ソムリエ店長がそっと教える「高い白ワイン」のちょっとマニアックな基本
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ソムリエ店長がそっと教える「高い白ワイン」のちょっとマニアックな基本

みなさんこんにちは、ワインブロガーのヒマワインです。さて、ワインには高いものもあれば安いものもありますが、今回のテーマは「高い白ワイン」。教養として知っておきたい高級白ワインの世界を、ソムリエ店長こと沼田英之ソムリエの案内で覗いてみたいと思います。

高いワインはなぜ高いのか。高いワインは一体どんな味なのか? さっそく聞いていきましょう!

白ワインには、赤ワインのような超高級ワインがない?

ヒマワイン(以下、ヒマ)「今日は『高い白ワイン』がテーマです」

沼田店長(以下、店長)「そうですね、以前『高い赤ワイン』についてもお話ししましたが、実は赤ワインに比べて白ワインはそもそも『高い』ものがあまりないんです」

ヒマ「そうなんですか! ちょっと意外な感じがしますね」

店長「赤ワインは、世界中で10万円を超えるような超高級ワインを見つけることができます。しかし、白ワインの場合、フランス以外の国で10万円を超えるものはほとんどありません。ドイツの特定の生産者や、一部のカリフォルニアワインくらいなんです」

ヒマ「白ワインは赤ワインに比べて熟成期間も短い場合が多かったり、理由はいろいろありそうですね」

店長「そんななか、10万円を超えるワインが山ほどある地域が例外的にありまして、それがフランスのブルゴーニュ地方です」

ヒマ「世界でもっとも高いワインといわれるロマネ・コンティを生み出す土地ですね。ロマネ・コンティは赤ワインですが」

店長「ブルゴーニュには格付けがあり、地域名、村名、畑名というふうに、土地の範囲が狭くなるほど希少価値が上がり、価格も高くなります。その頂点に立っているのが特級畑=グラン・クリュで、グラン・クリュのぶどうを使った白ワインはやはり高額になります」

ヒマ「グラン・クリュと書かれていたら1万円じゃ買えない、みたいな世界ですね」

店長「はい。そして、ブルゴーニュを代表する品種が『シャルドネ』という白ぶどうです。シャルドネはカリフォルニアでも盛んに栽培されていて、なかには“カルト”と呼ばれて高額で取引される銘柄も存在します。なので、『高い白ワイン』を値段だけで選ぶと、ほとんどブルゴーニュとカリフォルニアのシャルドネばっかりになっちゃうんですよ」

ヒマ「それだとちょっと面白くないですね」

店長「ですよね。なので今回は、あえてフランスに産地を限定し、フランス国内のさまざまな地方のさまざまな品種で造られる“高い白ワイン”をご紹介したいと思います」

ヒマ「それは面白そう! さっそくお願いします」

パヴィヨン・ブラン・ド・シャトー・マルゴー 2021(70,000円)

店長「まずはパヴィヨン・ブラン・ド・シャトー・マルゴー
2021です。価格は70,000円(税抜、以下同)。フランス、ボルドーのワインです」

ヒマ「ボルドーはいわゆる“赤ワイン色”の代名詞的存在ですが、実は白ワインもおいしいんですよね」

店長「そうなんです。ボルドーには地区によって格付けがあり、メドック地区の頂点には5つの一級シャトーが君臨していますが、パヴィヨン・ブラン・ド・シャトー・マルゴーは、そのうちのひとつであるシャトー・マルゴーが造る白ワインです」

ヒマ「一度飲んだことがありますが、これは本当に素晴らしいワインだと思います」

店長「素晴らしいんですよ。一級シャトーはほかにシャトー・ムートンがエール・ダルジャン、シャトー・オー・ブリオンがシャトー・オー・ブリオン・ブランという白ワインをリリースしていてどれも素晴らしいです」

ヒマ「このワインの特徴は?」

店長「ソーヴィニヨン・ブランという品種100%で造られているのが特徴です。艶やかで綺麗な柑橘類、白い花のような清涼感もある、ソーヴィニヨン・ブラン最高峰の1本、といったところでしょうか」

ヒマ「一生に一度は飲みたいワインが冒頭から出ましたね」

コント・ラフォン モンラッシェ グラン・クリュ 1996(890,000円)

店長「続いてはコント・ラフォンのモンラッシェ グラン・クリュ1996です。価格は890,000円」

ヒマ「ボルドーの一級シャトーが造る白ワインが7万円なのに対し、こちらは10倍以上の値段! ブルゴーニュの価格がいかに頭抜けているかがわかります(笑)」

店長「ブルゴーニュで高級白ワインといえば『ムルソー』と『モンラッシェ』が有名。このうちムルソーは村の名前ですが、モンラッシェは特級畑の名前なんです。モンラッシェはいわば世界最高峰の畑とも言えると思います」

