魅力を放つ動物たち。色とりどりの植物。アートが見つめる自然の息吹 | Numero TOKYO
Art / Feature

アートが見つめる自然の息吹

魅力を放つ動物たち。色とりどりの植物。地球上に広がる大自然の息吹——。太古の昔から人はその様子に魅せられ、描き、象り(かたどり)、創造の糧(かて)となしてきた。アーティストそれぞれの作品から、生命(いのち)と響き合う表現の豊かな地平が立ち上がる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年4月号掲載)

Artist 01|Atsuhiko Misawa

『Animal 2010-01』

『Animal 2010-01』 2010/2022年  Photo: 岡野圭 © Atsuhiko Misawa  Courtesy of Nishimura Gallery
『Animal 2010-01』 2010/2022年 Photo: 岡野圭 © Atsuhiko Misawa Courtesy of Nishimura Gallery

“動物をつくる彫刻家”といえば、真っ先に三沢厚彦を思い浮かべる人も多いだろう。代表作「ANIMALS」シリーズは、クスノキの丸太を彫り、クマやライオン、サイなどをほぼ等身大、あるいはそれ以上の大きさで作り出した作品だ。ノミの跡がはっきりと残る、生き生きとした毛並み。実在の動物でありながらどこか二次元的な、独特の色使い。動物そのもののリアリティと迫力を感じさせる一方で、思わずクスッとしてしまうあどけない表情も魅力的だ。動物を見ると、時には愛らしく、また時には畏怖の念を抱くものとして、それぞれに異なる印象を私たちは抱く。これら三沢の作品は、人間が動物に向ける複数のまなざしをも含んでいるかのようである。

三沢厚彦
1961年、京都府生まれ。寺社や仏像に親しみながら育った出自の影響から、東京藝術大学にて彫刻を学ぶ。2000年より、動物の姿を等身大で彫像した木彫作品「ANIMALS」シリーズを制作。実在する動物のみならず、空想上の生き物である麒麟(キリン)やキメラなど複数の動物のイメージを組み合わせる表現へと発展している。近年の個展に「ANIMALS / Multi-dimensions」(千葉市美術館/2023年)、「ANIMALS in ISHIGAMI no OKA」(石神の丘美術館、岩手/2023年)などがある。

http://www.nishimura-gallery.com/atsuhiko-misawa/

Artist 02|Takahito Kimura

『森ラジオ ステーション×森遊会』

『森ラジオ ステーション×森遊会』
『森ラジオ ステーション×森遊会』

千葉県市原市を走る小湊鉄道の月崎駅。自然豊かな場所に立ち、古き良き時代を感じさせるこの駅には、一風変わった詰め所小屋がある。建物は約60種以上の山野草とコケで覆われ、多種多様な動植物が息づく。中には森のライブ音が聴こえるラジオ、天窓から伸びる光の柱や虹、室内にいながら風の方角を知らせる風見鶏など。人と自然をつなぐこの小屋は「地球と遊ぶ」をテーマに体験型の作品を作る木村崇人の『森ラジオ ステーション』。同市で開催された「いちはらアート×ミックス 2014」で設置されて以来、有志団体「森遊会」によって維持管理されてきた。森の声にチューニングを合わせ、そっと耳を寄せると、自然の息遣いが浮かび上がる。

木村崇人
1971年、愛知県生まれ。現在は山梨県を拠点に活動中。「地球と遊ぶ」をテーマに、光や音などさまざまな自然現象を通じ、普段気づかなかったり、日々の生活の中で忘れてしまったりする地球の力を視覚化する作品を発表する。老若男女を問わず、誰もが実際に体で感じることのできる“遊ぶ”体験型作品を中心に展開し、ワークショップやパフォーマンスも多く行っている。この春、本作品を通じて「百年後芸術祭 〜環境と欲望〜 内房総アートフェス」のアート作品展示に参加する。

http://www.takahitokimura.com/

Artist 03|Joar Nango

『GIRJEGUMPI: The Sámi Architecture Library in Jokkmokk』

Joar Nango『GIRJEGUMPI: The Sámi Architecture Library in Jokkmokk』2018年 Photo: Astrid Fadnes
Joar Nango『GIRJEGUMPI: The Sámi Architecture Library in Jokkmokk』2018年 Photo: Astrid Fadnes

北極圏をトナカイとともに遊牧する「サーミ族」の血筋を引くヨアル・ナンゴ。建築、デザイン、ヴィジュアルアートの境界を探り、サイトスペシフィックなインスタレーションを手がけるアーティストだ。これまでにサーミ族の建築やデザイン、アクティビズム、脱植民地主義などのトピックを含む500冊以上の資料を集めた『GIRJEGUMPI(ギリェグンピ)』と題するアーカイブなど、先住民のアイデンティティに関連する作品を発表してきた。資源の循環への意識から、現地の素材を取り入れながら仮設の構築物を制作。それは、気候変動や資源不足の問題に直面する現代社会に向けて、先住民の知恵にならった人と自然の共生のあり方を示す実践であるという。

