1本10万円超! ソムリエ店長がそっと教える「高い赤ワイン」のちょっとマニアックな基本
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1本10万円超! ソムリエ店長がそっと教える「高い赤ワイン」のちょっとマニアックな基本

みなさんこんにちは! ワインブロガーのヒマワインです。私はワインが大好きで毎日ワインを楽しく飲んでいますが、ふだん飲むワインはだいたい1,000円から2,000円くらいのものが中心。それでも十分おいしいのですが、世の中にはそれよりはるかに高いワインが無数にあります。

10,000円を超えれば十分に高級ワインと言えると思いますが、なかには100,000円を超える超高級ワインもありますし、ときには1,000,000円を超えることも!

そんな「高いワイン」はなぜ高いのか? 一体どんな味がするのか? 今回は「赤ワイン」に絞って、都内最大級のワインショップ「ワインマーケット・パーティー」の店長でソムリエの沼田英之さんに話を聞かせてもらいました!

知っておくとちょっと得する、高級赤ワインの世界。ぜひ、覗いていってください〜!

高いワインはなぜ高い? ワインの値段に影響する「3つの要素」

ヒマワイン(以下、ヒマ)「今回は『高い赤ワイン』がテーマです。そもそも「高いワイン」ってなに? みたいなところからいきましょうか」

沼田店長(以下、店長)「そうですね。ワインの価格は『土地』『造り』『希少性』、この3つで決まります」

ヒマ「ほほう」

店長「まず『土地』から説明しましょう。たとえば世界一高いワインと言われるロマネ・コンティは、フランスのブルゴーニュ地方で造られていますが、ブルゴーニュのワインはロマネ・コンティに限らず総じて年々値上がりしています」

ヒマ「『昔は買えたのに、今じゃ手が届かない!』なんて嘆くワインラバーは多いですよね」

店長「それは、ブルゴーニュの土地に限りがあるから。世界的な人気の高まりに対して、土地には限りがあるから供給量はそう多くは変わらない。そのため、価格が高くなるわけです」

ヒマ「需給のバランスですね」

店長「もうひとつが『造り』です。ワインの質を大きく作用する要素に、ぶどうの『収量』があります。簡単にいうと、1本のブドウの樹になる房の数を減らすほど、ぶどうはエキスが濃くなる。そうすると1本あたりの収量は減りますよね」

ヒマ「当然、価格は高くなると」

店長「さらに、新品のオーク樽を使えば樽の値段の分だけ高くなりますし、なるべくフレッシュなぶどうを手に入れるため収穫の人数を増やしたり、健全な実だけを使うように選果を徹底すれば、そのぶん人件費がかかります。そして醸造所内の設備を最新のものにしたり、熟成期間を長くしたり……」

ヒマ「高くしようと思えばいくらでも高くできちゃうわけですね」

店長「そうですね、そして最後はやっぱり希少性。冒頭に挙げたロマネ・コンティは年産6,000本しか造ってないんです。『一生に一度は飲みたい』っていうワインが年にたったの6,000本。そりゃあ奪い合いにもなります」

ヒマ「今日紹介してもらうのは、そんな希少な土地のワインばかりってことですかね」

店長「はい。『高いワイン』はワインの名産地を代表するものばかり。それを知識として知るだけでもワインの世界は深まりますし、『このワインと同じ土地、同じ品種のワインを飲んでみよう!』と好奇心がふくらむと思うんですよ」

ヒマ「高いワインを知ればワインの世界が広がっていくってことですね…!」

ジャック・フレデリック・ミュニエ 「ミュジニー・グラン・クリュ 2017」(396,000円)

ヒマ「さて、1本目はブルゴーニュのワインですね。ジャック・フレデリック・ミュニエのミュジニー・グラン・クリュ 2017。価格はなななんと、396,000円です。高いですね(笑)」

店長「高いです」

ヒマ「『ミュジニー』っていうのは畑の名前ですね。ブルゴーニュワインには厳格な格付けがあって、その頂点に立つのが33ある特級畑。ミュジニーはそのなかでも代表格のひとつといったところでしょうか」

店長「そうですね。ロマネ・コンティも実は畑の名前。ほかにもラ・ターシュ、シャンベルタンといった超有名畑がありますが、ミュジニーもそれらに比肩する偉大な畑と言えます」