ヒマ「ひえ〜。そりゃ890,000円も納得ですね」

店長「このワインは『三銃士』の作者である小説家のアレクサンドル・デュマが『脱帽し、跪(ひざまづ)いて飲むべし』と語ったそうですからね」

ヒマ「デュマは味わいについてそう述べたんでしょうけど、思わず価格に対して跪きそうになります……」

店長「コント・ラフォンは“ドメーヌ・ルフレーヴ”や“コシュ・デュリ”と並ぶブルゴーニュの白のトップ・オブ・トップ生産者。“シャルドネ”という品種の代表として、この1本を選んでみました」

ヒマ「本当に、生きてるうちに飲んでみたいワインです」

ギガル コンドリュー ラ・ドリアーヌ 2022(21,000円)

店長「続いては南フランスのローヌ地方のワイン。この地方を代表する『ヴィオニエ』という品種を使ったワインです。価格は21,000円」

ヒマ「ヴィオニエおいしいですよね。白桃のような、とてもチャーミングな味わいが特徴です。秋の訪れを告げる金木犀の花のような特徴的な香りも魅力ですよね」

店長「ところが私はその香りがちょっと苦手で、若い頃はヴィオニエって飲まなかったんです。ですが、このワインを初めて飲んだときに『ヴィオニエってこんなに素晴らしいのか!』と感動したんです」

ヒマ「私も大好きなワインです。前述したような香りと果実味豊かな味わいがありながらも、すごく複雑で奥行きもあって」

店長「そうなんですよ。エチケット(ラベル)もとても華やかなので、ギフトにもおすすめです」

ヒマ「結婚式の花嫁に贈るようなイメージがあります。お友だち何人かでお金を出し合って贈って、式を終えたあとでみんなで飲んだりしても良さそう」

店長「いいですね! ヴィオニエで造られる高級ワインはほぼありません(フランス最小のAOCのシャトー・グリエくらい)から、これは世界最高峰といっていい1本。ぜひその味わいを楽しんでいただきたいですね」

ヒマ「ちなみにヴィオニエという品種で造られたワインは2,000円前後の価格帯でもおいしいものがあるので、ぜひ探してもらいたいです」

マルセル・ダイス アルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュ 2007(36,000円)

店長「続いてはフランス北東部、アルザス地方を代表する生産者、マルセル・ダイスのワインを選んでみました。価格は36,000円です」

ヒマ「十分に“高いワイン”ですが、2本目のワインが890,000円だったので、21,000円とか36,000円がリーズナブルに感じられてしまいますね(笑)」

店長「たしかに。なんとこのワインには13の品種が使われています」

ヒマ「マルセル・ダイスはアルザス地方を語る上で欠かせない生産者ですよね」

店長「はい。詳しいことは省きますが、ワイン法にまで影響を与えたといわれる生産者です。マンダリン、桃、蜂蜜、リンゴ、とても長い余韻…ほんのり甘いのか、甘くないのか、飲んでいてわからなくなるよゆな“宇宙空間”のようなワインで、世界中の他のワインを飲んでもこれと重なるものがありません」

ヒマ「私も飲んだことがありますが、同感です。黄金を溶かしたような豊かな味わいもあって、高級ワインながら親しみやすさもすごい」

店長「常識を覆した生産者のワインなので、会社を創業されるなど、なにか新しいことをはじめるとか、革新的なチャレンジをする方への贈り物にもいいと思います」

ディディエ・ダグノー ピュール・サン 2020(26,000円)

店長「続いてはディディエ・ダグノーのピュール・サンというワイン。価格は26,000円。品種は1本目のボルドーと同じソーヴィニヨン・ブランですが、産地が異なります」

ヒマ「ディディエ・ダグノーといえば、フランス中部のロワール地方を代表する生産者ですよね」

店長「はい。2008年に飛行機事故で亡くなった父・ディディエさんの跡を、現在は息子のルイ・バンジャマンさんが継いでいます。ビオディナミという農法を早くに導入したり、馬で耕作を行うなど、こだわった栽培方法で有名です」

ヒマ「これは高級ワインなのに、格付け的には一番低い“ヴァン・ド・フランス”なんですね」

店長「はい。2017年ヴィンテージのワインが、『揮発(きはつ)酸が高い』という理由で認証を得られなかったのだそうで、それをきっかけに制度に縛られるのをやめ、自由にワインを造るためにあえて制度の外側に出たようです」

ヒマ「うーむ、信念を感じます」

店長「ソーヴィニヨン・ブランという品種はステンレスタンクで発酵・熟成させるケースが多いのですが、この生産者の場合は樽発酵・樽熟成。自然派と呼ばれる造り手ですが、その醸造所はスーツで寝転がれるくらいクリーンだそうです」

