人間の存在を問う、ダイナミックなインスタレーション。大巻伸嗣 個展 @国立新美術館
圧倒的な光や闇、空間の広がりを前にしたとき、人間の意識はどうなるのか。ただ「美しい」の一言では済まされない。これは見る側の問題でもあるから。大巻伸嗣 ── 崇高にして底知れぬアートの時空が、国立新美術館に出現する。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年12月号掲載)
「美しいという言葉にも怖さがある」。この春、小誌のインタビューに大巻伸嗣が語った言葉。そう、大巻の作品は美しい。一枚の布がたゆたうように宙を舞う。極彩色の文様が鑑賞者に踏まれて消えていく…。しかし「美しい」の一言で終わらないところにこそ、私たちが向き合うべき何かがあるのだ。
例えば、今回の展示の始まりを告げる「Gravity and Grace」シリーズ。
美しい文様を施された壺から強烈な光が放たれ、動植物たちの影を映し出す。しかしこの光は、核分裂反応の爆発的な力の暗示でもあり、原発事故を経てなおエネルギーに依存し続ける社会への批評をはらんだもの。
これに限らず大巻の作品は、身体のスケールを凌駕する空間や光、音響などを用いて感覚を強く揺さぶり、見る者自身の意識を浮き彫りにしてみせる。生きるとは、この世に存在するとはどういうことか。その問いをめぐる思索の痕跡を、制作中に描かれる無数のドローイングにも見て取ることができる。
本展で大巻は、総面積2000平方メートルもの空間に巨大インスタレーション群を展開する。生と死、環境と意識、自然と文明 ──「美しさ」を超越した体験が、あなたの前途に広がっている。
「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」
「私たちはなぜ生きるのか」という問いに基づく新作をはじめ、東日本大震災〜パンデミックの約10年間に探求した文明と自然、生と死に対する考察の深化が提示される(観覧無料)。
会期/2023年11月1日(水)〜12月25日(月)
会場/国立新美術館 企画展示室2E
住所/東京都港区六本木7-22-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
入場料/無料
URL/www.nact.jp
※最新情報は上記サイトを参照のこと。
Edit & Text: Keita Fukasawa