ソムリエ店長がそっと教える「スパークリングワイン」のちょっとマニアックな基本
みなさんこんにちは! ワインブロガーのヒマワインです。
突然ですがみなさんはスパークリングワインはお好きですか? 私は大好き。華やかな泡立ちのスパークリングワインは乾杯に最適ですし、料理と合わせるとより楽しめます。
スパークリングワインといえばシャンパンが有名ですよね。でも実は世界にはシャンパン以外にも、シャンパンとは違う味わいだったり、ナチュラルだったり、お手頃だったりするおいしいスパークリングワインがたっくさんあります!
そこで、知っておくとレストランやスーパーでワインを選ぶ際に自分の好みのものが選べるようになる「スパークリングワインのちょっとマニアックな基本」を、恵比寿の人気ショップ・ワインマーケット・パーティ店長でソムリエの沼田英之さんに聞いてきましたよ〜。
それでは、以下私と沼田店長の対談形式でお届けします!
【目次】
1. スパークリングワイン「3つの製法」とは?
2. 【シャンパン】オーロール・カサノヴァ ピュイジー ピノ・ノワールNV
3. 【クレマン】ドメーヌ・ボット・ゲイル クレマン・ダルザス・キュヴェ・ポール・エドゥアール
4. 【ビュジェ・セルドン】アラン・ルナンダ・ファッシュ ビュジェ・セルドン・メトード・アンセストラル・セック
5. 【ペットナット】フォリアス・デ・バコ ウィヴォ ペット・ナット ロゼ2021
6. 【フランチャコルタ】カ・デル・ボスコ フランチャコルタ・キュヴェ・プレステージ
7. 【プロセッコ】アンナ・スピナート プロセッコ・ブリュット・ミレジマート
8. 【カバ】ボッチョリス ブリュット・ナトゥーレNV
9. 【ゼクト】フリードリッヒ・ベッカー キュヴェ・サロメ ゼクト ブリュット
10. シャンパンだけじゃない! 世界のスパークリングワインを試してみよう
スパークリングワイン「3つの製法」とは?
ヒマワイン(以下、ヒマ)「さて今回はスパークリングワインがテーマです」
沼田店長(以下、店長)「はい。スパークリングワインといえば代表的なのはフランス・シャンパーニュ地方で造られる『シャンパン』ですよね。それ以外にも世界中でおいしいスパークリングが造られているので、それらをざっくりご紹介していきましょうか」
ヒマ「ぜひお願いします!」
店長「まず、スパークリングワインには大きく3つの造り方があることは知っておいて損がありません。まずひとつ目は、瓶にワインを詰めたら酵母と糖を加え、瓶内でもう一度発酵させるやり方。シャンパンやスペインのカバ、イタリアのフランチャコルタなどがこのやり方です」
ヒマ「『瓶内二次発酵』と呼ばれるやつですね」
店長「瓶ではなくて、巨大なタンクにワインを入れてそこに酵母と糖を入れて発酵させてから瓶詰めする方式もあります。これの代表がイタリア産の気軽に飲める“プロセッコ”ですが、これはどちらかというとより軽快でフレッシュな味わいになるのが特徴です」
ヒマ「プロセッコ、おいしいですよね〜」
店長「最後が、瓶のなかにいきなり発酵途中のブドウ果汁を入れて、そのまま瓶のなかでアルコール発酵させるパターン。『田舎方式』なんて呼ばれます。『ペットナット』って呼ばれるワインがこの製法です」
ヒマ「コルク栓じゃなくて瓶ビールみたいに王冠でフタがしてあるやつですね」
店長「この3つの造り方を知っておくと、大体の味わいの想像がつくようになります。ヒマさんもなんとなくイメージできませんか?」
ヒマ「シャンパン方式は複雑さと華やかさ、シャルマ方式は軽やかさと果実味、田舎方式はナチュラルな魅力といった感じでしょうか……?」
店長「そんな感じですよね。それを踏まえて、まずは瓶内二次発酵の代表選手から紹介しましょう。言うまでもなくシャンパンですね」
ヒマ「スパークリングワインの王様といえばやっぱりシャンパン。ちなみに、シャンパンではなく『シャンパーニュ』と呼ぶとちょっと通っぽく聞こえます(笑)」
