ピエール・アルディ×河原シンスケ 対談「パリと東京、美しく異なる美意識」 | Numero TOKYO
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ピエール・アルディ×河原シンスケ 対談「パリと東京、美しく異なる美意識」

長年の友人であるデザイナーのピエール・アルディとアーティストの河原シンスケ。今年、ピエール アルディ(PIERRE HARDY)から両者のコラボレーション第2弾が発表され、GINZA SIXで期間限定のポップアップストアでイベントが行われた。普段はパリを拠点にしながら、活動する2人にパリのこと、お互いのクリエイションについて尋ねた。

──お二人は長年の友人だそうですが、最初の出会いを教えてください。

ピエール・アルディ(以下、ピエール)「シンスケがオープンしたパリのレストラン『ウサギ』で出会いました。あれは15年前くらいですかね。彼のレストランは特別な場所で、個性的でかっこいい人がたくさん集まっている場所でした。私は近所に住んでいたので、よく通っていましたね」

河原シンスケ(以下、シンスケ):「『ウサギ』は単なるレストランではなく、コミュニティが生まれる場所にしたかったんです。かつてパリでパブロ・ピカソやココ・シャネル、ジャン・コクトーら芸術家たちが交流していたサロンのように、人々が集える場所をコンセプトにしていました。ピエールと僕には共通の友人がたくさんいたのですぐに仲良くなりましたね」

──コラボレーションをすることになったきっかけは?

ピエール「私たちの協業は一般的なコラボレーションとはちょっと異なるかもしれません。実はどう始まったのか、はっきり覚えていないんです(笑)。私はシンスケを尊敬し、信じているので、細かいリクエストは何もしていなくて。『バッグとシューズがあるので、好きにアレンジしてください』とだけ伝えて、彼がどう私を驚かしてくれるのか、どんなデザインがあがってくるのかを楽しみにする感じ」

シンスケ「そう! 自然にコラボレーションが始まったような気がします(笑)。ピエールの靴は、グラフィカルでシャープなデザインが美しく、アートのよう。そのイメージを壊さないように意識しながら、自分らしさを加えて行きました。自由に任せていただけることから、彼からのリスペクトや信頼を強く感じています。ピエールも僕も、エルメスと一緒にお仕事をさせていただくことが多いですが、何も制約なく、自由にさせてもらえるんです。このような関係性を築けていることはとても幸運なことですね」

ピエール アルディのアイコンであるキューブカメラバッグやスニーカーに、河原シンスケの代表的なモチーフであるウサギが描かれた。また“FLOWER”“BIRD””WIND”“MOON”と花鳥風月に着想を得たロゴやイラストが加えられている。

──コラボレーション第2弾のストーリーがあれば教えてください。

シンスケ「テーマは自然に対する賛美です。花鳥風月という言葉をキーワードに、花、鳥、風、月の自然を愛すること、自然全体へのリスペクトを込めたいと思いました。新しい概念ではないですが、普段から自分でも大切にしていることです」

ピエール「私のバッグやシューズはキャンバスの役割を果たしていると思います。私はシンスケのようなアーティストではないので、彼のように作品の中に物語を生み出すことはできません」

シンスケ「確かに、僕はいつも何かを作ったり描いたりするときは物語を組み立てることから始めるんです。コップ1つをデザインするにしても、私は必ず物語を作らなくてはなりません。それは僕とピエールのデザイン手法の違いかもしれませんね」

──お二人ともパリを拠点に、シンスケさんは日本にも行き来して活動をされていますが、パリでの生活がもたらしてくれるインスピレーションはどのようなものがありますか。

ピエール「私は生まれも育ちもパリなので、あえて普段からパリにいることを意識していませんが、時々街の美しさに心を打たれる瞬間がありますね。古い建築物が大切に残り続けているので、世界中から多くの人々がこの地に訪れる理由がよく理解できます。またパリは大きすぎることはなく、歩いてどこにでも行けるのでバランスのとれた街。ここ2、3年でより良いエネルギーが生まれているようにも感じます」

シンスケ「私はパリに住んでもう40年近くになりますが、今や日本より、パリに戻るときの方が、『ホームに帰ってきた感覚』があります。毎朝起きて同じカフェに行って、いつも会う顔馴染みのお客さんたちとあいさつして、コーヒーを飲む、それだけで幸せを感じます。もちろん日本と比べて不便なことはたくさんありますが、その生活に慣れてしまっているので、逆にそういう部分も好きになっちゃいましたね」

──東京の街にはどのような印象がありますか?

ピエール「東京はパリとは正反対なのですが、違うところが大好きです。他の国だと“外国人”としてその場所に訪れることがストレスになることもありますが、日本だったら旅行客として過ごすことさえも心地いい。また日本人はフランス人と異なって、親切で礼儀正しく、全てのものにケアが行き届いていますね。私はデザイナーなので、このクオリティーにすることがいかに大変なのかよく分かるので、いつも感動を覚えますね」

シンスケ「僕も外国人のように、日本の美しさに圧倒されることがありますね。東京では皇居の周りが絵のような風情があってとても好きです。東京でタクシー移動をするときは通るようにしています」

──日本で好きな場所はありますか?

ピエール「京都は美しく、違う惑星に来たような感覚になりますね。東京では、原宿や新宿の混沌としているところにいつも魅力を感じます」

シンスケ「僕は京都府宮津市の天橋立に家を建てました。日本海側に住んでみたかったんです。中国やインドから影響を受けているし、また異なる日本の文化が息づいているんです」

Photos: Kouji Yamada Interview & Text: Mami Osugi Edit: Yukiko Shinto

Profile

ピエール・アルディPierre Hardy パリ生まれ。カシャン高等師範学校で造形美術における教職学位を取得。その後、コンテンポラリーバレエ団に参加すると同時に身体のバランスと動きの技法を学ぶ。雑誌のイラストレーターとして、ファッション業界でのキャリアをスタートさせ、クリスチャン・ディオールでシューズコレクションのデザイナーとして活動。1990年からエルメスのウィメンズのシューズデザインを担当し、後にメンズも手掛けるように。2001年にエルメスのファインジュエリーのクリエイティブディレクターに就任。1999年には自身の名を冠したブランドを立ち上げた。
河原シンスケShinsuke Kawahara 武蔵野美術大学卒業。1980年代よりパリ在住のマルチアーティスト 。ブリュッセルの ELEVEN STEENS での個展のほか、パリ造幣局博物館 、パリ工芸美術館、西本願寺伝道院など、国内外数々の展覧会で作品を発表。また、企業、ブランドとのコラボレーションでも作品を多々創出。エルメスとの取り組みは多岐にわたり、香水『ローズイケバナ』のリミテッドボトルデザインや、「petit h (プティ アッシュ )」における多数のプロダクトデザインおよび2023年4月、大阪市中之島美術館にて開催された 「エルメスのpetit h ― プティ アッシュ」展覧会に於いて、空間とコンテンツの領域を超えたアーティスティックなセノグラフィーも手がけた。Numero.jpにて「usagi bon ごはん」を連載中。

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