEONEのソン・ハンビンとダンスコラボしたことも、それだけ韓国で愛されてた証拠だと思いました。
それからもうひとつ大きいのが、「バンド」です。数年前から韓国ではバンドブームが続いていましたが、「ONEWE」が『MAZE』で音楽番組『SHOW CHAMPION』の1位を獲得して(デビュー7年目にして音楽番組初一位)、「今は本当にバンドの時代なんだ」と感じました。バンドが盛り上がるのと同時に、J-POPらしいメロディや展開、J-ROCKらしさを取り入れているのも今年の特徴です。
──バンドのサバイバル番組『Steal Heart Club』(日本はAbemaで放送中)も話題ですね。
あれは本当に面白いです。参加者も、プロのミュージシャンから芸能高校の生徒、弘大で活動しているパンクバンドのメンバー、モデル出身のミュージシャン志望の人まで、とても多様なんです。それがただ競い合うだけでなく、セッションマンの人が高校生にレッスンしてあげたりと、荒削りな子が成長していく過程も描かれていて。ニュースによると、韓国の10代女子たちの同時間帯視聴率(地上波を含む)が1位だそうです。視聴者が女の子なのが韓国らしいですよね。日本ならバンドのファンは男性が多い印象ですが、韓国では“アイドルバンド”が強いんです。10代女子に支持されるのも納得でした。
バンドで言えば、Xdinary Heroesも今年『Beautiful Mind』『LXVE to DEATH』という2枚のミニアルバムを発表しました。JYPなのでDAY6の後継という見方もありましたが、この2作で彼らの方向性がかなり明確になったと思います。『ICU』も話題になりましたし、次が本当に楽しみです。
──日韓の動きをずっと見てきた73としては、やはり感慨深いものが?
めちゃめちゃありますね。MBN『日韓トップテンショー』では、松崎しげるさん、近藤真彦さん、中島美嘉さんが登場したことも話題になりました。日本と韓国の歌手が地上波の番組で一緒に歌って、それがまたネットでニュースになる。おそらく2002年日韓W杯の頃に、こういう未来を目指していたんだと思うんですが、20年以上かかってようやくここまで来たなと。今年は日韓国交正常化60年という節目でもありますし、ひとつの形になったと心から感じた1年でした。
──それとは違う文脈かもしれませんが、日本発グローバルグループの&TEAMも、『Back to Life』で韓国デビューを果たし、『THE SHOW』『SHOW CHAMPION』『MUSIC BANK』という3つの音楽番組で1位を獲得しました。
&TEAMは、まず日本でしっかりと活動をされ知名度を上げられました。その間に韓国ファンの熱は落ち着いてしまったのかと思いきや、人気番組『アイドルスター陸上競技選手権』(通称アユクデ)での大活躍もあって、ずっと待っていたファンと新規のファンが合流してあれだけの大きなうねりが生まれたんだと思います。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の功績

──K-POPの「今年の顔」を挙げるとしたら?
間違いなく『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』です。2025年6月にNetflixで公開されたアニメ作品ですが、累計視聴回数は3億回(25年12月現在)を突破し、世界的なヒットを記録しています。公開開始から半年経っても、主題歌のHUNTR/X『Golden』はワールドチャートの上位に君臨しています。アメリカでは、子ども世代に人気のディズニーアイドルが不在という状況もあって、この作品がハマったのかとも思うのですが、海外在住の友人からも「娘がすごく好きなの」とたくさんDMをもらいました。
それから、この作品が重要なのは「アイドルのセカンドキャリア」を示した点だと思っています。『Golden』を歌うEJEAは元SMエンターテインメントの練習生だし、劇中でSajaBoyzとして『Soda Pop』を歌うKEVIN(元U-KISS)も、この作品で再び脚光を浴びました。これまでは、アイドルのキャリアが終わると、うまくいけば映画やドラマの俳優やミュージカル、そうでなければ一般企業に就職という道が多かったけれど、今は、プロデューサーや作家、バーチャルアイドル、アニメ主題歌の歌手など、選択肢が大きく広がっています。アイドルが「一か八かの職業」ではなく、「次のキャリアを設計できる職業」になった。それを象徴する意味でも、意義深いヒットだったと思います。

──バーチャルアイドルといえば、PLAVEが今年『かくれんぼ』で日本デビューを果たしました。
PLAVEはとにかく歌が上手いですよね。アイドルファンだけではなくて、バーチャルアイドルファンも熱量が高いと伺っています。これからの展開も楽しみですね。
天下を獲った『like JENNIE』と、さらに進化を遂げるK-POP
──今年、楽曲面で印象的だったものは?