ヒマ「それで、どんな味がするんですか? 」

店長「まず、真っ暗な真夜中の湖をイメージしてください。そこに、湖の向こうから少しずつ朝の太陽が昇ってきて、水面を照らし出し、風景が美しく見え始め、ポカポカとした暖かさも伝わってくる……たとえるならばそんな感じです」

ヒマ「わかるような、わからんような……(笑)」

店長「ボトルを開けたては冷たい印象なんですよ。香りも味わいも閉じている。でも、時間経過とともに樽の香ばしさや淡いイチゴの香りが漂ってくる。その“淡さ”がなんともいいんです」

ヒマ「いきなり、一生に一度は飲みたいワインが出てきちゃいましたね」

ヴィエッティ バローロ リセルヴァ“ヴィレッロ” 2013(71,500円)

店長「続いてはヴィエッティの『バローロ リセルヴァ“ヴィレッロ” 2013』です」

ヒマ「バローロといえば『ワインの王』『王のワイン』なんて呼ばれるイタリアワインですね。ピエモンテ州のバローロ村っていうところで造られています。」

店長「イタリアの高級ワインの代名詞のひとつですね。このヴィエッティっていう造り手はバローロを代表する一人ですが、これはすごい特別な畑のワインなんです。たった1ヘクタールにも満たない土地から、この年は3,986本だけ造られるうちの1本」

ヒマ「それでお値段は71,500円。前のワインの396,000円に比べれば安いですが、間違いなく超高級ワインですね」

店長「先ほどは挙げませんでしたが、ワインの価格には評論家のつける点数も大きく影響します。このワインは2007年と2009年に世界的評論家であるロバート・パーカーが最高評価の100点をつけ、この2013年は99点をつけています」

ヒマ「金銭感覚が麻痺してる感じですが、それだけの評価を得ているならこの感覚も妥当って感じがしますね」

店長「バローロに使われているのはネッビオーロという品種。八角やスターアニスのようなニュアンスにドライフラワーのような香りも。若い頃は荒々しいのですが、年をへるにつれて豊かな香りが出てくるんです。収穫から10年以上経過していますが、まだまだ良くなると思います」

ヒマ「バローロは、探せば3,000円くらいで売られているケースもありますから、Baroloとボトルに書いてあるワインを探してみるといいかもしれませんね」

店長「バローロは安いものから高いものまであります。このヴィエッティのバローロも、スタンダードなものは12,000円くらいで買えますから、奮発してみるのもおすすめですよ」

テヌータ・デ ル・オルネッライア 「マッセート2021」(167,200円)

ヒマ「つづいては、『テヌータ・デ ル・オルネッライア マッセート2021』ですね。価格は167,200円。ちょっといいリゾートホテルにカップルで泊まってディナー時にちょっといいワインをボトルで頼めて交通費まで出るくらいの価格です(笑)」

店長「たしかにそうですね(笑)。でも、このワインにはそれくらいの価値がある……と言っても決して過言ではないと思います」

ヒマ「このワインは“スーパータスカン”と呼ばれるワインですよね。イタリアのトスカーナ州のワイン」

店長「はい。トスカーナといえばサンジョヴェーゼという品種が有名ですが、あえてメルローやカベルネ・ソーヴィニヨンというフランスのボルドー地方で有名な品種を使った、いわば伝統にあえて反したワイン造りをしているのがスーパータスカン。マッセートはその最高峰のひとつです」

ヒマ「このワインはメルロー100%で造られているんですね。メルローでいうと、フランスの超有名&超高級ワインである『シャトー・ペトリュス』『シャトー・ル・パン』などもありますが……」

店長「“高級ワインといえば”っていう感じで出てくるのがそのあたりのワインですよね。ですので、今回はあえてイタリアから選んでみました。そして、このワインはそれらのワインにも負けないパワーがあると思います」

ヒマ「うーん、飲んでみたい」

店長「艶があり、重さもあって、角がない球体を思わせる液体。メルローでこれ以上のものが世界中を見渡してもあるかどうかわからない、イタリア最高峰の1本だと思います。ぜひ、なにかの機会に口にしていただきたいです」