ヒマ「それは素晴らしい」

店長「父の跡を継ぐ息子のワイン。事業承継の際の贈り物にも喜ばれると思います。もちろん味わいも素晴らしいので」

ドメーヌ・マクル シャトー・シャロン 2012(22,800円)

ヒマ「続いてはドメーヌ・マクルのシャトー・シャロン2012、価格は22,800円ですね。『シャトー・シャロン』っていうのは生産者の名前みたいですけど、地名なんですよね」

店長「フランス東部、スイスとの国境に近いジュラ地方の村の名前ですね。この地方を代表するワインが”黄色いワイン”という意味を持つ
ヴァン・ジョーヌ。その最高峰の一本です」

ヒマ「でも、ラベルにはヴァン・ジョーヌには書かれてないんですね」

店長「シャトー・シャロンで造られたヴァン・ジョーヌだけは、ラベルにヴァン・ジョーヌと書かなくてよしっていうルールがあるんですよ。それだけ特別な村なんです」

ヒマ「へ〜! ヴァン・ジョーヌは超ざっくりいうと、ワインを長期間特殊な環境で熟成させることであえて酸化させ、独特な風味を纏わせたワインですよね」

店長「はい。16世紀から17世紀にかけて、ジュラ地方はスペインのハプスブルグ家の支配下にあった時代があり、シェリーの産地であるアンダルシア地方で一般的に行われていた産膜酵母(フロール)を利用したワインの熟成技術が、ジュラ地方に伝わったという話もあります。620m入りの独特のボトルは、1000mlを仮に仕込んだとしたら、熟成の過程で380mlがいわゆる“天使の取り分”として失われるからこの大きさになったそうです」

ヒマ「面白い話だらけですね、このワイン」

店長「まさに。フランスに長く息づく文化そのものを味わえるような1本なんです。まさに今の季節に出てくるモンドールと呼ばれるチーズの表面を削り取り、タイムの枝を挿してオーブンで焼き上げたものと一緒に飲んだらこれはもう最高」

ヒマ「それは絶対うまいやつ!」

アンリ・マリオネ プロヴィナージュ 2018(14,500円)

店長「最後はアンリ・マリオネのプロヴィナージュ2018。価格は14,500円です。ちょっとおまけ的に、フランスの高級ワインを語る上で知っておいていただきたいワインを入れてみました」

ヒマ「これはどのようなワインなのでしょう?」

店長「これは“プレ・フィロキセラ”とよばれる自根のぶどうなんです。実はヨーロッパのぶどうって、フィロキセラっていう害虫の影響で、一度絶滅しかけてるんですよ。アメリカから運ばれた台木に接ぎ木することでその問題は解決したのですが、その”フィロキセラ禍”を生き延びたものすごく少ない例のうちのひとつがこのワインなんです」

ヒマ「ってことは樹齢200年とかそんなレベルですよね」

店長「その通りです。品種は“ロモランタン”という希少品種です」

ヒマ「ロモランタン、飲んだことないなあ」

店長「じゃあちょっと開けて飲んでみましょうか。これは正直いま流行りのワインではありません。でも、樹齢200年の自根のぶどうを飲むという体験は、ワイン好きなら一度は通ってもらいたいんですよね」

ヒマ「流行りのワインじゃないかもですが、味わいは素晴らしい! レモンや白桃のような酸味と果実味が具備されていて、そこにヨーグルトのような風味も感じます。どこか透明なお茶のようなニュアンスもあるのかな。さすが14,500円という味がします」

店長「『高い白ワイン』っていう意味では、10万円、20万円するシャルドネを探すのは難しくありません。でも、こういうストーリーがあって、味わいも価格としっかり釣り合っているワインを探すほうが私はいいんじゃないかと思うんです」

ヒマ「ただ高いってだけじゃなくて、値段に理由があり、なにより背景に歴史や文化が息づいているワインってことですね」

店長「はい。品質的には3~4万円くらい以降は変わることはなく、あとは希少性やブランド価値の領域。“白ワインの最高峰”はフランスだけを見てもいくつもありますので、気になるものに一度触れていただけたらうれしいですね」

ワインマーケット パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜20:00
TEL/03-5424-2580
URL/winemart.jp



Photos & Text: Hima_Wine

Profile

沼田英之 Hideyuki Numata ソムリエ、1978年生まれ。ホテルやレストラン勤務後、イタリア・トスカーナに留学。帰国後、レストランにソムリエとして勤務し、その後フランスワイン専門店ラ・ヴィネに入社。現在は姉妹店である都内屈指の大型店、ワインマーケット パーティの店長を務める。
ヒマワイン Hima_wine ワイン大好きワインブロガー。ブログ「ヒマだしワインのむ。」運営
https://himawine.hatenablog.com/
YouTube「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。Channel」共同運営
https://www.youtube.com/@nagi-himawine
Twitter:@hima_wine
 

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