くどうれいんと染野太朗の短歌集『恋のすべて』の装丁を手がけた北岡誠吾にインタビュー | Numero TOKYO
Culture / Feature

くどうれいんと染野太朗の短歌集『恋のすべて』の装丁を手がけた北岡誠吾にインタビュー

01 | 04

短歌連載「恋」および書籍『恋のすべて』のデザインは一貫してグラフィックデザイナーの北岡誠吾が手がけた。著者二人の短歌を押し上げ、加速させたデザインの秘密とは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載分を先行公開)

Numéro TOKYO 2024年5月号に連載初回の「ふれる」。「くどうさんの歌と自作だけでなく、北岡さんのデザインなどとの響き合いを初めて誌面で具体的に実感できて感動しました。(中略)そのときの喜びや表現する楽しさみたいなものの鮮烈さが忘れられません」(染野太朗)
Numéro TOKYO 2024年5月号に連載初回の「ふれる」。「くどうさんの歌と自作だけでなく、北岡さんのデザインなどとの響き合いを初めて誌面で具体的に実感できて感動しました。(中略)そのときの喜びや表現する楽しさみたいなものの鮮烈さが忘れられません」(染野太朗)

──さまざまな書籍のブックデザインを手がけられていますが、もともと本がお好きだったのですか。

「本も読んでいたりはしたのですが、僕の場合はどちらかというと文字そのものや組版みたいなところからブックデザインに興味を持って。大学で学んだタイポグラフィを生かしたグラフィックデザインをやっていけたらいいなという気持ちが学生時代からありました」

──連載「恋」の誌面は、毎号どのようなコンセプトでデザインをされていたのでしょうか。

「自分の中では結構チャレンジングなことではありました。普段あまりアートワーク表現をやらないし、僕はグラフィックデザイナーとしてのいわゆる作家性みたいなものを持っているタイプではないので、毎回くどうさんと染野さんの二人からいただいた短歌を読んで自分が何を想像するか、というかたちでやってきたというのがあります。逆に言うと方針を決めない、『こういう作風でやっていこう』ということを決めないというのに近いと言いますか」

Numero TOKYO 24年6月号に掲載した「恋 vol.2 yellow」。「白と黄色だけなのにテクスチャーがすごくきれいだなと思って。短歌も限られた制約の中でどこまで表現できるかみたいなところがあるので、そういう意味でも相乗効果があったような感覚がありました」(くどうれいん)
Numero TOKYO 24年6月号に掲載した「恋 vol.2 yellow」。「白と黄色だけなのにテクスチャーがすごくきれいだなと思って。短歌も限られた制約の中でどこまで表現できるかみたいなところがあるので、そういう意味でも相乗効果があったような感覚がありました」(くどうれいん)

──でも連載15回分の誌面を通しで見ると、トータルバランスが取れている印象を受けます。

「もしかしたら、もともと連載としてのリズムが良かったのかもしれないというのはあります。やっぱり短歌の内容があって、時季的なものだったり、テーマだったりいろんな要素があったから。それらを僕なりに解釈したら、結果的にあの誌面になったという。

あと今回の連載で本当に楽しかったポイントが、みんなで一つのイメージを作っていけたことで。結局デザインって、デザイナーが作るものというよりかは、いろいろな要因がつながってそのデザインになっていく、その最後のかたちに起こすところをデザイナーがやっているという感覚が僕の中にはあって。大きな関係性の中で一つのものを作っているという感覚がないと、作り手とのやり取りが役割分担みたいな感じになってしまうんですよね。

でも今回の連載では、二人の短歌に対して向き合って『こういう解釈をしました』と僕がデザインを出すと、二人から何か言葉が返ってくるというやり取りがあって。二人は短歌という言語を、僕は視覚的な言語をもって文通をしていたような感覚があったくらい、二人は感想や意見をくれたりしたんです。そういうかたちでコミュニケーションを取れたところがうれしかったです」

Numero TOKYO 2024年11月号に掲載した連載第6回「嫉妬」。「『嫉妬』は濃い赤みたいなイメージで歌を作っていたんですけど、このデザインが上がってきたときに『そうか、嫉妬って赤いだけじゃないよな』と思って感銘を受けました。その影響で歌も〈赤いだけの嫉妬を過ぎて闇に眼が慣れた瞼のうらがわの紺〉に直しました」(くどうれいん)
Numero TOKYO 2024年11月号に掲載した連載第6回「嫉妬」。「『嫉妬』は濃い赤みたいなイメージで歌を作っていたんですけど、このデザインが上がってきたときに『そうか、嫉妬って赤いだけじゃないよな』と思って感銘を受けました。その影響で歌も〈赤いだけの嫉妬を過ぎて闇に眼が慣れた瞼のうらがわの紺〉に直しました」(くどうれいん)

──『恋のすべて』は、本として存在感のある装丁になっていますね。

「『恋』といわれたら、やっぱりすごく質感があるようなイメージが僕にはあるので、無機質な感じは違うかなとずっと思っていました。恋というものを具体化するのはかなり難しいことだと思うのですけど、しっとりとしている感じも欲しかったので、装丁では本体表紙・カバー・帯という段差をつけているものに対して、質感の差をつけて一つのかたちにするということも考えていました。

あと連載のときは雑誌なので、それはそれなりの考え方がありましたが、書籍というところでは、流行り物として回収される装丁にしたくない感じもずっとあって。短歌が流行っている一方で、短歌集としてある程度ストイックさもちゃんと持った、王道さや伝統的な感じといった性格を持っている一冊にしたかったんです。そのなかで、表現として天アンカット(※本の上部を断裁せず、不揃いのまま仕上げる製本手法)というクラシカルな表現をできたのはうれしかったです。

『不揃いなだけじゃん』と思われるかもしれませんが、どんどんきれいに物を製造できる技術が進化して、全部が神経質になるくらい整えられる世界だからこそ、こういった部分を残すことに意味があるのではないかと僕は考えていて。天アンカットについて説明しようと思ったら、印刷の歴史から入らないといけなくなる部分もありますが、そういう歴史への敬意みたいなものも含めて、美しさとして受け入れられたらいいなというふうに思いますね」


『恋のすべて』
作者/くどうれいん 染野太朗
発売日/2025年9月19日予定
価格/¥1,870
体裁/四六版
ページ数/136P
発行/扶桑社

*全国の書店、およびネット書店で発売中。一部書店で著者直筆のサイン本の販売があります。詳しくは各書店様にお問い合わせください。

ukakauでネイルオイルと書籍のセット、またはネイルオイル単品を購入する

Numéro CLOSETでネイルオイルと書籍のセットを購入する

楽天ブックスで書籍を購入する

Amazonで書籍を購入する

 

\短歌集『恋のすべて』をお読みになった方へ/

ぜひ、書籍の感想をお聞かせください! いただいたご感想は著者と編集者が拝読します。短歌集『恋のすべて』の感想受付フォームはこちら

Interview & Text:Miki Hayashi Photos:Kouki Hayashi Edit:Mariko Kimbara

Profile

北岡誠吾 Seigo Kitaoka グラフィックデザイナー。1993年東京都生まれ。2016年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。15年より加藤賢策が率いる株式会社ラボラトリーズに入社し、グラフィックデザイン、ブックデザインを担当。19年に独立し、『ユリイカ』(青土社)をはじめとする雑誌や人文書、小説などのブックデザイン、美術館やギャラリーの展覧会広報物などを手がける。
 

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2026 N°193

2025.11.28 発売

The New Me

あたらしい私へ

オンライン書店で購入する