松尾貴史が選ぶ今月の映画『ゴールド・ボーイ』
義父母を崖から突き落とす男(岡田将生)の姿を偶然にもカメラでとらえた少年たちは、男を脅迫して大金を得ようと画策する。殺人犯と少年たちの二転三転する駆け引きの末に待ち受ける結末とは......。 映画『ゴールド・ボーイ』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年4月号掲載)
息もつかせない展開が続く
いまだに、思春期になるかならないかくらいの過去の自分を思い出し、密かに赤面している私です。あの頃は一体何だったのでしょうか。愚かな思いつき、理由のわからない衝動、してもしきれない後悔など、いろいろあり過ぎて狼狽(うろた)えます。
金子修介監督の新作『ゴールド・ボーイ』は、そんな甘酸っぱくも格好の悪いあの頃を思い起こさせます。そして、大人が微笑ましく見てくれている少年少女に対する視点や想像を遥かに超えていたことも思い出します。ところが、自分が大人になったとき、そんなことをすっかり忘れて微笑ましく子どもたちを見守るようになるのです。
殺人犯と少年たちの攻防が軸となったこの作品のもとは、動画サイト「iQIYI(アイチーイー)」でドラマ化されて、総再生回数20億回(iQIYI JAPAN調べ) を突破したという大ヒット作で、舞台を沖縄に移して映画化されました。
とにかく、この作品は油断がならないものです。次から次へ意外な展開が襲い続け、息もつかせません。最後まで不意と意表を突かれます。
岡田将生さん扮する主人公、東昇の何を考えているのかわからない冷徹でミステリアスなキャラクターには驚かされっぱなしでした。また、安室朝陽を演じる羽村仁成さんの、利発で素直な少年かと思いきや、さまざまな面を持つ人物造形も見ものという しかありません。
彼女が大学一年生のときから映像演技の講義を受け持っていた私としては自慢の教え子・黒木華さんが安室朝陽のお母さん役という、「大人になられたものだなあ」という、ある種の感慨を持って拝見しました。リアルな演技と個性的で多様な表現に毎度舌を巻きますが、今回も素晴らしいものを見せてくれています。
そして、江口洋介さん演じる刑事です。一見不器用そうで無骨な役柄は、彼以外に考えられない塩梅の正義漢で、さすがと言うべきところです。
子役、と呼ぶにはしっかりしていますが、3人のキャラクター設定やバランスがすこぶるいい。ミステリの要素も多分にあって目が離せませんし、青春物語のような青くざわざわした要素も盛り込まれていて、見どころが満載です。
『ゴールド・ボーイ』というタイトルは、紫金陳(ズー・ ジンチェン)による原作の小説『坏小孩(悪童たち)』ともニュアンスが違いますし、映画の冒頭に大きく出てくる「黄金少年」という四文字の印象も謎を残したままです。まさか金子修介監督の苗字「金・子」を英訳した、 というわけではないと思うのですが……。
ともあれ、彼の作品の中でも異色の作風となりました。そして大変な名作の登場、ぜひ映画館へ足を運んでご覧になることをお勧めします。
Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito