奇想の巨匠、初の大規模回顧展 『田名網敬一 記憶の冒険』開幕!!@国立新美術館 | Numero TOKYO
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奇想の巨匠、初の大規模回顧展 『田名網敬一 記憶の冒険』開幕!!@国立新美術館

ただただ震撼。怒濤のイマジネーションで世界を魅了する巨匠、田名網敬一。御年88歳の最前線、自身でも初という大規模回顧展が幕を開ける。ここで魅せられたらもうとりこ。広大無辺なる“TANAAMI”宇宙へ、いざご案内!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年9月号掲載)

今回の展覧会ポスターにも使用された新作。『森の掟』2024年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
今回の展覧会ポスターにも使用された新作。『森の掟』2024年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

幼少期の戦争体験からアメリカ大衆文化の影響まで、記憶や夢のイメージを自由自在にコラージュする脳内宇宙の冒険絵巻!

自身の記憶やさまざまなイメージを縦横無尽にちりばめた作品群からの一枚。『彼岸の空間と此岸の空間』2017年 タグチ・アートコレクション蔵 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
自身の記憶やさまざまなイメージを縦横無尽にちりばめた作品群からの一枚。『彼岸の空間と此岸の空間』2017年 タグチ・アートコレクション蔵 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

左:「Tanaami × adidas Originals」展で発表された高さ3メートルの立体作品。『綺想体』2019年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA 右:ベトナム反戦をテーマにしたポスターシリーズより。「NO MORE WAR」1967年 タグチ・アートコレクション蔵 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

“ミニスカートの女王”ことツイッギーが印象を放つポップな一作。『ダブル ツイッギー』2008年(1966年の作品を再制作) ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
“ミニスカートの女王”ことツイッギーが印象を放つポップな一作。『ダブル ツイッギー』2008年(1966年の作品を再制作) ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

田名網敬一 インタビュー : 「記憶の冒険」の現在地

1960年代から分野を超えて活動し、2000年頃から全世界で人気がぐんぐん上昇。ブランドとのコラボも多数、展示準備まっただ中の奇想の巨匠は、今何を考えているのだろう?

金魚と合体したドクロや伊藤若冲の鶏などが渦を巻く、2×4メートルの大型作品。『死と再生のドラマ』2019年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
金魚と合体したドクロや伊藤若冲の鶏などが渦を巻く、2×4メートルの大型作品。『死と再生のドラマ』2019年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

記憶や文化のイメージを無心のままにコラージュする

──幼い頃の戦争体験やアメリカ文化など、頭に刻まれた記憶やイメージをコラージュする手法で作品を制作しています。その面白さ、醍醐味をどう感じていますか。

「いま僕がやっているコラージュ作品は、雑誌の仕事で培ったノウハウの延長線上にある手法です。雑誌のアートディレクションは学生の頃から手がけてきましたが、まだコンピューターがない時代のこと、写真やイラストレーション、文字などの配置を細かく記入し、切り貼りした指定紙を作らなければならない。いわば編集にも通じる作業です。長年の経験上、ほとんど無意識に、目をつぶっていてもできるくらいになりました。

ただ、コラージュのような作品はあらかじめ計算して臨んだところで、必ずしもよい作品が出来上がるわけではありません。僕は無心の状態のまま、多数の作品を同時に素早く作ることができます。だからこそ、自分の記憶や夢といった要素が無意識のうちに表れてくるのかもしれません」

渋谷を歩く女子高生の姿と金魚を重ねた“金魚女子高生”の連作ドローイングより。「A Object Of Ambiguous Desire」2007年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
渋谷を歩く女子高生の姿と金魚を重ねた“金魚女子高生”の連作ドローイングより。「A Object Of Ambiguous Desire」2007年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

──幸せな記憶だけでなく、あえてトラウマを甦らせ、向き合い続けているのはなぜでしょう。例えばよく描かれる金魚は、空襲で燃え上がる空を背景にウロコがキラキラと輝いて見えた記憶に始まり、ドクロや女子高生などと合体して、今も進化し続けています。

「好きで恐ろしい記憶を描いているわけではなく、自然と湧き出てきてしまうんです。自分の脳の中にこびりついて離れない記憶があって、それが自分の作品と切っても切れないものになっている。1970年に初めてニューヨークを訪れたときも、実験映像の上映会でビカビカと輝くフリッカー(光の明滅)の向こうに突然、記憶の中の金魚が浮かんで見えて、驚きました。それ以来、金魚が頭から離れなくなってしまった。81年に病気で入院し、高熱にうなされて見た幻覚のイメージもそう。過去のことを覚えていて、繰り返し思い返す性格だけに、記憶にとらわれてしまう宿命にあるのかもしれません」

記憶や死生観と向き合い始めた1980年代の作品。『金魚』1982年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
記憶や死生観と向き合い始めた1980年代の作品。『金魚』1982年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

幼い頃に見た金魚を描いたアクリル画。『Gold Fish』1975年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
幼い頃に見た金魚を描いたアクリル画。『Gold Fish』1975年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

──60年を超える制作活動のなかでも、2000年頃から若者を中心に熱狂的な支持を集めるようになりました。明るいだけではない作風にもかかわらず、世界的な人気を誇る理由は何でしょう。

「それについては創刊以来、僕の作品を紹介してくれている『Numéro TOKYO』の皆さんのほうがよくご存じじゃないでしょうか(笑)。ただ、僕は美術大学で長い間、学生たちと向き合ってきました。指導していたのは絵の描き方やテクニックではなく、自分のイメージをいかに深め、読み解き、制作につなげるかという発想法です。そうやって若い人の考え方に触れてきたからか、気が合う人も若者が多い。そんなところに理由があるのかもしれませんね」

ここへ来て初の回顧展!脳内宇宙の展望やいかに?