上半期の後半から、UKのサウンドが韓国に流れてきた印象があります。KATSEYE『Gnarly』がリリースされたときは「これは来た!」と思ったんですが、それが早くもすでに次のフェーズへと更新されつつあります。
──『Gnarly』は元々、アリス・ロンユー・ガオとザ・チェーンスモーカーズがTikTokに投稿したフックをベースに、ハイパーポップとパンク、K-POPらしいベースミュージックを感じました。
そんなふうに、これまでのK-POPはベースのサウンドやリズムである程度のジャンルを測ることができたのですが、ALPHA DRIVE ONEのプレデビュー曲『FORMULA』を聴いたとき、「なんだこれは!」と同時に「K-POPにまだ進化する余地があったんだ!」と驚きました。聴いたこともないような楽器使い、意外なジャンルの組み合わせ、構成の早い切り替えが増え、とても進化しています。その点において「まだやれることがあったのか!」と思いました。
それからUKのミュージシャン、PinkPantheressのリミックス・プロジェクト『Fancy Some More?』も象徴的でした。『Illegal+SEVENTEEN』としてディエイト、ミンギュ、バーノンが参加したことは驚きだったのですが、「まあSEVENTEENだしな」と納得もできたんです。でも、そのアルバムには、元LOONA(今月の少女)のyyxyユニット出身で、現在ソロ活動中のYvesが入っていた。これは完全に“事件”でした。
私が「今、いちばん面白いPOPを作っている」と思うPinkPantheressのアルバム12曲中に、K-POPのアーティストが2組もピックアップされている。これはもう、「K-POPが世界のポップミュージックの中に完全に組み込まれている」証拠だと思います。ちなみに、Yvesの3rd EP『Soft Erro:X』の『Soap』という曲にもPinkPantheressが参加しています。
K-POP自体、複数のジャンルを混ぜて成り立ってるものが多いのですが、JENNIEはその手法を使い、『like JENNIE』では、世界的なトレンドをミックスしながらK-POPとして最高にクールな曲に仕上げました。あのとき、アメリカをはじめ世界的に大きな潮流となりつつあった「バイレファンキ」に、すでに流行していた「phonk」の要素を取り入れたんです。そういうK-POP的な手法でビルボードを席巻したことにも、世界におけるK-POPの存在感を感じたし、彼女だからこそ、これがJENNIEの音楽として受け入れられたのだと思います。こうやって、K-POPはどんどん複雑化していくんですよね。
そうした流れの中で、今年もうひとつ印象的だったのが、“J-POPらしさ”の取り入れ方です。UNIS『SWICY』は、まさに、J-POP的な甘さやポップネスを取り入れながら、K-POPのフォーマットに再構築した名曲です。
今年は、本当に良い曲が多かった。82MAJOR、KickFlip、宇宙少女・ダヨンのソロEP『gonna love me, right?』、TXTヨンジュンのソロEP『NO LABELS :PART 01』も、それぞれ驚きがありました。それから、VVUPのアルバム『VVON』も良かったですね。今はどうしても大手事務所が強くて「中小の奇跡」が起こりにくい時代なのですが、その中でも健闘していると思います。
2025年デビュー組が切り開く、新しいアイドルの形
──今年もいろんなグループがデビューしました。2025年のデビュー組で印象的だったのは?
