【インタビュー】大竹彩子が旅で“蒐集”するもの「看板や落ちているゴミも見逃せません」
2016年にロンドンのセント・マーチンズを卒業後、東京を拠点として18年の「KINMEGINME」 (gallery ART UNLIMITED)を皮切りに、20年の「GALAGALA」(PARCO MUSEUM)など毎年個展を行う他、森山大道やテイ・トウワら名だたるクリエイターのアートワークを手がけるなど、目覚ましい活躍を続ける大竹彩子。サイケデリックな美学とフェミニン・パワー、モダン・ アートがカラフルにぶつかり合う作品はノスタルジックな雰囲気と現代的なレイアウトを併せ持っている。
そんな彼女が現在、ヨーロッパでの初個展「COLOURIDER」をロッテルダムのSato Galleryにて開催している。それに合わせてロンドン、パリ、ロッテルダムなどに滞在予定だ。自身の制作を“蒐集”と語る彼女はその旅で何を“蒐集”するのか。アーティストとしての原点と現在地を探る。
──ヨーロッパでの初個展おめでとうございます。
「ありがとうございます。2019年に仕事でパリを訪れた時にSato Galleryのオーナーであるジュリアンと知り合ってからコロナ禍を経て実現できました。外国で展示するという夢が一つ叶いました。事前に会場へ足を運んで作品を作ったわけではありませんでしたが、作品を並べてみて色のバランスもうまくいったかなと思います。ひとまずオープンできてほっとしていますし、日本以外での個展一回目としては満足しています。開催は3/3までなので今後のフィードバックが不安でもあり、楽しみでもあります」
──個展のタイトル「COLOURIDER」とあるように大竹さんの作品は豊かな色彩が特徴の一つですね。
「子どもの頃にサイケデリックアートに出会ったのは大きかったかもしれません。60年代頃のポスター、蛍光色を使った独特の配色やタイポグラフィー、色のインパクトに惹かれました。また、横尾忠則さんのグラフィックにも興味がありました。そこから色の持つ力というのをすごく感じています。単体の色というより、組み合わせた時に持つ力に惹かれています。組み合わせや見せ方は無限にあるので、都度その魅力を出せたらと思っています。制作はいつも展示空間を見てサイズと点数を決めて、それからスケッチブックに描いて構図を決め、数枚同時進行でキャンバス上で色のバランスを見ながら行います。そこでの色の決定や組み合わせは一番頭を使う作業です」
──ヨーロッパで作品を発表することで意識されたことはありますか?
「これまでは原色が好きでしたが、最近は柔らかいパステル調の色や黒を濃い茶色にするなど色の幅を広げています。外国の人は色の感覚や見方、考え方は違うと思うので、どういう風に見ていただけるのか興味深いです」
──女性のモチーフが多いのは、なぜでしょう。
「自分が女性というのもあると思いますが、女性の持つ力強さや優しい部分などに惹かれていて、 自分で描きながらパワーをもらったり、見守られているような感覚があるからです」
──特定のモデルはいるんですか?
「ヴィンテージの雑誌やピンナップ写真など、女性のフォルムがわかるものを集めています。今はあまり買いませんが、ファッション誌などを見て、モデルのフォルムやポージングの力強さに惹かれて参考にしていました。女性を描いていたのは小さい頃から身近でもあったからです」
──今回の展示では新作のアクリルペインティングの他に、2枚の写真を組み合わせた作品も展示されています。2つの写真は一見全く関連がないようにも思えますが、組み合わせることにより新たなイメージが浮かび上がっています。この作品はどうやって生まれたのでしょうか?
「ロンドンにいたときにテート・モダンで開催していた森山大道さんの展示のワークショップに参加したんです。壁にモノクロの写真が貼ってあって番号を選んで自分でレイアウトするというもの。 そのワークショップがとても刺激的で、自分が撮ったものをまとめてみようと思い、一見関係のない写真を隣同士に合わせることが面白かった。それがきっかけです」
──そうしたきっかけが本のシリーズに繋がっていくんですか?
「そうですね、余白なしのイメージだけの本が作りたかったので、見開きの2枚一組の写真を 本にしたものをセント・マーチンズの卒業制作の一つとして作って、その本のシリーズは今も継続しています。2枚の全く別の写真を組み合わせることで、時間や場所、色の境界線を曖昧にするという感覚を持たせた作品群です。今回の展示では海外と日本というテーマで左が外国、右が日本で撮った写真を組み合わせました」
──2枚の写真を組み合わせた作品について、もう少し聞かせてください。具体的にどういう作業なのですか?