──赤塚不二夫の漫画作品をはじめ、ブランドやミュージシャンなどとのコラボレーションにも旺盛に取り組んでいます。数え切れないほどのプロジェクトがありますが、印象に残っている作品は?

「一つは、21年に手がけた歌手・八代亜紀さんのデビュー50周年のプロジェクト。僕は昔から八代さんの大ファンだったので、仕事を一緒にできたことは一生の思い出です。アルバムジャケットやミュージックビデオを制作したり、渋谷パルコの館内外をアートワークでジャックしたり。19年のアディダス・オリジナルスとのコラボレーションも、とても面白かったです。アディダスの伝統的なロゴ『トレフォイル(三つ葉)』を自由に使わせてもらい、金魚や毒グモなどのモチーフを組み合わせて、作品やアイテムをたくさん作りました」

赤塚不二夫の漫画作品とのコラボレーションによる、グラビア輪転印刷機を用いたプリントアートシリーズ「Tanaami!! Akatsuka!!」より。『ドカーン』2022年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
赤塚不二夫の漫画作品とのコラボレーションによる、グラビア輪転印刷機を用いたプリントアートシリーズ「Tanaami!! Akatsuka!!」より。『ドカーン』2022年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

記憶や夢日記のモチーフが詰め込まれた温室のインスタレーション。『記憶の修築』展示風景:「田名網敬一 記憶の修築」NANZUKA、東京、2020年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
記憶や夢日記のモチーフが詰め込まれた温室のインスタレーション。『記憶の修築』展示風景:「田名網敬一 記憶の修築」NANZUKA、東京、2020年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

──意外にも、今回が初の大規模な回顧展。膨大な活動を振り返るにあたり、楽しみな点は何ですか。

「自分ですら、過去の作品をまとめて一挙に見る機会はなかったので、全体としてどういうふうに見えるのかという興味はあります。ただ、僕の創作活動は多様な要素が詰め込まれた雑誌のように、絵画から立体、コラージュ、ドローイング、映像など極めて多様です。それらを通して、共通する何かを見出したり、理解したりすることは難しいかもしれません」

展覧会に合わせて特別デザインによる人形も発売される、「バービー」とのコラボレーション作品。2024年 ©2024 Mattel ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
展覧会に合わせて特別デザインによる人形も発売される、「バービー」とのコラボレーション作品。2024年 ©2024 Mattel ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

──自分の記憶や経験を、なかば無意識にコラージュし続けてきたわけですね。一方で、展覧会と並行してグッズや作品集なども数多く手がけています。

「それはもうたくさん。帽子やTシャツなどに加えて、バービー人形ともコラボレーションしました。とてもよい出来なので、ぜひ楽しみにしていてください。また、展覧会の公式図録も含めて、合計8冊の作品集を同時期に出版します。例えば、アートブックで有名なニューヨークの出版社リッツォーリの作品集には、世界的なキュレーター、ハンス=ウルリッヒ・オブリストが論評を寄せてくれました。日本のアーティストブック出版レーベル《?》(シンボル)からも大判の豪華本が出ますし、ギャラリーNANZUKAからもコロナ禍で一人、何百枚も描き続けたパブロ・ピカソ作品の模写シリーズを収録した本を刊行します」

コロナ禍に描き続けたピカソ作品模写シリーズからの一枚。「ピカソ母子像の悦楽」2020/2021年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
コロナ禍に描き続けたピカソ作品模写シリーズからの一枚。「ピカソ母子像の悦楽」2020/2021年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

──60年代から展示だけでなく、作品としてアートブックを打ち出してきました。メディアを駆使した展開は、デザインとアートを超える表現思想の賜物ですね。

「それもありますし、さまざまな要素を編集して本を作ることが好きなんです。今回もどんな本になるのか、完成を楽しみにしているところです」

「田名網敬一 記憶の冒険」
今年で88歳、アート界だけでなく世界的セレブリティからも注目を集める巨匠。1960年代の作品から、夢日記、映像作品、新作インスタレーションまでを総覧する。また、Mary QuantadidasJUNYA WATANABEGround Yなどのファッションブランド、GENERATIONS from EXILE TRIBE、八代亜紀、RADWIMPSほか、分野を超えたコラボレーションも紹介し、初の大規模回顧展に挑む。

会期/8月7日(水)〜11月11日(月)
会場/国立新美術館
住所/東京都港区六本木7-22-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/
※最新情報はサイトを参照のこと。

Edit & Text : Keita Fukasawa

Profile

田名網敬一Keiichi Tanaami 1936年、東京都生まれ。アートディレクター、実験映像およびアニメーション作家、アーティストなど、ジャンルを横断した創作活動を展開。近年の主要な展覧会に、「パラヴェンティ:田名網敬一」(プラダ青山店、東京/2023年)、「マンハッタン・ユニヴァース」(ヴィーナス・オーヴァー・マンハッタン、ニューヨーク/2022年)などがある。 https://keiichitanaami.com/
(ポートレイト)「パラヴェンティ:田名網敬一」プラダ青山店、東京、2023年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

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