創立30年を迎えた「アンテプリマ」荻野いづみが進化し続けられる理由 | Numero TOKYO
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創立30年を迎えた「アンテプリマ」荻野いづみが進化し続けられる理由PROMOTION

日本人女性として初めてミラノコレクションに参加し、 「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」を率いてきたクリエイティブ・ディレクターの荻野いづみ。ブランド設立30周年を迎える今年、「ワイヤーバッグ」が再ブレイクし、ファン層を拡大。現代美術家や音楽家などさまざまなアーティストとのコラボレーションにも取り組み、さらなる進化を遂げている。これまでのブランドの歩みを振り返りながら、荻野自身の活動の原動力や時代性の捉え方、今後の新たな展望を聞いた。

知的好奇心に突き動かされ、走り続けた

──1993年のブランドスタートからクリエイティブ・ディレクターとして走り続けてこられましたが、そのパワフルな活動の原動力を教えてください。

「やはりキュリオシティですね。好奇心が旺盛で、一つのところにとどまらず、世界各国を飛び回る生活を続けてきました。ミラノと日本、香港で送る三拠点生活はさまざまなコントラストに溢れていて、それが原動力になっているのかなと思います。また、アート関係の友人が多く、彼らと世界中を回るのもいい刺激になっています。フットワークが軽い友人を持つと世界が広がりますね。パワフルな友人と一緒に過ごしていると、『私なんてまだまだ!』と思わせてくれます」

──目まぐるしい日々の中で、仕事とプライベートの切り替えはどうされていますか?

「あまり意識して切り替えることはないんです。やらなきゃいけないことが山ほどあるので(笑)。仕事とプライベート、両方で優先順位をつけて効率的に行うようにしていますが、あえて切り離さないことで、いいこともあるんですよ。プライベートで悩んでいることがあっても、気がつくと仕事のことを考えたりして、結果的に辛いことに長い時間捉われることがあまりありません」

──ブランドを続けてきた中で、もっとも変わったことはなんでしょうか?

「素材は常により良いものに変えていこうと意識しています。ワイヤーバッグを作るために欠かせないワイヤーコードはもともとイタリアで開発し、生産も現地で作っていましたが、今はすべて日本製です。現状に満足するのではなく、より質の高いものを目指したい。なので、素材への探究心は尽きません」

多様性に溢れたチームから生まれた独創的なクリエイティビティ

──30年前にミラノに制作の拠点を置き、これまでコレクションに公式参加されています。続けてきてよかったことはなんでしょうか?

「今年、ファッションを通じてイタリアの文化を国内外に広めた功労者として「TAOMODA AWARDS」を受賞し、イタリア政府からの招待でシチリア島タオルミーナの古代円形劇場でコレクションステージを行いました。政府が我々の活動を認めてくれたんだと思うと嬉しいですね」

──大変だったことはありますか?

「多国にわたる活動は苦労もありました。ミラノ、日本、香港と3つの拠点を持ち、さらに世界各国を巡る生活を送っているので、私自身『体が持つかな?』と不安になることがあります(笑)。また、さまざまな国の方々と一緒に仕事をすることは、言葉だけでなく、文化や環境の違いを踏まえる必要があり、コミュニケーションの難しさを痛感することも。常識が違うので、スムーズに行かないこともありました。ただ、これは良いことと表裏一体だと思うんです。創業当時から自ずとスタッフは国際色豊かなメンバーが揃っていて、またジェンダーやセクシュアリティに関係なく、多様性のあるチームづくりを行なってきました。さまざまな価値観を持つ人々とともにものづくりができることは私の誇りの一つです」

──「アンテプリマ」の強みは何だと思いますか?

「海外のコレクションに参加している日本のブランドは少なくないですが、クリエイティブチームを国外に置いているブランドはまだ少ないと思います。アンテプリマは30年間、生産と発表を国外で続けています。その経験と知識は強みであり、培った感性は我々のオリジナリティに繋がっていると思います」

“LOVE”をテーマに造形されたネオン管を絵画に描いたネオンシリーズで知られているアーティスト、横山奈美に荻野いづみ自身が書いた “LOVE”という文字で作品制作を依頼。
“LOVE”をテーマに造形されたネオン管を絵画に描いたネオンシリーズで知られているアーティスト、横山奈美に荻野いづみ自身が書いた “LOVE”という文字で作品制作を依頼。

──インスピレーションソースはどこから得ていますか?