店長「やっぱりお祝い事だったり記念日だったり、プレゼントにもシャンパンは最適ですよね。そしてもちろん味わいも素晴らしい」
ヒマ「今回選んでもらったのはどのようなシャンパンですか?」
【シャンパン】オーロール・カサノヴァ ピュイジー ピノ・ノワールNV
店長「オーロール・カサノヴァという女性の造り手さんのシャンパーニュ。彼女はもともとプロのバレリーナだったっていう異色の経歴の持ち主なんです」
ヒマ「おっ、それは素敵だ」
店長「実家がシャンパン用ブドウの栽培家だったそうなんです。その実家があるのはピュイジューっていうすごくマイナーな村なんですが、シャンパンで“グランクリュ(特級)”に定められた村のひとつなんです。そこで2016年からシャンパーニュを造りはじめたらしいんですが、ここ1、2年飲んだ新しい造り手さんのなかで僕が一番好きなのがこれ」
ヒマ「シャンパンはモエ・エ・シャンドンとかヴーヴ・クリコみたいな有名どころもおいしいですが、こういう小規模な生産者が、個性的で素晴らしいのを造っていたりするんですよね」
店長「それを探すのが楽しみのひとつですよね。このワインは飲んでもおいしいし、たとえばバレエをやってるお友だちにプレゼント、なんて場合には最強です」
ヒマ「なかなかない状況かもだけど、ハマる場面では徹底的にハマりますね、それは(笑)」
【クレマン】ドメーヌ・ボット・ゲイル クレマン・ダルザス・キュヴェ・ポール・エドゥアール
店長「シャンパンはおいしいのですが、最近値上がりもしてきているし、そもそもちょっぴり高い。そこで、もっと安い金額でシャンパンのような味わいが欲しいというときにオススメなのが『クレマン』です」
ヒマ「シャンパンと同じ瓶内二次発酵で造るフランスのスパークリングワインのことですね。ブルゴーニュ、アルザス、ロワール、ボルドー……とさまざまな地域で造られてるやつ」
店長「はい、これはアルザス地方で造られる『クレマン・ダルザス』です。もう10年以上前に現地で『フランスの人って懐が寂しくてシャンパンが買えないってとき、なにを飲むの?』と聞いて回ったら、多くの人が『クレマン・ダルザス』って答えたんですよ」
ヒマ「へえ〜っ、面白い!」
店長「シャンパンに比べたら半額くらいで買えて、アルザスはシャンパーニュ地方と同じく北のほうの産地なので、酸味がしっかりあっておいしい。だから選ばれてるみたいです」
ヒマ「この、『ドメーヌ・ボット・ゲイル クレマン・ダルザス・キュヴェ・ポール・エドゥアール』はどんなワインですか?」
店長「シャルドネという、シャンパンで主に使われるのと同じ白ブドウも使用しているんです。そして、実はシャルドネという品種はアルザスではスパークリングワインにしか使えないんです。この意味がわかりますか?」
ヒマ「はい、さっぱりわかりません(笑)」
店長「通常のワインを造るついでやオマケではなく、クレマンを造るためだけにブドウを育てている、つまり『専門メーカー』的な造り手さんだということですね。それだけにとってもおいしい」
ヒマ「ちなみにクレマンは『クリーム』の意。クリームみたいなやわらかい泡がクレマンの魅力だったりします!」
【ビュジェ・セルドン】アラン・ルナンダ・ファッシュ ビュジェ・セルドン・メトード・アンセストラル・セック
店長「フランスからもう1種類紹介させてください。アラン・ルナンダ・ファッシュの『ビュジェ・セルドン・メトード・アンセストラル・セック』です」
ヒマ「ビュジェ・セルドン……? 耳馴染みがありませんが、これはどんなワインでしょう?」
店長「シャンパーニュやクレマンは瓶内二次発酵でしたが、これは『田舎方式』。その発祥の地のひとつも言えるのがフランスのサヴォア地方で、ビュジェ・セルドンはそこの代表的なスパークリングワインなんです」
ヒマ「他の方式と異なり、糖分を加えずに造るぶんだけ自然な味わいが魅力ですよね、田舎方式のワインって」
店長「ですね。このワインもアルコール度数が低くて、8%しかありません。ガメイとプールサールという赤ワイン用品種から造られるので色合いはやさしいピンクのロゼ色。アセロラ、クランベリー、そこにイチゴや巨峰が加わったような香りがします」