まず挙げたいのは、Hearts2Heartsです。デビュー曲に『The Chase』のような高度な曲をもってくるあたり、さすがSMだなと思いました。『FOCUS』も素晴らしい曲なんですが、クィアシーンを想起させるサウンドや振り付けなのに、MVの舞台は学校で、衣装は制服風に着こなしたトム・ブラウン。「強さ」を前面に出すような衣装だったら理解できるんですが、この組み合わせで出してくるのは、良い意味でどうかしている。SMの本気を感じました。
それからCORTIS。これは「新しい時代のソテジワアイドゥル」です。BIGBANGがデビューしたときも、「ソテジワアイドゥル級の衝撃」と言われましたが、CORTISはそれ以来です。『2025 MAMA AWARDS』では、MARTINがパッドで音楽を作るところからパフォーマンスが始まりました。自分たちが音楽を作る側であることを強く打ち出しています。サウンドも従来のK-POPというより、欧米のボーイバンドに近い空気感。NewJeansが登場したときの“イージーリスニング感”がCORTISにもあります。ライブではカチッと踊るよりも音楽を楽しむような見せ方をしてるけど、音楽番組ではきちんと踊るし、サイン会ではアイドルらしい愛嬌も見せる。「この人たちが新しいことをやるんだろうな」というワクワク感がありました。
新人グループの中で、CORTISと人気を二分しているのがALLDAY PROJECTです。男女混成というフォーマットの面白さに加えて、お嬢様、ダンサー、ラッパー、モデル、アイドルと5人のキャラクターが立っていて、全員に“本物感”があるんですよね。特にTARZZANはトークも面白いし、良い意味で「アイドルっぽくない普通の10代」のような感覚があります。だから、アイドルファンだけではなく、いろんな層に刺さっているのかもしれません。
ほかには、tripleSの後輩・idnttのアルバム『unevermet』もよかったですね。私はプロデューサーのチョン・ビョンギさんのファンなので、tripleSを含め次の展開をとても楽しみにしています。WOOAHの妹分HITGSも面白かった。ifeyeはヴィジュアルが最強でした。cosmosyは『Lucky=One』の妖精ビジュアルがバイラルで回っていて、戦略勝ちだと思いました。AHOFは、「“あの時代”のBIGBANG」を想起させるような楽曲で、私のYouTubeチャンネル『求韓日』でもたくさん動画を作らせてもらいました。プロデューサーのEL CAPITXNさんは元々HISTORYというグループのメンバーで、BIGBANG黄金期の少し後に活動していたので、おそらくそういう戦略の下でやっているんだろうし、AHOFのメンバーにはそれを体現できる歌唱力があるので、これからが楽しみです。
嘘偽りのない姿で夢を見せてくれる、新しい時代のアイドル
──ここまでデビュー組の話を伺ってきましたが、2025年は「アイドル像」そのものが変わってきた印象もあります。
その象徴的な存在が、2025年にデビューしたXLOVです。韓国初の「ジェンダーレス」コンセプトを掲げたグループであること自体、とても意義深いと思います。メインボーカルのHYUNは練習生期間がとても長く、「歌が抜群に上手い練習生」として有名な存在でした。ただ、雰囲気が大人っぽいので「どんなコンセプトのグループでデビューするんだろうね」と噂されていたんですが、一番自然体でいられる場所に収まった。これは美しい選択だったと思います。リーダーのWUMUTIは、これまでデビュー組に入っても、「本来の自分ではない姿」でデビューすることに違和感を覚えていたそうです。アイドルというのは、夢を見せる職業だから、ある程度の“嘘”を纏って活動する側面もあると思うんです。でも、RUIやHARUも含め「嘘のない自分」で、しかも非常に高いパフォーマンスで私たちに夢を見せてくれて、とても感動しました。
──XGのCOCONAがノンバイナリーを公表したり、KATSEYEのLaraとMeganもクィアであるとオープンにしたりという動きもありました。
