【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.53 ジャニーズ事務所問題 |Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.53 ジャニーズ事務所問題

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.53 ジャニーズ事務所を糾弾するメディアと、これから

Photo: Aflo
Photo: Aflo

BBCの報道以降、ジャニーズ事務所において長年起こっていたであろう性加害の問題が、所属タレントの番組や広告への起用を見合わせたりと、世間を賑わしています。

「ジャニーズ離れ」加速 上場企業が広告への起用見送り増える

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230922/k10014203661000.html

先日ジャニー喜多川氏の後に社長を務めていた氏の姪のジュリー藤山氏から東山紀之氏に事務所の社長交代が発表されたところですが、この件は大きくいうと「喜多川氏が未成年含め、事務所に所属するタレントに性加害行為を相当数行っていたこと」と「その問題を訴える被害者がいて民事では裁判で認定までされていたのに長らくの間、公に扱われなかったこと」の2点に分けて考えられるべき問題だと思います。

前者に関しては喜多川氏に明白な責があり、それを放置してしまったジャニーズ事務所の中での組織ガバナンスの問題であることは言うまでもありません。世間が鬼の首を取ったようにスポットライトを当てているのはこの部分です。

藤島前社長や、東山新社長、所属タレントやワイドショーのコメンテーター皆そろって「噂には聞いていた」と言っていますが、それは僕ですら噂には聞いたことではある程度の話であり、事実に近いレベルで認識していたと考えるのが妥当でしょう。中学生くらいだったか、僕が最初にそういう話を聞いたであろうまだ子供の頃には、芸能界ってそういう芸者の世界、華やかな世界で活躍するためには、男色やらなにやらそういうものを意に反して受け入れてでも権力者たちに気に入られることが重要で、ああいうアイドルはそういうことが起こる可能性を理解、納得した上でスターになることを目指してその世界にいる人たちなのだと思っていました。

古くは花魁、少し前までの舞妓の世界もそうだったのかもしれないし、男色という観点では武士や歌舞伎の世界にもおそらくのところ通じるところがあって、あとはカトリックの司祭とかもそうかもしれません。まぁ広義の風俗的な世界ともいえるのかもしれませんが、ある種の異世界の事情として、少なくとも日本国内においては社会全体の認識としても割とそういうノリでなんとなく容認されてしまっていたところがおそらくあるのでしょう。それを今日までアップデートすることなく引きずってきてしまってきたというのが、この問題のいち本質であるようにも思えます。

芸能界に枕営業というものが未だに存在するのかどうかは知る由もないのですが、権力を傘に男性から女性へ意に反する性的な行為を強要することは犯罪的行為であるとの認識の一般化は国内においてもすでに一定以上強く為されてはいるはずです。ただ、男性同士においてもそういうことが犯罪行為であると今回のタイミングはじめてしっかりと定義されたとも言えるのかもしれません。相手が未成年となるとなおのこと言語道断度合いが増すのは、今にはじまった話ではないはずなのですが。

グローバルにおいては倫理違反、犯罪行為としての認識がとっくに確立されていて、少なくとも本人が望まぬ中でキャリアとバーターで行われるそういった行為は断じて許容されるものではなくなっているのは周知の話で、それはジャニー喜多川氏が亡くなったタイミングでもすでにそうでした。ただ、喜多川氏のそういう部分を皆ある程度は知っていたにもかかわらず、この国のテレビ、新聞、そして社会全体はそこに目をつぶり、むしろその功績を称え、それは時の宰相までがお悔やみを述べ、お別れ会に列席をするレベルのものでした。

先日行われたジャニーズ事務所の第三者委員会の調査の報告内容に目新しい新事実があったかというと、事務所自体が加害の事実を認めたということ以外には大きなものはなく、メディア、広告主含めて我々はそのことを以前から知っていたはずです。絶大な権力に対してタブーを作りやすい文化というところもあるのかもしれないですが、同じ事実に対する理解や認識を、時流によって短期的に大きく変えてしまっていることは実に問題で、それが前述の2点め「その問題を訴える被害者がいて民事では裁判で認定までされていたのに長らくの間、公に扱われなかったこと」につながっているように感じています。

ジャニーズ事務所の中においてのガバナンス等々のアップデートが必要なのは言わずもがなですが、我々の社会全体に必要なのは、そのジャニーズ事務所をこのタイミングになって糾弾すること、番組や広告での起用を見直すこと以上に、なぜ今になってしまったのかということに対する大いなる反省と分析、そしてその構造の改善ではないでしょうか。

メディアも同罪というのはその部分についての話であり、公共財としてのテレビや新聞は第三者委員会的なものを作って、なぜこういう状況が続いてしまったかの分析、そして権力への忖度やビジネスの優先度が倫理を越えない、即ち強制的にタブーを作らないルールをさらに強化すべきです(調査の言及を受けてキャスターが紋切り型のコメントするだけで終わる話では全くなく、これも社長がこのために会見するレベルのことでしょう)。広告主も同様で、そういう強い疑いのある事務所との取引をどうして止められなかったのか、今考えるべきポイントはそこです。さらに別の問題にはなりますが公正取引委員会管轄の優先的地位の濫用をなくしていくにも、ジャニーズ事務所に忖度はいりませんと宣言させること以上に、芸能事務所・メディア全体でのルール・仕組み化づくりが必須なのだと思います。

こういう状況は報道の自由度がG7で最下位の68位であることとかも綿密にリンクしていることで、国家として社会全体でベスト10を目指すなど、政治レベルを巻き込んでマクロのルールから本気でアップデートしていかないと変わっていけないことなのだと思います。そういった観点からみると、結局統一教会の報道とかにも同じように通じる話でそれを今気づいたように振る舞うことであるとか、以前は讃えていたことを直視しないであるとか、同時に終わりにすべきはそういう感覚なのではと、自分も含めてしっかりと考える機会にせねばと強く感じています。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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