ヒマ「イタリアはフランスと世界1位の座を分け合うワイン大国。その最高峰ってことは世界最高峰ってことですね」

ヴェガ・シシリア「ウニコ1986」19万2500円

店長「続いても欧州のワイン。スペイン最高峰のワインと言っていいヴェガ・シシリアの『ウニコ』です。金額的にも、おそらく“スペインで一番高いワイン”なのでは? という1本です。ヴィンテージは1986年。金額は192,500円です」

ヒマ「ウニコって響きがかわいいですが、ウニコ=ユニーク、すなわち“唯一の”みたいな意味合いですね。それにしても1986年ヴィンテージとはすごい。いまから約40年前!」

店長「たまたまお店にバックヴィンテージが眠っていたんです」

ヒマ「ウニコ自体はどんなワインなんですか?」

店長「スペインを代表する赤ワイン用品種といえばテンプラニーリョ。そして、テンプラニーリョを使った最高峰のワインという説明になるでしょうか。あとですね、私も職業柄好きなワインはたくさんありますが、真に愛してる(金額関係なく飲みたい)ワインはなにかといえば……たぶんウニコなんですよ。もしかしたらNO.1と言ってもいいかもしれない。」

ヒマ「沼田さんのNO.1! そりゃすごいですね」

店長「若い頃、先輩ソムリエに『ロマネ・コンティってどんなワインですか?』と聞いたら『30畳くらいの部屋なら、一瞬で香りで埋まっちゃう』って教えてくれたんです。私は、30畳ならウニコでも香りで満たせると思います。とにかくなんでこんなに香るんだっていうくらい香るんです」

ヒマ「ウニコは私も飲んだことがありますが、すさまじいパワーを内包している印象を受けました。スペインは産地としては値段が安め。なのにこの金額がするわけですから、他の産地に比べるとお得かもですね」

店長「もしかするとそうかもしれませんね」

マーカッシン「マーカッシン・ヴィンヤード 2012」(146,300円)

ヒマ「続いてはアメリカのワインですね。アメリカも実は高級ワインがたくさんあります」

店長「有名どころでいうと『オーパス・ワン』や『ケンゾー・エステート』。『スクリーミング・イーグル』を代表とするカリフォルニア・カルトも数十万円からときに100万円単位の根がつきますが、今回はマーカッシンの『マーカッシン・ヴィンヤード 2012』を選んでみました。価格は146,300円です」

ヒマ「マーカッシンという生産者が、マーカッシンという畑のぶどうを使って造るワインですね。『マーカッシン・マーカッシン』と呼ぶとちょぴりツウっぽいという。マニアックな話ですけど」

店長「アメリカの高いワインは有名なナパ・ヴァレーに集中しているんですが、このマーカッシンはソノマという土地の生産者。ソノマは涼しい土地で、ピノ・ノワールという品種からワインが造られています」

ヒマ「ロマネ・コンティと同じ品種ですね。」

店長「カリフォルニアの高級ワインの特徴として、リリースしたてからすぐ飲めるということがあるんです」

ヒマ「すぐ飲めるっていうのは、熟成しなくても美味しく飲めるよってことですよね」

店長「その通りです。やっぱり、同じピノ・ノワールでもフランス・ブルゴーニュのワインとは一味違うんです。このマーカッシン・マーカッシンでいうならば、まるで青い部分が一切ないイチゴという印象。イチゴの先端の、もっとも甘い部分だけを集めたような果実感が楽しめます」

ヒマ「ちょっぴりマニアックですが、これはもらったらうれしいワインですね」

店長「うれしいですよね。『わかってるな!』っていう感じが伝わるかと思います」

ヒマ「カリフォルニアワインはめちゃくちゃ奥が深いですが、同時にこのワインを代表に飲みやすくて親しみやすいのが特徴なので、高級ワインにチャレンジしたいと思ったら個人的には非常にオススメの産地だと思います!」

トルブレック「ラン・リグ2016」(41,800円)

店長「いよいよ最後、南半球の高級ワインを1本入れたいなということで、オーストラリアの生産者、トルブレックの『ラン・リグ 2016』です。ちなみに前述した評論家ロバート・パーカーが100点をつけたワイン。価格は41,800円です」

