ヘアの魔術師ユージーン・スレイマンにインタビュー。ヘアを手がけた映画『メドゥーサ デラックス』が公開
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ヘアの魔術師ユージーン・スレイマンにインタビュー。ヘアを手がけた映画『メドゥーサ デラックス』が公開

世界各国の映画祭で話題を集めた英国発のワンショット・ミステリー『メドゥーサ デラックス』。ヘアコンテストを舞台とした異色の映画で、物語の中心となるヘアスタイリストたちが作るモデルのヘアデザインを手掛けたのが、30年以上にわたり世界のトップを走り続けるヘアスタイリスト、ユージン・スレイマン。日本のヘア業界にも彼のファンは多く、話題になりそうな映画だ。

『ヌメロ』のフランス版をはじめ、世界各国の『ヴォーグ』『i-D』『ハーパース バザー』などの表紙で名だたるモデルやセレブリティたちのヘアを数えきれないほど手がけ、アレキサンダー・マックイーン、ヨウジ・ヤマモト、ジュンヤ・ワタナベ、トム・ブラウンなどのショーでヘアを担当。業界屈指の高いクリエイティビティと技術力、センスすべてを備えたトップヘアスタイリストである。

2024SSコレクションシーズンのちょっと前、オーストラリアで休暇中だというユージーンにオンラインでインタビュー。

——ヘアコンテストを舞台にしたミステリー。異色の映画ですが、最初に話がきたときはどう思いましたか?

「以前から映画に携わってみたいという気持ちはもっていました。ただ、僕のスタイルとマッチする映画となるとサイエンスフィクションぐらいかな……なんて漠然と考えていたのですが、この映画の話をもらって『なんてユニークな映画なんだろう!』とすぐに興味が沸きました。トム(監督のトーマス・ハーディマン)は僕のことをよく知ってくれていて、会ってみたらすぐ気が合って脚本も面白かった。ロンドンでヘアの教育やセミナーやヘアショーの仕事をしていたこともあるので、コンテストの空気感や人間関係も手に取るようにわかる。絶対にやりたいと思いました。COVIDの真っただ中で撮影したので、大変なことも多かったですが」

——構築的でシアトリカル。作中ではユージーンらしいヘアスタイルが数多く見られますが、どのようにヘアを作っていったのですか?

「トムとじっくり話し合って、脚本を読みこんで、リサーチすることに時間をかけました。それぞれのキャラクターを理解して研究するのは、非常に楽しい作業でしたね。僕はヘアスタイリストになる前は美術を学んでいたので、絵を描いてイメージを伝えたり、あとはウィッグで実際にスタイルを作ってトムにアイディアを共有していました。僕のアイディアを出発点にして、コミュニケーションしながら進めることも多かったです。トムはファッション学校で学んでいたこともあって、僕の作品をよく知ってくれていたし、遊び心もある。まるでファッションデザイナーと仕事をしているような感覚で楽しかったです」

——映画の現場をどっぷり体験していかがでしたか?

「よくわかると思うけれど、僕たちが普段いる世界はクレイジーだよね。秒単位で作業して、あちこち移動して。でも映画の現場は非常にオーガナイズされていて、いい意味でまるで軍隊のようにきっちりしている。ここの作業には何分、とかすべてが事前にプラニングされているのが僕には合っていて、非常に働きやすかったですね。この映画の撮影自体は4日間、リハーサルに2か月。映画を見るとわかりますが、長まわしでカット数が少なくドキュメンタリーっぽい撮り方だったので、俳優たちは台詞も位置も動きもすべて完璧にリハーサルしている必要がありました」

——以前、撮影やバックステージでお仕事をご一緒したときの記憶では、ショーのバックステージでは大人数のヘアを神業のように短時間で仕上げる一方で、撮影時には非常に緻密に時間をかけてヘアを作られていました。映画はどちらに近かったですか?

「ショーに近いですね。ただ違うのは、映画には時系列があるので作りかけのヘアでいったん撮影して、また仕上げたところで撮影して……というプランニングが必要だったこと。これもしっかりオーガナイズされていました。それにどの角度から撮ってもいいようにヘアを作るのも映画ならではの作業ですね」

——これまでもヘアをテーマに据えた映画はありました。『髪結いの亭主』『シャンプー』『シザーハンズ』……。それのどれとも違う“ミステリー”というジャンルもユニークですね。

「まさにそこが気に入っていますし、それにこの映画はコメディでもあるんです。思わず笑ってしまうシーンも多い。これは監督のトムが強烈なキャラが多いヘアスタイリストという職業をよくわかっているからかも。サウンドトラック(Korelessによるパーカッションとエレクトロニクスの楽曲)も最高。やっぱり、面白いプロジェクトに参加できたというのが僕にとっては大きな喜びです。キャストやスタッフとはリハーサルを含めると一緒にいる時間も長く、とてもいい関係が生まれました。あまりにもすばらしい経験だったので、もう映画をやりたくないぐらい。これを越えるクリエイティブな映画制作の現場はもうないという意味で。映画はまたやりたい気持ちはあるけど、もうやりたくない。今はそんな感情です」

——あなたのアシスタントたちの映画に対する反応はどうでした?

「ワーオ!とみんな作品のユニークさに驚いて面白がってくれました。それに大いにインスピレーションを受けてくれていたと思う。僕のアシスタントはみなクリエイティブで努力家で、普通じゃない髪を好んで作ったりノーマルじゃない変わった感性の人が多いんだ(笑)。君も何人か会ってるよね?」

——はい。それに友達のような師弟関係ですよね。歴代アシスタントは日本人の方もとても多くて。日本でも多くのヘアスタイリストの方たちがご覧になると思いますが、作中で注目のヘアスタイルは?

「どのヘアも僕のお気に入りだけど、フィンガーウェーブをたくさん施したヘアとか、暗闇で光る船を髪のトップに載せた“ジョージアン・フォンタンジュ”もユニーク。作品の冒頭から象徴的に登場して、最後は炎上してしまいますが」

——最後に……30年にわたってトップヘアスタイリストとして活躍していますが、その秘訣は?

「うーん……。秘訣といえるかわからないけど、僕は人にも仕事にも常に情熱と愛情をもって接しています。人と話すのも大好きだし、エネルギーにいつもあふれてる人間。僕自身やりたいことを楽しんでやっている人に引き寄せられるので、若い才能と仕事をするのも大好きで、若手のフォトグラファーともよく撮影します。彼らも僕をすごく慕ってくれて、たぶん僕はビジネスマンでもブルジョワでも重鎮ぶったりもしないし(笑)、軽やかな人間だから接しやすいのかも。お金やバジェットとは関係なく、情熱が集まって面白いものを作るという行動力は大事なことだと思っています」

『メドゥーサ デラックス』

監督/トーマス・ハーディマン
ヘアスタイリング/ユージン・スレイマン
出演/アニタ・ジョイ・ウワジェ、クレア・パーキンス、ダレル・ドゥシルバ、デブリス・スティーブンソン、ハリエット・ウェッブ、カエ・アレキサンダー
10月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
www.cetera.co.jp/medusadeluxe

配給:セテラ・インターナショナル
後援:ブリティッシュ・カウンシル
© UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021

Interview & Edit & Text : Naho Sasaki

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