ヒマ「めっちゃおいしそう。しかもちょっと甘くてシュワシュワなわけですよね。嫌いな人いないですよそれは」
店長「スライスしたモッツァレラチーズとスライスしたイチゴを交互に挟み、塩とオリーブオイルで仕上げたお皿と最高に相性がいい。年末年始にちびちび飲むにもいいですし、お花見にも最高です」
【ペットナット】フォリアス・デ・バコ ウィヴォ ペット・ナット ロゼ2021
店長「そして、ビジュ・セルトンが『田舎方式』で造る伝統的ワインだとすれば、現代版が『ペットナット』と呼ばれるワインです」
ヒマ「王冠キャップがついていることが多くて、個性的なラベルであることが多くて、製法においては自然派ワインであることが多いイメージです」
店長「だいたいその認識であってます(笑)。パスカル・ポーテルっていうフランスの生産者が最初にペティアン・ナチュレルっていう言葉を使い出したんですが、それがいつしか英語化して、かつ略されてペット・ナットになったんです」
ヒマ「そういう経緯があったとは……」
店長「ナチュレル=ナチュラル。自然派ワインブームとともに世界中で造られるようになったのが、このペット・ナットという種類のワインです」
ヒマ「用意してもらったのはフォリアス・デ・バコっていう生産者の『ウィヴォ ペット・ナット ロゼ2021』」
店長「ポルトガルのワイン。これもロゼなんですが、少しの甘苦さがあるんです。泡はやさしく、みかんやサワーチェリーのような味わい。タイ料理とか、生姜を使った料理と好相性です。自然派のワインなので、自然派ワインかつスパークリングをお求めのお客様に勧められるワインです」
ヒマ「ペットナット≒自然派スパークリング、っていうふうに覚えておくととよさそうですね!」
【フランチャコルタ】カ・デル・ボスコ フランチャコルタ・キュヴェ・プレステージ
店長「伝統的なシャンパンと、現代的なペット・ナットの次は、ふたたびシャンパンと同じ瓶内二次発酵のスパークリングをご紹介しましょう。イタリアのフランチャコルタです」
ヒマ「イタリア北部・ロンバルディア州で造られるスパークリングワインですね」
店長「シャンパンに匹敵するほどクオリティが高いのが特徴で、使う品種もシャンパンとほぼ同じ。味わいにおいてもシャンパンに似ています」
ヒマ「問題は、どういうときにシャンパンではなくフランチャコルタを選ぶべきかという点ですよね」
店長「たとえばイタリア料理を食べるならやっぱりフランチャコルタを合わせたほうが雰囲気が出ます。ワイン好きが集まるワイン会などでも喜ばれますよ。シャンパンはたいてい誰かが持ってきますから(笑)」
ヒマ「この、『カ・デル・ボスコ フランチャコルタ・キュヴェ・プレステージ』はどんなワインですか?」
店長「ラベルに『45』と書いていますが、これは45回目の収穫であることを示しています。それで、唐突ですが我々45歳じゃないですか(笑)」
ヒマ「そうっすね」
店長「なので、このワイン、来年入荷分はラベルに『46』って書いてあるわけなんですよ」
ヒマ「我々とともに年をとっていく…!」
店長「というわけで、これまたピンポイントではありますが、1978年ヴィンテージ、じゃなかった1978年生まれの方へのプレゼントにはまさに最適です」
ヒマ「ピンポイントすぎる気がしますが(笑)、たしかにもらったら最高に嬉しいですね」
店長「フランチャコルタはシャンパンに比べると少しですが安く買えるので、ぜひ一度試してもらいたいスパークリングのひとつです」
【プロセッコ】アンナ・スピナート プロセッコ・ブリュット・ミレジマート
店長「同じイタリアから、今度はプロセッコを紹介させてください」
ヒマ「冒頭で教わったスパークリングワイン3つの製法のうち、タンクで二次発酵を行う『シャルマ方式』で造るスパークリングワインですね」
