小説家・平野啓一郎が見た「横尾忠則 連画の河」@世田谷美術館 | Numero TOKYO
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小説家・平野啓一郎が見た「横尾忠則 連画の河」@世田谷美術館

横尾忠則《連画の河を描く》2023年 作家蔵
横尾忠則《連画の河を描く》2023年 作家蔵

遠い昔に同級生たちと郷里の川辺で撮影した記念写真のイメージを起点に、2023年春から「連歌」ならぬ「連画」制作を始めた画家・横尾忠則。生も死も等しく飲みこんで流れる「連画の河」とは。驚異的な創造力を発揮し続ける横尾の現在をとらえた個展「横尾忠則 連画の河」(東京・世田谷美術館)を小説家、平野啓一郎がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年7・8月合併号掲載)

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

大きな「絵画的なるもの」のうねり

近年の横尾さんの制作は、とにかく速い。本展でも、2023年9月に開催された『寒山百得』展以降の150号を中心とする大作が、64点も出品されている。

年齢のことを言うのも無粋だが、今年89歳になる画家が、これだけの絵を描き得たことに、まず圧倒される。小説家と画家との違いは、肉体を用いるかどうかだという話を横尾さんから度々聞いてきたが、写真家や建築家などと比べても、画家のこの特質は際立っていよう。横尾さんは依然として、絵とは何か、画家とは何かという問いを発し続けている。

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

速く描くということは、絵画が絵画らしくあるための幾つかの利点を放棄することである。対象を深く存在論的に表象すること、細部の仕上げに拘ること、完成度を追求すること、主題を熟考すること、コンセプトに凝ること、……それらは確かに、美術作品としての説得力を増す。しかし、手放してみれば、芸術の創造的な自由は、遥かに明るく、伸びやかになる。

『連画の河』では、イメージが、作品のフレームを乗り越えて、一つの大きな奔流をなしている。会場では、是非とも二周して見てほしい。最後まで辿り着いて最初に戻ると、その流転の原点が更に新鮮に見えるからである。

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

「絵画的なるもの」が、一つの全体として出現している。しかし同時に、個別の作品の印象も色濃い。『盗まれたシンゾー』『略奪された心臓』『SPとシンゾー』の三作などは、思いがけない発想で、最早、ほとんど忘れられつつあるあの事件の何とも言えない複雑さを表現して鮮烈だった。

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

展示風景 撮影:岡村陽織
展示風景 撮影:岡村陽織

「横尾忠則 連画の河」

会期/2025年4月26日(土)~6月22日(日)
会場/世田谷美術館
住所/東京都世田谷区砧公園1-2
時間/10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館/月曜日
URL/setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00223

Text:Keiichiro Hirano Edit:Sayaka Ito

Profile

平野啓一郎 Keiichiro Hirano 小説家。1975年生まれ。京都大学法学部卒。小説『日蝕』で第120回芥川賞を受賞。主な著書に小説『マチネの終わりに』『ある男』『本心』、エッセイ『私とは何か 「個人」から「分人」へ』などがある。最新作は短編集『富士山』。

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