アーティストそれぞれの“探究の道” vol.1 奥山由之 | Numero TOKYO
Art / Feature

アーティストそれぞれの“探究の道” vol.1 奥山由之

何かに魅せられ、意味を突き詰め、創意を凝らし、全霊を傾けて表現する。アートとは尽きせぬ問いの繰り返し。なぜやるのか、その先に何があるのか——。アーティストそれぞれの探究心、その飽くなき軌跡を、たどりながら見ていこう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年12月号掲載)

 

奥山由之インタビュー「不透明な窓、その奥に写るもの」

写真表現から映像まで、奥深い光を捉え続ける奥山由之。その新作は、ひたすらに“東京の不透明な窓ガラス”を写し出したものだった——。10万枚もの写真に託した思い、探究の精神(こころ)を問うインタビュー。

東京の象徴としての“不透明なガラス窓”

──不透明なガラス窓だけを写し出す「windows」シリーズ。テーマやモチーフが決まった経緯は?

建物の窓を眺め、内側でどんな生活が営まれているのか想像するのが、昔から好きでした。海外へ出かけると、路上から垣間見える家の中の様子に心惹かれたものです。

それがコロナ禍で東京に居続けるようになり、近場での散歩が常になりました。そのなかで東京は海外と違って、外部から室内を見通せることは少なく、窓ガラスも不透明なものが多いと気づいたのです。またこの7年来、東京以外の都市で“東京らしい”と感じる光景を撮り集める「TOKYO」シリーズを作っているのですが、その作中にも不透明なガラスはよく写り込んでいました。

奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama
奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama

どうやら自分は不透明なガラスを、東京という街のシンボルとして無意識下で捉えている。ならば、日用品や洗濯物など窓際に置かれたものが不透明なガラスを通して抽象的な模様に見えるさまを撮ることで、東京の人々の表情を描けるのではないか。そう考えるに至りました。

それで2020年4月から22年11月にかけて都内をくまなく歩き、不透明なガラス窓を約10万点撮影していきました。同時に日本の建築様式や、治安などを含む社会・経済状況、人口密度なども絡んだ都市のありようについて、本や資料を読んだり識者に話を聞いたりして、リサーチも進めました。コンセプトに確信を持つための、自分なりの裏付けが必要だったのです。

奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama
奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama

──2年半の時間と10万枚という量は圧倒的です。なぜそこまでのめり込んで探究するのですか。

創作時にはいつも、世界の一点を凝視することから始め、その狭い入り口から普遍的な広い出口に到達するようなものを作りたいと考えています。「windows」は、そんな思いを十分に叶えられる構造を備えています。不透明なガラスという極めて限定的な被写体を撮り続けることで、その土地に根差した固有の人間性という普遍的なテーマを描き出す、そんな見込みがあるわけですから。それでどんどんのめり込んでいきました。どの作品も、作り始めると夢中になって、その創作世界に入り込んでしまうのは毎度のことではありますが。

言葉より直感で写真を選ぶ

──撮影のみならず、撮った写真をセレクトし編集するのにも、かなりの時間をかけたとか。

撮影後のセレクトやレイアウトに半年以上を費やしました。軽々しく言葉を用いて規則的に選んでいくと、見る人に「ああ、こういうルールで構成しているのか」とすぐに言語化されてしまうような作品になり、“言葉の檻”を超えられなくなります。言葉に頼るのではなく、自分の真の直観に根差した写真を選ぼうと心がけました。それで、ずいぶん時間と体力を要することとなったのです。

でもこれは「windows」という作品にとって、必要なプロセスだったと感じています。全身全霊で写真と向き合って、とことんまで掘り下げた作品にこそ、簡単に分析しきれない魅力が宿るはずですし、見る人により広がりのあることを感じてもらえるものになる、そう信じていますから。

奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama
奥山由之『windows』(2020-2022年)より。 © Yoshiyuki Okuyama

──具体性の強い写真表現にしては抽象度の高いシリーズですが、受け入れられると思えましたか。

誰もが無意識下で気に留めていたことが作品という形になって初めて「そうそう、これ前から気になってました!」と言いたくなる表現は、自分も好きです。そして「windows」は、そういう作品になり得ていると思います。少なくとも不透明なガラス越しの抽象的な模様を、きれいだな、面白いなと感じたことのある人は多いはず。「昔住んでいた家に似た窓があった」とか「自分もこういう写真を撮ったことがある」という話を、作品の感想代わりに聞く機会は実際のところ多いです。僕の感じたことや考えたことが、窓だけ写っている“入り口の狭い作品”を通して、いろんな人の記憶と結びつき、奥深く伝わる普遍性を帯びているとしたら、うれしい限りです。

奥山由之『windows』(通常版)赤々舎
奥山由之『windows』(通常版)赤々舎

花を媒介に亡き祖母との対話を試みた「flowers」シリーズに続き、“人以外の被写体を通して人を描く”3部作の2作目。コロナ禍の日々、東京の家々に多く見られる不透明なガラス窓を約10万枚も写し続け、今年6〜7月にamanaTIGPで開催の個展「windows」にて初公開。作品集も刊行した(写真上/サイン入り特別限定版も刊行された)。

Interview & Text:Hiroyasu Yamauchi Edit:Keita Fukasawa

Profile

奥山由之Yoshiyuki Okuyama 写真家、映画監督。1991年、東京都生まれ。2011年に『Girl』で第34回写真新世紀優秀賞を受賞してデビュー。以降、具象と抽象など相反する要素の混在や矛盾を主なテーマに作品制作を続け、MVやCMなど映像の監督業にも携わる。主な個展に「BACON ICE CREAM」(パルコミュージアム/東京、2016年)、「白い光」(キヤノンギャラリーS/東京、2019年)など。
https://y-okuyama.com/

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