店長「はい。実は数でいうとシャンパンを抜き、世界でもっとも飲まれているのがこのプロセッコ。グレラというブドウを使うのですが、若いオレンジをギュッと絞ったようなかわいらしい味わいにやさしく炭酸ガスを足したような印象です」
ヒマ「去年イタリアに行ったんですが、食事の前に軽くつまみながらお酒と会話を楽しむ『アペロ』のタイミングでよく飲まれてました」
店長「いい意味での軽さがあるので、休日のランチなんかにも最高ですよね。価格も探せば1000円を切るものもあるくらい、非常に安いのもありがたい。シャルマ方式は瓶内二次発酵に比べて泡が弱いのですが、それが軽く飲むのにはむしろ向いています」
ヒマ「プロセッコは少し甘めのやつもおいしいですよね」
店長「その通りで、用意したアンナ・スピナート『プロセッコ・ブリュット・ミレジマート』のようなブリュット(BRUT=辛口)もおいしいですが、エクストラドライ(EXTRA DRY)と書いてあるほんの少し甘みのあるものも最高です」
【カバ】ボッチョリス ブリュット・ナトゥーレNV
店長最後に瓶内二次発酵のワインをふたつご紹介しておきましょう。ひとつめはスペインの「カバ」です。
ヒマ「コンビニやスーパーでもよく見かけますよね、この『CAVA』の文字」
店長「シャンパンと同じ瓶内二次発酵ながら、シャンパンとは全然異なる品種を使うのが特徴です」
ヒマ「マカベオ、チャレッロ、パレリャーダですね。無理に覚える必要はないですが(笑)」
店長「柑橘類の皮を擦ったような、少し苦味を伴う柑橘のニュアンスを感じる味わい。生ハムとか、白身魚の南蛮漬けみたいな、軽いつまみと合わせたいですね」
ヒマ「ピンチョス的なやつですね」
店長「あとオススメは、ハチミツと合わせること。ハチミツの甘みが苦みを中和してすごく相性がいいんです」
ヒマ「そういえばこの『ボッチョリス ブリュット・ナトゥーレNV』、すごく独特な栓ですね」
店長「そうそう、珍しいので入れてみました。『アグラフ栓』っていうんですが、通常のコルクとは違い、スプーンの柄などを側面に差し込み、奥に回すようにして開けます」
ヒマ「栓にもいろいろあるんですね〜」
【ゼクト】フリードリッヒ・ベッカー キュヴェ・サロメ ゼクト ブリュット
店長「さて、最後はドイツの『ゼクト』。これも瓶内二次発酵です」
ヒマ「フリードリッヒ・ベッカーの『キュヴェ・サロメ ゼクト ブリュット』。スノー・ベッカーと呼ばれる冬仕様のラベルですね」
店長「赤ワイン用の黒ブドウだけで造るスパークリングワインをブラン・ド・ノワール、白ワイン用のブドウだけで造るのをブラン・ド・ブランと言いますが、これはピノ・ノワールという品種を中心に黒ブドウだけを使ったブラン・ド・ノワールです」
ヒマ「果皮や種と一緒に醸すので、コクのあるタイプになりやすいんですよね」
店長「これなんかはクリスマスに飲むのもいいし、クリスマスのプレゼントにもいい。ゼクトも総じて非常に高いので、自信を持って勧められます」
シャンパンだけじゃない! 世界のスパークリングワインを試してみよう
ヒマ「いやー、しかし世界にはいろんなスパークリングワインがあるものですね」
店長「実はほかにもイタリアの『ランブルスコ』や南アフリカの『メソッド・キャップクラシック』など紹介したいワインはあるんです。ただ、今回紹介した3つの製法で造られる7種類のワインを覚えていけば、選ぶときに困らないかなと」
ヒマ「念のため、ランブルスコはプロセッコと同じシャルマ方式で造られることが多い主に赤の微発泡ワイン。メソッド・キャップクラシックはシャンパンと同じ瓶内二次発酵のワインですね。どちらも根強いファンがいます」
店長「日本でもペット・ナットは多く造られていますし、本当に世界中でたくさんのスパークリングワインが造られています」
ヒマ「今回紹介した中から、みなさんの“推し”スパークリングが見つかるといいですね!」
Photos & Text: Hima_Wine
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