本、映画にアートまで。青田麻未が選ぶ「日常美学」を考えるヒント集 | Numero TOKYO
Art / Feature

本、映画にアートまで。青田麻未が選ぶ「日常美学」を考えるヒント集

日常生活とは他でもない、私たち自身が紡ぎ出していくもの——。その気づきから、新たな暮らしの可能性が見えてくる。本、映画にアートまで。美学研究者・青田麻未が選んだ「日常美学」につながるヒント6選。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年4月号掲載

書籍『東京の台所』

日本茶喫茶の店主、70代一人暮らし、インドマニア、ホームレス夫婦の台所に、今はなき阿佐ヶ谷住宅や、多国籍シェアハウスの台所まで。東京に暮らす50人の台所を通して浮かび上がる、食と人生の物語。市井の生活者を独自の視点でルポルタージュする著者の筆致と写真によって、人それぞれの暮らしとの向き合い方が見えてくる。「朝日新聞デジタルマガジン&w」で2013年にスタートし、現在300回余りを数える人気連載の書籍化第一弾として大きな話題を集めた単行本(2015年刊)を、文庫化にあたって加筆・再構成したもの。

大平一枝/著(毎日文庫)2024年
https://mainichibooks.com/books/essay/post-654.html

映画『PERFECT DAYS』

2023年 ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
2023年 ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.

『パリ、テキサス』、『ベルリン・天使の詩』などで知られるドイツの名匠。東京・渋谷でトイレ清掃作業員として働く平山(役所広司)が過ごす、同じ繰り返しのように見えて小さな揺らぎをたたえた日常を、美しくも静かに映し出す。主演の役所は本作で2023年の第76回カンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞を受賞した。

監督/ヴィム・ヴェンダース
出演/役所広司、柄本時生、アオイヤマダ、石川さゆりほか
発売元/ビターズ・エンド
販売元・豪華版BOX発売協力/TCエンタテインメント
発売協力/スカーレット
UHD/Blu-ray/DVD発売中
https://www.perfectdays-movie.jp/

書籍『「ふつうの暮らし」を美学する』

日常生活において感性が果たす役割を探求する、美学のなかでもとりわけ新しい学問領域「日常美学」について、その背景や論点をまとめた日本で初めての入門書。哲学の一分野として18世紀に成立して以来、芸術を主な対象としてきた旧来の美学に対し、長らく無視されてきた私たちの家と生活に着目。掃除や片付け、料理、椅子、地元、日常のルーティンなどを例に挙げ、現在進行形の議論に触れながら、視野を広げて切り込んでいく。本記事で紹介した映画『PERFECT DAYS』、「中田家コレクション」など参考事例への言及も多く、親しみやすい。

青田麻未/著(光文社新書)2024年
https://books.kobunsha.com/book/b10125568.html

「瀬戸内国際芸術祭2025」

豊島「島キッチン」 建築:安部良 Photo: Osamu Nakamura
豊島「島キッチン」 建築:安部良 Photo: Osamu Nakamura

瀬戸内エリアで3年に一度開催される現代アートの祭典。アートの聖地こと直島をはじめとする島々を巡り、地域住民やボランティア、文化や歴史と出合うなかで、その土地ならではの生活ぶりが見えてくる。豊島の「島キッチン」(写真)のように、作品でありながら誕生会などを通して、地域の人々との交流を担う場を体感できるのも醍醐味の一つ。

瀬戸内海の島々と、新たに加わった香川県側の沿岸部を含む全17エリアを舞台に、春・夏・秋の3会期で開催。春会期は4月18日(金)より5月25日(日)まで。

https://setouchi-artfest.jp/

映画『〈主婦〉の学校』

2020年 ⓒ Mús & Kött 2020
2020年 ⓒ Mús & Kött 2020

アイスランドの首都レイキャビクに実在する“主婦の学校”に密着したドキュメンタリー。良き主婦を育成する家政学校として1942年に設立、90年代には男女共学化。学生たちは生きるための知恵と技術を求め、1学期3カ月間の共同生活を送る。ベリー摘み、料理やお菓子作り、洗濯に裁縫、パーティの切り盛り…。卒業生として、同国の環境・天然資源大臣となった男性も登場。家事をするとはどういうことか、人の生き方との結びつきとは。さまざまな気づきを導いてくれる。

監督/ステファニア・トルス
提供・配給/kinologue
Amazon Prime Videoほかで配信中

https://kinologue.com/housewives/

アイノ・アアルトのグラスウェア

ⓒFiskars Group
ⓒFiskars Group

20世紀のフィンランドを代表するモダニズムデザインの巨匠、アルヴァ・アアルトを公私ともに支えた妻、アイノ・アアルト。彼女が1932年にデザインし、イッタラのプロダクトのなかで最も長い歴史を誇るのが、その名を冠したタンブラー、ボウル、ピッチャーなどのグラスウェアシリーズ。水の波紋にインスピレーションを受けたシンプルなデザインはもちろん、持ちやすさ、重ねやすさなど、生活のなかで実際に使われてこそキラリと光る、普遍的な価値を感じることができる。

イッタラ 1932年
イッタラ公式オンラインショップ/www.iittala.jp

 

Supervision : Mami Aota Text : Keita Fukasawa

Profile

青田麻未 Mami Aota 美学研究者、群馬県立女子大学文学部専任講師。1989年、神奈川県生まれ。2017年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員PD(成城大学)を経て現職。環境美学・日常美学を専門に、暮らしにおける感性の働きについて哲学的な探求を行う。著書に『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』(光文社新書)がある。
 

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