ヨアル・ナンゴ
1979年、ノルウェー・アルタ生まれ。北欧とロシア北部を移動するトナカイ遊牧民「サーミ族」の血筋を引き、サーミ文化の中心地であるロムサ/トロムソを拠点に活動する。共同制作のプロジェクトに多く参加し「ドクメンタ14」(ドイツ・カッセル/2017年)や「シカゴ建築ビエンナーレ2019」など国際展にて作品を発表。この春には「第8回横浜トリエンナーレ」に参加、日本初出展を果たす。横浜美術館のファサードに展示される、サーミ族の言葉を用いた作品にも注目したい。

Instagram: @joarnango

Artist 04|Manabu Ikeda

『マレーグマ』『カワセミ』

『マレーグマ』2010年 Photo: 宮島径 佐賀県多久市所蔵 (公財)東京動物園協会『どうぶつと動物園』掲載 ©IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery
『マレーグマ』2010年 Photo: 宮島径 佐賀県多久市所蔵 (公財)東京動物園協会『どうぶつと動物園』掲載 ©IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery

『カワセミ』2011年 Photo: 宮島径 佐賀県多久市所蔵 (公財)東京動物園協会『どうぶつと動物園』掲載 ©IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery
『カワセミ』2011年 Photo: 宮島径 佐賀県多久市所蔵 (公財)東京動物園協会『どうぶつと動物園』掲載 ©IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery

紙にペン、カラーインクと、一見なんでもない素材を用いながら、驚くほどの緻密さと豊かな創造力で描き出す池田学。1ミリにも満たないペン先で、一日に描けるのはわずか10センチ四方という途方もない作業の末に生まれる作品は、常に強い印象を与えてきた。さまざまな世界が交差するダイナミックなスケールの絵画を描く一方、真正面から動植物に向き合う作品も長年手がける。本作品は、東京動物園協会発行の季刊誌『どうぶつと動物園』にて2005年より続けているシリーズの一つ。細部や生態まで深く観察し、丁寧に特徴を描きこむ作業は、池田にとってライフワークでもあるという。見るほどに、動物たちの体温や息づかいが伝わってくるようだ。

池田学
1973年、佐賀県生まれ。アメリカ在住。紙に丸ペンを使用した独自の技法を確立し、圧倒的に精密な作風で国際的に評価を得る。特に東日本大震災への思いを込めた大作『誕生』は、日本全国で巡回展示され大きな話題を呼んだ。作品集『The Pen』と『The birth of Rebirth 《誕生》が誕生するまで』の2冊を合本した決定版画集が今年1月に青幻舎より刊行。現在、アメリカ・オハイオ州のクリーブランド現代美術館にて、同国の美術館では初となる個展を5月26日まで開催中。(Photo: Munemasa Takahashi)

https://mizuma-art.co.jp/artists/ikeda_manabu/

Artist 05|Yuki Hasegawa

『Spectrum of Species』

『Spectrum of Species』2022年 © Hasegawa Yuki
『Spectrum of Species』2022年 © Hasegawa Yuki

「人と自然の関係性」を念頭に、一貫して植物を描き続ける長谷川由貴。人々の心を癒やす存在でありながら、日常の背景として見過ごされてきた植物の持つ旺盛な生命力を描き、異様なまでに力強い存在感を持った“生命体”として見る者に提示する。特徴的なのは、人々の営みから生まれる人工性と自然という、両極端に見られがちなモチーフの組み合わせ。本作『Spectrum of Species』は、根を他の樹木などに絡ませながら成長する、極彩色がまぶしい東南アジアの蘭「バンダ」と、人工的なネオンカラーで描かれた文字が、個々に判別しづらいほど複雑に絡み合う。そこに描かれるのは、簡単に切り離すことができない植物と人間との“間(はざま)”の様相だ。

長谷川由貴
1989年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院修士課程を修了し、2014年より京都の共同スタジオpuntoを拠点に制作を行う。「現代のさまざまな問題にまで通ずる、人類の傾向や特徴を思考する源にもなり得る」という観点から、人類と植物の歴史を振り返りつつ多種多様な植物を描き出し、注目を集めている。近年の個展に「あなたの名前を教えてほしい」(ギャラリーモーニング、京都/2020年)、グループ展に「Art in Office SESSEN」(DMOARTS、大阪/2023年)などがある。

https://hasegawa-yuki.com/

Text : Akane Naniwa Edit : Keita Fukasawa

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