原田マハ「言葉にすることで全てが動き出す」|2025年、新時代を創る女性10人 | Numero TOKYO
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原田マハ「言葉にすることで全てが動き出す」|2025年、新時代を創る女性10人

『本日は、お日柄もよく』が75万部を突破するなど、数々のベストセラーを生み出してきた作家の原田マハ。アートキュレーターから作家への転身、パリでのファッションブランド展開など、なぜ彼女は次々と挑戦を続けられるのか。その秘密は言葉にあった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載

ジャケット¥273,000 スカート(パンツ付き)¥204,800/ともにÉcole de Curiosités(エコール・ド・キュリオジテ) ピアス¥935,000 イヤーカフ¥78,100 ブレスレット¥451,000 リング¥1,430,000/すべてMikimoto(ミキモト カスタマーズ・サービスセンター)
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──昨年11月に発売された『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』には読者の背中を押してくれる言葉がたくさんありました。原田さんは行動と言語化、どちらが先ですか。

「私は言霊を信じるタイプなので、まず言語化します。言語化することによって、たまたま同じことを考えている人とつながったり、共鳴する人が周りに集まってきてくれたりということが起こるんです。『FORTUNE BOOK』は、左ページに私が書き下ろした言葉、右ページにノートという構成にしたのですが、これは読むだけでなく、自分が考えていることを言葉にしてノートに書いてみることによって、何か動き出すかもしれないよ、という願いも込めました」

──言語化するときは書くだけでなく、誰かに話すこともしますか。

「両方ですね。『本日は、お日柄もよく』で『言葉っていうのは、魔物だ。人を傷つけも、励ましもする』と書きましたが、注意深く言葉を使うことができたら、くよくよして悩んで、どうにもならないようなとき、袋小路的な局面を打破できるかもしれない。言葉はその人の使い方ひとつ。私は言葉を扱う作家として、注意深くありながらも時に思い切って発信して、誰かの力になれればといつも思っています」

──森美術館やMoMAと華やかなプロフィールも、実際は原田さん自身が直談判したという能動的なアクションがあったんですよね。

「能動しかなかったとも言えます(笑)。一番の影響は父だと思います。父は7年前に90歳で亡くなったんですけど、破天荒な人でした。大事なことは全部父に教えてもらったなと亡くなって思います。子どもの頃、家族で出かけると本屋や美術館に置いていかれることがありました。お小遣いを渡されて『5時ぴったりに入り口で待ち合わせ。じゃあ後で』みたいな。子どもだけ置いていくんかいと思いながらも、 2、3時間は美術館を楽しみ、その後は街中に出て本を買ったり、喫茶店に入ったりして自分の好きなことばかりの時間を満喫して戻るという過ごし方をしていました」

──自分の好きなことを好きなようにやらせてくれたわけですね。

「経済的に特別恵まれた環境ではなかったですけど、これがやりたい、見たい、こんな本を読みたい、書きたいといった自分の中から湧く要求に応えられていましたし、足りなければ脳内の妄想で補なっていました。叶わない分を補うために想像力を働かせたという感じかもしれません」

──せめて想像でという実践が今につながっている。

「実際には願望の98%は叶っていなくて、MoMAに行きたいみたいな、究極の2%が叶っただけとも言えます。『FORTUNE BOOK』はもちろん読者に向けて書いたのですが、自分に向けて書いたと言ってもいい。『自信とは、自分を信じること』と書きましたが、常に自分を信じて、一歩、もう一歩行ってみようという気持ちが今も湧いてきます」

──新しいことを始めるとき、挑戦という気持ちですか。

「私の不器用なところなんですけど、地固めができないんですよ。やったことないけどやってみたいという好奇心に引っ張られるまま、気づかぬうちにチャレンジしていたという感じです。『あれ、これってチャレンジングなことなんじゃないか?』って、後から気がつくこともあったり(笑)。もちろん意識してチャレンジすることもあります。

これまで挑戦を語ったとき、否定的な人がほとんどでしたが、その度にいつも思っていました。『でも、それができるかできないかを決めるのはあなたじゃなく、私なんです』と。やりたいという気持ちとやるという意志、できるかできないかというアビリティは自分に由来することだから。『かんたんにあきらめない。あきらめるのはかんたんだから』とも書きましたが、『あきらめるのは10秒あればできる。だったらもうちょっと時間をかけて考えてみよう』といつも自分に言っています」

心の喜ばせ方を知る

──『FORTUNE BOOK』に「心が喜ぶ栄養を」という言葉がありました。心の栄養とはどんなものなんでしょうか。

「本当にシンプルに心が喜ぶもの。高尚である必要はありません。昨日も『キムチが食べたい!』と思って、デパ地下で買って家で母と食べたんです。そしたら『これはうまい。ちょっと食べて』と二人で一気に食べ切ってしまった。日々にそういう喜びがあること。ピカソの絵でも、デパ地下のキムチでも心が自然に喜ぶのであれば心の栄養になると思います。立場や肩書にかかわらず、自分の心の喜ばせ方を知ってる人はすごく素敵。全人類がもしそうだったら、絶対に戦争は起こらない」

──確かにそうですね。

「優れた芸術家やクリエイターはその心の栄養をたくさん提案してくれる存在なんですよね。私がアート全般を大好きでリスペクトしているのは、普遍的に人々の心に語りかける力を持っていて、それが永遠に残っていくからなんです」

──手がけられているファッションブランドÉCOLE DE CURIOSITÉS(エコール・ド・キュリオジテ)もその一つですね。

「着る喜びを届けたいんです。シーズンごとにアートに由来する小さな物語を書き、それをベースにデザイナーの伊藤ハンスがコレクションを立ち上げていく。ブランドを運営していくことって大変。でも何の苦労もなく夢が叶うなんて思えない。涼しい顔をしながら、実際は大変なことしかないけど、それでも喜びがたとえ1%でもあるならやり続けたいです」

──楽しいことだけじゃなく、納得できないこともあったと思います。

「相手がいれば、まず相手の言ってることを注意深く聞きます。これはすごく大事なことで、苦言は金言だと思っています。誰かにネガティブなこと言うときってすごくパワーがいるわけで、わざわざ苦言をくださる方は必要なことを言ってくれているはずなんです。大人になりました(笑)」

──これまで女性であるがゆえの問題には直面してきましたか。

「かなり反発をしてきました。女性は職場の花で、部長に茶柱が立ったお茶を出すみたいな時代でしたから。美術館の館長にも女性が増えてきましたが、皆さん女性だからではなく、なるべき人がなった。女性だから頑張れとは思っていなくて、その人が優れたキュレーターであり館長であればそれでいい。トップランナーである彼女たちが一番それを意識しているはずです。どれだけ面白いものを世に提供できるか、ますますクリエイティブファーストでやっていかれることを信じています」

2025年、新時代を創る女性10人はこちら

Photo:Yuki Kumagai Hair & Makeup:Tomomi Shibusawa Styling:Nozomi Urushibara Interview & Text:Hiroyuki Yamaguchi Edit:Mariko Kimbara

Profile

原田 マハ Maha Harada 1962年、東京都生まれ。伊藤忠商事、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館(MoMA)への派遣を経て、フリーのキュレーターに。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞し、作家デビュー。16年秋に伊藤ハンスとファッションブランドÉCOLE DE CURIOSITÉSを立ち上げるなど新しい分野にも次々と挑戦。ベストセラー小説『本日は、お日柄もよく』の特装版と『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』が徳間書店より発売中。

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