「まず常にカメラを持ち歩いて面白いと思ったものを切り取っていきます。例えばポスターの一部や剥がれた壁など日常の風景からフォーカスした物を撮りためています。写真はもともと作品にするために撮ったものではなく、インスピレーションに使えるものとして集めている感じです。見せようと思って撮ったものではありません。そうして撮った膨大な量の写真を見返して作品として成り立つものをピックアップして厳選しています。色の組み合わせと一緒で、組み合わせ方が無限にあるので大変な作業です」
──ペインティングや写真、コラージュなど表現の幅広いのはお父様の大竹伸朗さんを彷彿とさせます。どんな影響を受けたのでしょう。
「幼い頃から一緒にカルタを作ったり、段ボールで家を作ったり、模型を作ったり、油絵を描いたりしていて、そういう経験から作ることに興味を持っていったんだと思います。アートだけでなく、人物や音楽、本など父が面白いと思った物を教えてくれるので、いろんなことに興味を持てたのは父の影響が大きいと思います」
──今回の展覧会をきっかけにロッテルダム、ロンドン、パリなどを回られるそうですが、旅先ではどういう場所や物からインスピレーションを受けますか?
「美術館やギャラリーを回るのは好きですし、博物館も必ず訪れたいと思っています。ショーウィンドウに並ぶマネキンを撮ったり、昔からあるような文房具屋さんやショップ、色々なものが置いてあるマーケットとか。看板や落ちているゴミも見逃せません。そうしたものにも外国には日本にはない独特の色彩がありますから。またトイレの中にも惹かれることがあります。海外で毒々しい色の石鹸があって、カメラを持っておらずわざわざ取りに戻ったこともあります(笑)」
──トイレの中は国によって個性がありますよね(笑)。今回の旅はどんな風に過ごされるいるのですか?
「まずロンドンに(ロナルド・ブルックス・)キタイの展示を見るために入り、ロッテルダムで個展のオープニングを迎えた後は、友人を訪ねてデンハーグへ行きました。昨年、仕事させてもらった 幾何学模様のメンバーの1人に会いにアムステルダムにも寄りました。久々の長期のヨーロッパ旅でもあり、緊張していましたが、今回妹も一緒なのでとても心強いです」
──その後は?
「美術館はまだゴッホ美術館と自然史博物館くらいしか行けてないので後半は美術館やギャラリー巡りをしたいです。パリのポンピドゥ・センターでのジル・アイヨーの展示、アウトサイダー・アートに特化したアル・サン・ピエール美術館と、今回はパリから足を伸ばして、オートリーヴにあるシュヴァルの理想宮にも行きます。(フェルディナン・)シュヴァルという郵便配達員だった人が作り上げたお城で、これもアウトサイダー・アートの分類されています。芸術作品を作るためではなく使命感で建てたもの。小さい頃に読んだシュヴァルについての本も面白くて印象に残っているので念願です。またアート関連ではありませんが、オランダのライデンにある日本博物館シーボルトハウスも訪れてみたいです。作家の吉村昭さんが書いた本が面白くてシーボルトや彼の周りの人たちに興味を持っています」
──大竹さんの興味関心の幅が広く、それぞれの知識が深いことに驚かされます。
「本を読むことが好きですし、いろんなことに興味を持ち続けていたいと思っています。今回の旅でゴッホやピカソ、マティスなど、本物の絵を間近で見られるのはとても楽しみですが、有名なものだけでなく、そこの境界線を超えて自分の好奇心のままに見たいもの、反応するものには素直でいたいと思っています」
──ヨーロッパでの初個展を実現して何を感じられましたか?
「個展は無事スタートしたので、今は旅に集中して、とにかく写真を撮っていますが、今後は色を使った大きい作品を描きたいです。油絵にも挑戦したいですし、立体物も作りたいと思っています」
SAIKO OTAKE 「COLOURIDER」
会期/2024年1月25日(木)~3月3日(日)
会場/Sato Gallery
住所/Insulindestraat 78, 3038 JB Rotterdam, Netherlands
料金/入場無料
URL/https://www.sato.art/ja/exhibitions/23/overview/
Photos: Yusaku Aoki(Saiko Otake), Leroy Verbeet(others) Interview & Text: Akiko Naito Edit: Chiho Inoue
Profile
https://www.saikootake.com/