ルイ15世と最後の公妾デュ・バリー夫人の“愛に生きる姿”を描いた、マイウェンにインタビュー | Numero TOKYO
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ルイ15世と最後の公妾デュ・バリー夫人の“愛に生きる姿”を描いた、マイウェンにインタビュー

18世紀のフランスで、59年間にわたり国王に在位したルイ15世。絶世の美男でもあった彼は、正妻以外にも多くの公妾(公式の愛人)を迎え入れ、“最愛王”の名を欲しい ままにした。そんな彼の最後の公妾は、類い稀な美貌と知性、自由奔放な性格によって、娼婦の身分から社交界に進出し、国王ルイ15世に見初められ、寵愛を受け、周囲からのバッシングやマリー・アントワネットとの確執にも屈することなくドラマティックな生涯を送ったデュ・バリー伯爵夫人。

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

そのデュ・バリー夫人とルイ15世の物語を本格派のエンタテインメントとして描いた映画『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』は、2023年の第76回カンヌ国際映画祭でオープニングを飾り、フランスでは観客75万人動員という大ヒットを記録。ジョニー・デップがルイ15世を演じたことでも注目を浴びた本作は、シャネルが大々的に衣装協力をしたり、ヴェルサイユ宮殿での大規模ロケを実施するなど絢爛豪華なビジュアルも見どころだ。日本での公開にあたり、監督・脚本・主演のマイウェンにインタビューを試みた。

監督・主演のマイウェンにインタビュー
「シャネルと一緒にデザインができたのは素晴らしい経験でした」

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
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──これまで悪役として描かれることが多かったジャンヌ・デュ・バリーですが、本作では知的でユーモラスで正直で愛すべき女性として描かれています。彼女のキャラクター像は、どうやって立ち上げていったのでしょうか。

「2006年に、ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』を観たのをきっかけに、ジャンヌのキャラクターに魅了されました。以降、彼女の伝記やさまざまな文献を何年もかけて読むことになりました。蒸らしてお茶を出すように、だんだんと頭の中で、ジャンヌというキャラクターが熟成されていくようでした。そして、10年経って、実際、彼女の物語を脚本として書くことになり、反対にいろんな側面を知ってしまっていたので、どこから彼女を捉えるかは難しかったけれど、自分が気に入った要素を取り入れていくことにしました」

──時代や場所によって人物の語られ方や捉えられ方は変わるものですが、今の視点でジャンヌの物語を語り直すことに意味があると思ったのでしょうか?

「私がジャンヌと彼女が生きた時代というテーマにとても興味を持って、それを映画にしたらみんなも関心を抱いてくれるかなと思っただけです。そもそも、私はこの時代にこの物語を語る意味とか、世の中のニーズとかはあまり考えないタイプなんですよね。直感に従ったまでです」

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

──自由奔放なジャンヌという役柄を演じながら、監督として現場を率いるというのは、全く相反する頭を使う大変な作業だったのではないですか?

「他の俳優さんにジャンヌの役を託せば、確かに監督としては自由になるし、全体を見渡せます。同時に、自分もジャンヌの役を絶対やりたいという強い思いがあったので、ジレンマでした。でも、演じられない方が苦しいだろうと考え、自分でやることにしました。大変だろうとは予測していましたが、撮影中はまるで分裂症のような状態でハードでしたね。求めるレベルも高かったので、そこへ辿り着くために、自分自身に対してすごく厳しく当たりました」

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

──この映画はメゾンが特別にデザインした6つのコスチュームとハイジュエリーの貸し出しを中心に、シャネルの大々的な協力を得ていますね。

「シャネルとはキャンペーンなどでコラボレーションした経験もありましたし、昔から親交があったので、故カール・ラガーフェルドが18世紀の大ファンであることも知っていました。シャネルは、ジャンヌが住んでいた宮廷のコレクションも持っていましたし、実は、ジャンヌとガブリエル・シャネルは同じ日、8月19日に生まれているんです。全くの偶然なのですが」

──個性的で大胆なジャンヌの衣装は、どんなふうにアイデアを出し合って生み出されたのか気になります。

「まず、気に入ったアイテムやインスピレーションを受けたものの写真をノートにして、シャネルに持って行きました。そうしたら、昔のシャネルのコレクションをたくさん見せてもらったんですね。そこで、衣装デザイナーのユルゲン・ドーリングと一緒に、シャネルのコレクションに、少し手を加えてモダンにする方向で再考していきました。シャネルと一緒にデザインができたのは素晴らしい経験でしたし、人生も捨てたものじゃないなと思いましたね(笑)」

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

──アメリカ人であるジョニー・デップが、フランス国王ルイ15世の役を全編フランス語で挑んでいるのも本作の見どころですね。アメリカのプロダクションで活躍してきた彼を、フランスの現場に招いたことで、文化の違いは見えてきました?

「確かに、文化の衝突のようなことはあったんですよね。それは、本人との間でも、彼の周りの人々との間でも起きました。アメリカのプロダクションでは、撮影上でのボスはスターであり、最終的に映画の方向性を決める場合もあるようですが、フランスのプロダクションでは、基本的に監督がボスなので、現場のパワーバランスも異なってくるわけです」

──具体的に、どのような意見の交流があったのでしょう?

「彼は歴史や人物像を熱心に勉強して来てくれていたので、例えば、史実とは異なるからあのシーンはやめた方がいいとか、このセリフはこうした方がいいという意見をもらう場面もあったんです。でも、その都度、『私は歴史のドキュメンタリーを作りたいのではなくて、私が感じているもの、自分の視点を表現したいんです』と説明しました。映画は、私が語りたいことを語るための一つの手段に過ぎないので。なので、ジョニーは、私にとって、とても優しい天使のような日もあれば、時には困った天使になるときもありました」

©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions
©︎Stéphanie Branchu - Why Not Productions

『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』

©︎Laurent Dailland
©︎Laurent Dailland

貧しい私生児として生まれたジャンヌ(マイウェン)は、類まれな美貌と知性で貴族の男たちを虜にし、社交界の階段を駆け上がる。ついにヴェルサイユ宮殿に足を踏み入れた彼女は、国王ルイ15世(ジョニー・デップ)と瞬く間に恋に落ちる。しかし、労働階級の庶民が国王の愛人となるのはタブーであり、堅苦しいマナーやルールを平然と無視するジャンヌは、宮廷の保守的な貴族たちから反感を買ってしまう。

監督/マイウェン
脚本/マイウェン、テディ・ルシ=モデステ、ニコラ・リヴェッチ
出演/マイウェン、ジョニー・デップ、バンジャマン・ラヴェルネ、ピエール・リシャール、メルヴィル・プポー、パスカル・グレゴリー
©2023-WHY NOT PRODUCTIONS-FRANCE 2 CINEMA- FRANCE 3 CINEMA-LA PETITE REINE-IMPALA PRODUCTIONS ©LaurentDailland ©StéphanieBranchu-WhyNotProductions
longride.jp/jeannedubarry/
2024年2月2日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開

Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Chiho Inoue

Profile

マイウェンMaïwenn   1976年フランス出身。俳優、映画監督、脚本家。子役から活躍し、『殺意の夏』 (1983) でイザベル・アジャーニが演じた主役の子ども時代を演じた。その他の出演作に『フィフス・エレメント』(1997)、『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』(2011)、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015)など。監督としては、『PARDONNEZ-MOI(原題)』』(2006)で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した2011年の『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』では、出演・監督・脚本を務めた。その他に『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015)がある。第76回カンヌ国際映画祭のオープニングを飾った本作が7本目の監督作となる。

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