「現代アートですね。今、『ザ・ペニンシュラ東京』でアフタヌーンティーを提供しているのですが(9月30日まで)、そこではアーティストの横山奈美さんをクローズアップし、期間中1階ザ・ロビーで彼女の作品を展示しています。若手アーティストとのコラボレーションは大きなインスピレーションをもらえますし、美術館やギャラリー以外の発表の場を作ることで、多くの人にアートと接点をもたらす良い機会になると思っています。また、近々ワイヤーバッグをキャンバスにしたアートピースも発表予定です。アートだけではなく、さまざまな業界の友人たちもたくさんの刺激をくれます。チェリストの村岡苑子さんとステージでコラボレーションしたり、脚本家の中園ミホさんが書き下ろしてくださったオリジナルショートストーリーブックをワイヤーバッグに入れて販売するプロジェクトもあります」

才能あふれるアーティスト、デザイナーをサポートしたい

──2023-24年AWコレクションについて、「GLOW IN THE DARK(暗闇に光を)」をコンセプトにした理由をお聞かせください。

「不確実性な時代の中で、過去に目を向け、未来に問いかけ、自分たちの光を見つけ真価を見出したいと思い、暗闇の中で光を放つ洋服やバッグを発表しました。独自性を追求し、素材の革新に取り組むことで、他にはない輝きを放つアイテムが生まれました。アンテプリマが大事にしているクラフトマンシップや洗練されたデザインはキープしつつ、新しい技術にも挑戦しています」

──1998年に発売して以来、ワイヤーバッグはこれまでさまざまな変化を遂げてきました。改めて、ワイヤーバックはアンテプリマにとってどんな存在でしょうか?

「アイコンですね。フィーチャリスティックなワイヤーというマテリアルを手で編むというコントラストを持ったアイテムは、まさに私が日々目指している「コントラストのあるライフスタイルを楽しもう」というフィロソフィーを体現していると思います」

──近年は特に若い方の支持も増えています。その理由は何だと思われますか?

「『アンテプリマ』はこれまでサイズやデザインなど100種類ほどの『ワイヤーバッグ』を展開していますが、現代の感覚に合わせて、小さいサイズのバッグをフィーチャーしたところ、ファン層がぐっと広がりました。手を伸ばしやすいエントリープライスであること、パーティでもデイリーでも使える汎用性の高いデザイン性が受け入れられていると感じています。汚れにも強く、お子さんを育てるお母さんたちにも人気。手編みなので、光を受けると自然に輝くことも魅力です。また、ワイヤーバッグは型崩れにも強く、丈夫で、サステナビリティの観点からも比較的長く使えることが支持される理由の一つにもなっていると思います」

──SNSの台頭でファッションビジネス観は変わりましたか?

「ファッションショーのフロントロウにインフルエンサーが登場してから、急速にSNSを身近に感じるようになりました。アンテプリマでもSNSは大事なコミュニケーションツールの一つになっています。昨年、ミラノの公園でランウェイショーをしたのですが、そこには招待者だけではなく、ファッションを学ぶ若者や通りすがりの観光客など一般の方も大勢見にきてくださいました。みなさん自由にカメラを向け、SNSでアップされ、ショーの様子が多くの人に見ていただけたのではないかなと思います。今後も私たちなりの方法で「ファッションは閉ざされたものではない」という私たちなりのメッセージを発信できたらと」

──「アンテプリマ」には「デビューに年齢は関係がない」という思いを込めたと伺っています。今年は30周年という節目の年。新たにデビュー(挑戦)したいことはありますか?

「香港の非営利アートセンター『CHAT』とパートナーシップを組み、新しいアートプライズ『ANTEPRIMA × CHAT Contemporary Textile Art Prize』を立ち上げました。テート・モダンやメトロポリタン美術館のキュレーターらがアジア出身のテキスタイルアーティストを選出し、最終選考に残ったアーティストの作品を来年の冬にCHATで展示する予定です。今回のプライズの創出にあたって、テキスタイル・アーティストの活躍の場を広げることをサポートしたいと考えました。私たちのビジネスは才能あふれるアーティスト、デザイナーの存在が欠かせません。このプライズを続けていくことで、次世代アーティストの才能を育成し、業界内外に素晴らしい影響を与えてくれることを期待しています」

ANTEPRIMA POP UP STORE

「アンテプリマ」のアイコンであるワイヤーバッグ「STANDARD(スタンダード)」に、脚本家 中園ミホがこのコラボレーションのために書き下ろしたオリジナルブックが付属されたバッグを期間限定で先行発売する。

日程/10月11日(水)〜10月20日(金)
場所/代官山 蔦屋書店 2号館1階 建築デザインフロア

Interview & Text: Mariko Uramoto Edit: Michie Mito

Profile

荻野いづみIzumi Ogino 東京で生まれ育ち、1980年代に香港へ移住。イタリアンブランドのアジア展開を手掛け、1993年自身のブランド”ANTEPRIMA”を立ち上げる。ミラノコレクションに参加する初めての日本人女性として、アンテプリマのミラノ・モーダ・ドンナ デビューを果たす。アンテプリマのクリエイティブ・ディレクターとして世界を飛び回りながら、ファッションの才能のある次世代の若者を、スポンサーとしてサポートする活動にも意欲的に取り組んでいる。

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