ヒマ「感覚がバグってきて、なんだかとってもお得に感じられてしまいますね(笑)」

店長「お酒が1本41,800円なんて、本来とんでもない金額ですもんね。南半球の高級ワインは実はあまり数が多くないんです。チリの『アルマヴィーヴァ』、ニュージーランドの『バス・フィリップ プレミアム ピノ・ノワール』などありますが、だいたいマックス5万円といったところ」

ヒマ「南半球のワインはコスパが良いというのが定説ですが、高級ワインにおいても同じことが言えるわけですね」

店長「唯一の例外と言っていいのがオーストラリアで、ペン・フォールズの『グランジ』やヘンチキの『ヒル・オブ・グレース』といったワインに10万円を超える価格がついているのですが、今回はそれらに比べると価格は抑えめかつ100点ワインのこちらを選んでみました」

ヒマ「品種はオーストラリアを代表する品種・シラーズですね。こうして見てみると、高級ワインには必ずその土地を代表する品種が使われていますね」

店長「その通りですね。だからこそ、冒頭に申し上げたように高級ワインを飲むことでその土地の特徴がわかるし、ワインの世界が広がると思うんです」

ヒマ「なるほど! このラン・リグはどのようなワインでしょうか」

店長「一言でいえば『パワー!』です。一度つかんだら離さないようなグリップ力というか、とにかくパワフル。アルコール感もたっぷりあり、その倍くらいのフルーツ感もあります。そこにローズマリーなどのハーブの香りもあって、決してフルーツ一辺倒ではない。そしてとにかく余韻が長いのも特徴。1杯飲んで電車に乗って、家に着くまでずっと香りを堪能できるくらい、長く余韻が続きます」

ヒマ「もしかしたら、今回紹介してもらった6本のなかで、普段ワインを飲んでいない人が飲んだ場合に一番おいしく感じるのはこのワインかもしれませんね」

店長「オーストラリアのシラーズは非常に明快なおいしさがありますからね。その可能性は高いです」

ヒマ「30万円のワインより4万円のワインのほうをおいしく感じるのはワインあるある。一方で、30万円のワインにも、価格相応の深みがやはりある……」

店長「まさに、そこがワインの面白さです」

ヒマ「最後に、改めて高級ワインの魅力ってなんなんでしょうね」

店長「そうですね……ちょっと私の話をさせていただくと、昔、今では10万円以上するフランスの5大シャトーの一角、シャトー・ラトゥールがまだ1万円ちょっとで買えたころ、当時滅多になかった3連休の最初の朝に、パジャマのまま開けたんですよ。3連休だし、開けちゃえ! と」

ヒマ「そりゃ贅沢ですね。」

店長「グラスに注いで飲んでみたら、香りも味もすさまじい。そこで、すぐにスーツに着替えました。これはパジャマで飲んでいい代物じゃない、と(笑)」

ヒマ「なんですかそのいい話は」

店長「高級なワインを飲むと、私はいつもその若かりし日のことを思い出すんです。スーツに着替えて飲みたくなる、それが高級ワインなんじゃないかなって。」

ヒマ「カジュアルじゃない良さ、みたいなことですかね。特別な日、特別な人、特別な時間を最高に演出してくれる、それが高級ワインなんでしょうね。断じてパジャマで飲むものではなくて(笑)」

店長「星付きレストランにオシャレして行くような感覚ですね。ぜひみなさんも、今回紹介したワインをいつかどこかで楽しんでみてくださいね!」

ワインマーケット パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜20:00
TEL/03-5424-2580
URL/winemart.jp

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Photos & Text: Hima_Wine

Profile

沼田英之 Hideyuki Numata ソムリエ、1978年生まれ。ホテルやレストラン勤務後、イタリア・トスカーナに留学。帰国後、レストランにソムリエとして勤務し、その後フランスワイン専門店ラ・ヴィネに入社。現在は姉妹店である都内屈指の大型店、ワインマーケット パーティの店長を務める。
ヒマワイン Hima_wine ワイン大好きワインブロガー。ブログ「ヒマだしワインのむ。」運営
https://himawine.hatenablog.com/
YouTube「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。Channel」共同運営
https://www.youtube.com/@nagi-himawine
Twitter:@hima_wine
 

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