のん「何も捨てずに大人になれる」|2025年、新時代を創る女性10人 | Numero TOKYO
Culture / Feature

のん「何も捨てずに大人になれる」|2025年、新時代を創る女性10人

NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍国民的スターとなるも、多くの困難に直面してきた、のん。しかし、“私が私であること”を諦めず、映画、音楽、アートと新しい表現に挑戦していった。創造力という大きな翼を手に入れた彼女は、今までにもまして“最強”だ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載

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──伊丹十三賞受賞おめでとうございます。自由な表現に挑み続ける創作活動が認められてのことでした。

「この賞は以前から意識していたので、うれしかったです。『あまちゃん』でご一緒した宮本信子さんも主催のお一人ですし、毎回素晴らしい方が受賞されていますから。ただ自分には程遠い道のりだと感じていたので、今回最年少でいただけたというのは本当にありがたいことです。このまま突き進んでいいのだと、背中を押してもらいました」

──映画『Ribbon』(2022年)で監督を務めたことも大きかったと思います。監督業に挑戦してみて、ご自身の中に変化はありましたか。

「一番良かったのは、変な緊張をしなくなったこと。役者だけをやっていたときは、監督の機嫌が良くないと、私が悪いからなのかと思い悩んでしまっていたんです。でもいざ自分が監督をしてみると、どんな映像にするのかということに集中するんですね。

キャストの演技やスタッフの仕事に対しても、映像の中に愛情があって、そのことを一番に考えている。もしかしたらほかの監督もそうだったのかもしれないと、少し気持ちがわかりました。スタッフや俳優の皆さんの仕事に対して、よりリスペクトを持てるようになったことも、監督業を経験したおかげです。以来、楽な気持ちで現場に入れるようになりました」

──映画もそうですが、2020年に小誌で『未来の視覚』というリボンをたくさん付けた少女の絵を発表してから、リボンをモチーフとした作品を定期的に発表されていますね。

「リボンモチーフはこれからもさまざまな表現の中で発表していきたいと思っています。現在はトルソーにリボンを取り付けたアート作品をたくさん制作しているところです」

──のんさんにとってリボンはどのような存在に育ってきましたか。

「映画の中では、怒り、悲しみなど負の感情の象徴でした。それらをリボンで表現すると、かわいいもの、美しいものに変換される。それは自分が生きていく中ですごく重要なことで、負の感情は必ずしも悪いものではないという期待を込めていたんです。

今制作しているアート作品では、トルソーに対して光が当たっていない影の部分にリボンを取り付けています。アートを作っているときは直感を大事にしているので、それが自分にとってどんな意味があるのかをまだ言語化してはいないのですが、以前とはまた違う意味が生まれているかもしれません」

──「創作あーちすと」の肩書を「アーティスト」に改定されたことにものんさんの決意を感じました。

「これまではアーティストという言葉の枠にはめられるより、自由にできる緩い土台が必要だと思っていました。しかし映画を撮ったことを機に、私はこれからも作っていく人でいるだろうという確信が持てたんです。そこで腹をくくることができました。アーティストと名乗ったとしても自由にやっていける自信が持てたことが大きかったです」

自分の力を発揮できる場所にようやくたどり着けた

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──2月に配信される主演作『幸せカナコの殺し屋生活』では、殺し屋の主人公・カナコを演じます。

「奇想天外な設定なので、とにかく楽しく観ていただける作品にしなければと思いました。カナコはブラック企業からホワイトな殺し屋に転職することで、とても生きやすくなる。そこに納得感が出るよう、カナコの正義感が真っすぐに映るよう意識して演じました」

──カナコに対して思いが重なる部分はありましたか。

「気質は違うと思いますが、歩んでいる道が似ているところはあるかもしれません。それは自分の力を発揮できる場所にようやくたどり着けたという意味で。本人が変化したわけではなく、自分を取り巻く状況を変えてみたらうまくいくという話は、たくさんの人に希望を持って観ていただける内容だと思います」

──今回の役はアクションシーンも見どころになっています。

「ずっとアクションをやりたいと夢見てきたので、今回この役をいただけたのはうれしかったです。練習もすごく楽しかったのですが、いざやってみるとやはり奥深く、難しかったです。もっとうまくやれるところまで、これからも努力は続けていきたいと思っています」

創作が生きる糧

──以前インタビューで「屈強に立ち上がってきた実感がすごくあります」とおっしゃっていたのが印象的でした。のんさん自身の20代で感じてきたさまざまな感情が詰まった楽曲「荒野に立つ」でもその思いは伝わってきます。ライブなどで歌い続けてきた中で、ご自身で曲の感じ方に変化はありましたか。

「同作は自分のつらかった胸の内をヒグチアイさんに打ち明けて制作していただいたもの。以前は自分の分身のような曲だと感じていました。歌っていくうちに、最近は聴いてくれた人の分身にもなってくれていると感じます。これまで自分だけの曲のような特別なものでしたが、聴いてくれた人にとっても特別な曲になっていることが今はうれしいです」

──これからもずっと表現をされていくと思います。あらためて、のんさんにとって創作とは?

「自分が生きていく上で本当に必要なものだと思います。一度、突然不安になって、妹に電話で『私、この仕事をしていなかったらどうしていたと思う?』と聞いたんです。すると『その辺で野垂れ死んでいた』とひどい答えが返ってきて(笑)。ひどい!と思いつつ、妹から見てそうだとすると、やっぱりそうなんだなと。自分でもうすうすそんな気がしていたんですけど、やっぱり他に道はないんだなと確信できて、創作を自分が生きる術にするしかないのだとあらためて感じました」

──創作は自身の息のしやすさにもつながっているのでしょうか。

「そうですね。音楽やアートなど、何かを作っているおかげで生きていける感覚があります。より自由になれている気がします」

──これからどういう自分になっていきたいですか。

「自分が今持っているものや、大事だと思っているものを捨てることなく、持ち続けて大人になっていける手応えを今は感じています。これからもいろんな処世術は身に付けていくかもしれないけれど、そのために捨てるべきものは何もないんですよね。今持っているもの全てを抱えたまま、それをどんどん増やしていって、もっと豊かな自分になっていきたいです」

『幸せカナコの殺し屋生活』
パワハラに耐えきれず、ブラック企業を退職した西野カナコ(のん)は待遇の良さに魅了され、殺し屋に転職。「人殺しなんてムリムリムリムリカタツムリー!!」と人を殺すことにためらいを感じながらも凄腕の殺し屋へと成長していく、痛快アクションコメディ。

出演/のん、藤ヶ谷太輔 
原作/若林稔弥
2月より、DMM TVにて独占配信開始。

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Photos:Saki Omi Styling:Yoshiko Kishimoto Hair:Keiko Tada Makeup:Shie Kanno Interview & Text:Daisuke Watanuki Edit:Mariko Kimbara Fashion Associate:Makoto Matsuoka

Profile

のん Non 1993年、兵庫県生まれ。俳優、アーティスト。映画『さかなのこ』(2022)で第46回日本アカデミー賞優秀主演女優賞など受賞多数。22 年に自身が脚本、監督、主演を務めた映画『Ribbon』を発表。現在、主演映画『私にふさわしいホテル』が公開中。音楽活動では、23 年に2ndフルアルバム『PURSUE』をリリース。アート制作も多く、昨年は神戸六甲ミーツ・アート2024 beyondにて「のんRibbon Art 昔といまを結ぶちょうちょ」を発表した。

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