JUSTBのベインが、LGBTQ+コミュニティのメンバーであるとカミングアウトをし、ライブツアーでも自分らしさを大切にしている姿にとても好感を持っていたところに、今回すごくいい曲でのカムバだったので、個人的にも胸を打たれました。アイドルは夢を届ける存在でありながら、「嘘偽りのない本当の自分で活動しよう」という流れが、いま確実に広がっています。それが「許容される」というより、それを「求められる時代」になったのかもしれません。
日本でも目が離せない動きが続々と! NICE73と編集部の注目グループ
──今年は日本のグループの動きもたくさんありましたが、73が今、気になる日本のグループについて教えてください。
実は今年、日本のグループばかり聴いていました。まず、今年1月にリリースされたAiScReamの『愛♡スクリ~ム!』は、SNSで「チョコミント よりも あ・な・た」というフレーズが猛烈にバズりましたが、曲全体を通して聴くと楽器の使い方、展開の面白さとかなり高度な曲なんです。そこでまず撃ち抜かれ、次に超ときめき♡宣伝部にハマってずっとリピートしています。上半期の始め頃に日本のグループのすごさに気付き、色々なグループを聴き漁っていました。M!LKもそうですけど、STARDUSTのグループの勢いがすごいですね。
──M!LKは『イイじゃん』と『好きすぎて滅!』の2曲が大ヒットし、念願の紅白出場が決定。今ノリに乗っています。超特急も「爪研ゲ」が印象的な『NINE LIVES』のような楽しいパフォーマンスと最強のバックボーカルの実力派。それから、SUPER★DRAGONも良曲揃いなんですよ。楽曲制作に参加している、メンバーのジャン海渡のソロ作もすごく良くて。
とき宣もそうですけど、STARDUSTのグループって歌を大切にしているような気がするんですよ。それは今の時代にすごく大事なことだと思います。
──歌ウマのギターデュオ・Sakurashimejiもいますし、EBiDANは沼が深いです。そしてBMSGのグループも勢いがありました。今年、HANAがデビューし、来年1月にはSTARGLOWのデビューが控えています。HANAの『My Body』は韓国のアーティストGRAYが作曲に参加したことも話題になりました。
MAZZELのNAOYAのキャラクターが面白いですよね。「酔っ払ってぴぴゃ」が流行語にもなって。
──KAIRYUのボーカルは日本屈指ですし、MAZZELは来年ますますすごいことになりそうですね。それからLDHでは新世代「Jr.EXILE」と「NEO EXILE」のグループもすごく元気です。他に73が注目しているのは?
そろそろDXTEENの時代が来ますよ! 『両片想い』はとんでもなく名曲です。私は彼らを「日本のThe Wind」だと思っているんです。作家陣も共通するところがあるし、「青春」を表現できるグループという意味では、韓国はThe Wind、日本はDXTEENです! 1月9日にアリーナ公演も控えていますし、2026年はいよいよ彼らの年になるのでは。なんといっても彼らは人柄がとてもいいんですよ。
──それから73のボーカルトレーニングの教え子でいうと…。
KAJAにぜひご注目ください! KJRGLは10月からKAJA(カジャ)になりました。来年のTBSドラマ『DREAM STAGE』にHOJINとISAACが出演するので、グループ全体でも人気が高まったらいいなと期待しています。
──最後に、2026年に期待することは?
まずは、1月12日に正式デビューするALPHA DRIVE ONEですよね。これは確実に売れるでしょう。それから『BOYS II PLANET』とほぼ同時期に放送していたサバ番『B:MY BOYZ』からはYUHZもデビューします。YUHZは日本人メンバーが3人いますし、引き続き注目です。ジェジュンさんの事務所iNKODEからは、INTHE Xがどういう展開になるのか気になりますし、SMTR25も2026年には動きがありそうですね。それから、今年いろいろと物議を醸したミン・ヒジンさんがオーディション開催中とのことで、来年も目が離せません。
Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto
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